社会科・歴史教科書等検討委員会の目的と活動の概要および2018年度の活動内容

歴史教科書を考える 第17号
2019.5.19 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会

1.社会科・歴史教科書等検討委員会の目的と活動の概要
 本委員会は、1998年の学習指導要領改訂で、2002から使用する小学校の歴史教科書本文から縄文時代以前の記述が削除されたことをきっかけに、2006年に小委員会として発足し、2008年からは常置委員会となった。その任務は「考古学の学問的特性や研究成果が学校教育に適切かつ有効に活用されるよう図るとともに必要な働きかけを行うこと」(委員会規定・目的・第2条、2016年施行)である。委員会発足以来、第一に取り組んできたのは小学校教科書への旧石器時代記述の掲載に向けた活動である。このため、歴史教科書やそれを規定する学習指導要領等の分析・検討をおこない、結果を本協会の研究発表会・大会ならびにシンポジウム等を通して公開・発信し、議論を深めてきた。また文部科学省や中央教育審議会に学習指導要領に関して要望書や声明文等を提出してきた。以上の目的を達成すべく2018年度には、以下のような活動をおこなった。
2.2018年度の活動内容
(1)第84回総会におけるテーマセッション
 1)背景と目的
 5月27日に明治大学で開かれた総会で、本委員会は「教科書にある歴史・ない歴史」と題したテーマセッションを開催した。「教科書にない歴史」とは、義務教育段階の教科書に十分な記述がない、例えばアイヌモシリ(北海道)と琉球(沖縄県)の歴史である。「日本国」に含まれない時期が長かったそれらの地域の子どもたちは、教科書では自分たちの地域の歴史を学べない状態である。教科書に記載のない旧石器時代についても同様である。しかし、これらの地域や時代の歴史を等閑視することは日本列島全体の歴史を考えるうえで有効ではない。例えば、石垣島の白保竿根田原遺跡の成果は、東アジアの人類史に貴重な資料を提供している。また、2017年7月公開の『小学校指導要領解説 社会編』に、北海道・沖縄の独自の文化や伝統があることにも触れるようにするとはじめて記述され、今後両地域に関する記述が増えると期待される。
 一方、教科書に記述がない部分を埋めようとする様々な教育実践が各地で蓄積されている。セッションでは、北海道・群馬県・沖縄県での実践報告を通じて「教科書にない歴史」を学ぶことの子どもたちにとっての意義と必要性、そして「教科書にない歴史」を学ぶ際に考古学資料を利用することの有効性を考えた。考古学資料とその研究成果が子どもたちの豊かな学びと教員の新しい授業理解・創造へ導き、延いては考古学研究の活性化を促すことを期待しての開催であった。
 2)概要
 本委員会委員長(当時)大下 明による趣旨説明の後、次の4つの事例発表がおこなわれた。
1.中村和之(函館工業高等専門学校)「北海道の教育におけるアイヌ史・アイヌ文化の位置づけ」
2.高畠孝宗(オホーツクミュージアムえさし)「オホーツク文化を活用した地域学習の実践」
3.小林大悟(伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校)「身近な考古資料を活用して思考力・判断力・表現力を育む授業―群馬県公立中学校社会科における実践を中心に―」
4.西銘 章・大城 航・金城 睦・高良由加利(沖縄歴史教育研究会)「沖縄県における琉球・沖縄史教育の現状と課題」
 中村氏は、北海道における社会教育、学校教育でのアイヌ文化の扱い方の比較と、教室の中で少数者の立場であるアイヌ文化の子どもたちへの配慮などの視点を持った教育実践を報告した。
 高畠氏は、北海道枝幸町の博物館を拠点に、教科書での学習機会が少ないオホーツク文化と「教科書の日本史」とをつなぐことを意図して継続してきた、小・中学生に向けた実践を報告した。
 小林氏の報告は、群馬県内の古墳時代の考古学資料を使い、それらが思考・判断・表現の3つの力を育む教材として有効であることを示した、中学校での教育実践であった。
 西銘氏は、沖縄県歴史教育研究会が5年ごとに実施する「琉球・沖縄史に関する高校生の知識・意識調査」にもとづき、その課題を考えるとともに考古学資料や世界遺産の活用を意図した報告をおこなった。
 3)注目された共通点:教材としての考古学資料の有効性
「教科書にない歴史」とは、北海道や沖縄といった日本列島の北部と南部の、日本中央と異なる歴史だけでなく、教科書に示されるスタンダードとされるものとは別の、列島それぞれの地域から出土した遺跡や遺物、文化財などでこそ語れる、地域固有の歴史のことでもある。群馬県の小林氏の発表内容はそれに関するものであり、子どもたちの身近にある考古学資料を教材として、教科書に示された個々の歴史的な物事が、それぞれの地域では具体的にどのような形で残され、子どもたち自身にそれをどう実感させるかを模索した実践であった。考古学資料が、新学習指導要領の眼目とされる「主体的・対話的で深い学び(いわゆるアクティブ・ラーニング)」にも有効であることが明らかになった。そしてこれは、考古学資料に言及したどの発表にも共通する注目点であった。
 4)今後の課題:考古学と学校教育の協力
 セッションの発表者を選考する過程で考古学と学校教育にかかわる問題点も浮かび上がってきた。当委員会の維持や活動とも深く関連する2点を指摘しておく。今回の事例発表者は4名中1名だけが協会員だったのだが、現状では義務教育に携わる当協会員が非常に少ない点、そして、協会員の枠を外したとしても、小・中学校教諭に考古学資料を有効に使いながら教育実践をおこなっている方がