2017年度ポスターセッションと小学校歴史教科書に関する文部科学省への申し入れ

歴史教科書を考える 第16号
2018.5.27 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会

 昨年発行した『歴史教科書を考える』第15号では、第81回総会(帝京大学)から第83回総会(大正大学)までのポスターセッションの内容について、その概略を紹介した。また、2016年度において提出した2つのパブリックコメント(2016年10月、2017年3月)について資料を提示した。
 本号では、2017年度大会(10月 宮崎公立大学)・第84回総会(明治大学)におけるポスターセッションの内容、および2018年2月に文部科学省に対しておこなった小学校第6学年の社会科教科書に関する申し入れについて、その概略を述べていきたい。
1.ポスターセッションについて
・2017年度大会(10月、宮崎公立大学) テーマ「現行小・中学校歴史教科書における中世以降の考古学資料の扱い」
・2018年第84回総会(5月、明治大学) テーマ「現行小・中学校歴史教科書における中世以降の考古学資料の扱い」
はじめに
 社会科・歴史教科書等検討委員会では、歴史教育における現状と問題点を明確にし、日本考古学協会として取り組むべき課題を提示するため、小学校および中学校の歴史教科書の内容を分析・検討してきた。これまでは、主に旧石器時代から古墳時代にかけての各教科書における記述や写真・図などを検討対象としてきた。古代以降については内容を改訂の都度確認しているものの、こうした発表は行ってこなかった。古代については、宮都や古代寺院に関する記述がどの教科書でも比較的豊富に見られ、特に大きな差異を見出すことはできなかったので、今回は、新たな試みとして小・中学校歴史教科書において、中世から現代までの中で考古学資料がどの程度扱われているのかを検討することにした。
小学校教科書について
 今回検討した小学校6年生用社会科(歴史)教科書4社において、中世以降のページに考古学の成果が反映された事例として、遺跡・遺物そのものが掲載されている例はきわめて少なかった。その中で、石塁(防塁)が4社すべてで扱われているのが目立った。また、教育出版では、「地域に残る戦争遺跡」として、掩体壕(東京都府中市)の写真が掲載されているのが、「原爆ドーム」を除いて、戦争遺跡が掲載されている小・中学校歴史教科書通じて唯一の事例であり、特筆される。
中学校教科書について
 中学校歴史教科書8社では、共通して取り上げられている事例がいくつかみられた。石塁の写真は8社中5社が、「てつはう」の写真は4社が掲載し、そのうち日本文教出版は、加えて長崎県鷹島沖の沈没元船を特集で取り上げている。
 また、日本列島の北と南の異なる文化に関する注目すべき掲載事例としては、室町時代の貿易を扱ったページで、志苔館やその他の道南十二館、そこから出土した埋蔵銭について掲載した教科書が複数見られる。また、教育出版、帝国書院の2社は、オホーツク文化について詳細に記述し、クマの彫像の写真を掲載している。
 中世では、日本文教出版と育鵬社が、特集ページとして、草戸千軒遺跡を博物館と合わせて紹介している。また、世界文化遺産に登録された石見大森銀山も3社が取り上げている。東京書籍が近・現代の記述で、広島での平和学習に続いて、「人権・平和」学習の特集で「北海道とアイヌ民族の歴史」のページを設け、北海道の原始以降を概観すると共に、擦文土器の写真を紹介している。
まとめ
 小・中学校ともに、江戸時代以降に考古学資料を扱っている歴史教科書は、極めて少なく、わずかに広島藩蔵屋敷や箱根関所の復元模型、江戸の木樋の写真が見られるのみである。
 明治時代以降は、東京書籍が地域学習の事例の中で神戸市のレンガ造りの下水管を取り上げているのが唯一の例である。
 言うまでもなく、中世の京都・鎌倉・博多などの都市、近世の江戸・大坂や各地の城下町などの調査成果、明治時代以降でも、旧新橋駅や各地の鉄道遺跡など多様な考古学資料の蓄積が見られ、子どもたちに歴史的理解を促すのに適した資料が数多くあるといえる。
 子どもたちが歴史を学ぶ身近な題材として、その場所に立って、あるいは手に触れて体感できる考古学資料が教科書に扱われることは、子どもたちのより豊かな学びにつながると期待できる。今後、掲載例が増加するよう、我々も努力していきたい。

小学校教科書における中世以降の考古学資料の写真・図など

 

 

東京書籍

教育出版

日本文教

光村図書

石塁(防塁)

てつはう

 

 

鷹島神崎遺跡の元軍船

 

 

 

石見銀山

 

 

 

箱根関所の復元

 

 

 

一里塚

 

 

 

品川台場

 

 

 

東京駅

 

 

 

地域に残る戦争遺跡(東京都)

 

 

 

 

中学校教科書における中世以降の考古学資料の写真・図など

 

 

東京書籍

教育出版

日本文教

帝国書院

清水書院

自由社

育鵬社

学び舎

博多で発掘された磁器

 

 

 

 

 

 

 

武士の館復元模型

 

 

 

 

 

 

 

石塁

 

 

 

てつはう

 

特集

 

 

 

埋蔵銭(鴻巣市)

 

 

 

 

 

 

 

元の大都復元

 

 

 

 

 

 

 

博多鴻臚館

 

 

 

特集

 

 

 

 

新安沈没船

 

 

特集

 

 

 

オホーツク文化クマ彫像

 

 

 

 

 

 

十三湊航空写真

 

 

 

 

 

 

東京書籍

教育出版

日本文教

帝国書院

清水書院

自由社

育鵬社

学び舎

志苔館

 

 

 

 

 

 

勝山館復元図

 

 

 

 

 

 

 

その他道南十二館

 

 

 

 

 

 

 

志苔館埋蔵銭

 

 

 

 

 

 

その他埋蔵銭

 

 

 

 

 

 

 

草戸千軒

 

特集

 

 

 

特集

 

今帰仁城

 

 

 

 

 

 

石見銀山

 

特集

 

 

 

 

一乗谷

特集

 

 

 

 

 

 

 

原城

 

 

 

特集

 

 

 

 

城下町姫路

 

 

特集

 

 

 

 

 

広島藩蔵屋敷模型

 

 

 

 

 

 

 

浅間山噴火人骨発掘作業

 

 

 

 

 

 

 

江戸の木樋

 

 

 

特集

 

 

 

 

神戸レンガ下水管

特集

 

 

 

 

 

 

 

北海道とアイヌ民族の歴史・擦文土器

特集

 

 

 

 

 

 

 

文化財修復

 

 

特集

 

 

 

 

 

身近な地域の歴史の舞台

(戦国期寺院跡)

 

 

 

 

特集

 

 

 

 

2.2018年2月に文部科学省に対して提出した小学校第6学年の社会科教科書に関する申し入れについて
 2016年10月「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」に対するパブリックコメントおよび、2017年3月「小学校学習指導要領案及び中学校学習指導要領案」に対するパブリックコメントにおいて、様ざまな申し入れをおこなったことは『歴史教科書を考える』第15号で述べたとおりである。なかでも、小学校学習指導要領案に「起源」という視点が新たに示されたことを評価しつつ、その始まりである日本列島における人類の出現、旧石器時代を学ぶことは不可欠であり、人類の発生から始まる歴史を社会科の学習に明確に位置づけ、人類の歩みをグローバルに考える視点を育むことを小学校学習指導要領および同解説に盛り込むことを強く要望した。
 日本考古学協会は、上記のパブリックコメント以前にも、文部科学省に対して同様の主張を繰り返し述べてきた。2002年より使用の小学校社会科教科書の本文から旧石器・縄文時代の記述が削除された。その後2008年改訂の小学校学習指導要領において、「狩猟・採集や農耕の生活」が示されたことで、小学校社会科において縄文時代を扱うことが明文化された。しかしながら、旧石器時代は削除されたままなのである。日本考古学協会は、このことに関する要望書および改正案等を幾度となく文部科学省に送付したが、それに対する回答は現在まで得られていない。本委員会としては中央教育審議会教育課程部会での審議のまとめ公表後と、文部科学省の学習指導要領改訂案公表後のパブリックコメントへの準備等、常置委員会としてその設立の趣旨を全うすべく、今後もあらゆる形で活動内容を広げていかなければならない。
 少しでも状況を変えるべく多方面にアプローチしていく必要性を感じているなか、本委員会メンバーより文部科学省のホームページ内「教科書に関する意見・問い合わせ」入力フォームの存在が知らされた。そこで、本委員会として小学校第6学年の社会科教科書本文・年表に旧石器時代を記述してほしい旨を、改めて文部科学省へ申し入れることとした。以下に入力した内容を示しておく。
文部科学省
以下の内容で承りました。
種別 御意見・御要望
氏名 日本考古学協会社会科・歴史教科書等検討委員会
氏名(フリガナ) ニホンコウコガクキョウカイシャカイカ・レキシキョウカショトウケントウイインカイ
メールアドレス hyoukasyo@archaeology.jp
件 名
小学校第6学年の杜会科教科書本文・年表に旧石器時代を記述してほしい
内 容
第6学年の内容(2)ア(ア)「狩猟・採集や農耕の生活」に関して   
日本列島における人類の出現、すなわち旧石器時代について、正規の単元の中で学習ができるように各出版社刊行の教科書本文に記述するとともに年表に位置付けていただきたい。
趣 旨
 現行の学習指導要領においても、狩猟・採集や農耕の生活は明示されており、各教科書会社の記述は、授業時間の学習としては縄文時代からとなっています。しかしながら、日本列島における人類の出現は遅くとも4~3万年前にさかのぼり、狩猟・探巣の生活は旧石器時代から始まっています。
 平成29年6月に示された新学習指導要領解説社会編(以下解説)には、第 6学年の内容(2)ア(イ)「思考力、判断力、表現力等」に関わる内容について、「世の中の様子に着目するとは、例えば、いつから始まったか<中略>ついて調べることである。」(解説109頁1行目)とあります。身に付けさせたい「思考力、判断力、表現力」を育むためにも、もともとはヒトが住んでいなかった日本列島で人類の歴史が「いつから始まったか」を調べることは有意義と考えます。同様に(2)ア(イ)「思考力、判断力、表現力等」に関わる内容について、「代表的な文化遺産に着目するとは、例えば、誰がいつ頃作ったか、何のために作ったか、歴史上どのような意昧や価値があるかなどの問いを設けて<中略>国宝、重要文化財に指定されているもの」(解説1 09頁1 0行目)に関しては、最古の重要文化財の一つである旧石器時代の石器を調べ、似た機能を持つ様々な時代の道具と比較させるなど、例示された問いを設けることで。身に付けさせたい「思考力、判断力、表現力」を育むことができると考えます。
 内容(2)ア(シ)に関連して、「遺跡や文化財、地図や年表などの資料で調べまとめることとは、<中略>  」(解説109頁19行目)とあり、身に付けさせたい「技能」を育むためにも、教科書本文とともに年表にも身近な地域に最初に住んだ人々の歴史として旧石器時代を位置付ける必要があると考えます。
 本号では、2017年度の本委員会の活動内容を紹介してきた。今後、新学習指導要領およびそれに基づいて発行される教科書の内容について、本委員会さらには日本考古学協会として注視し、検討を加えていくとともに、様ざまなアプローチをしていきたい。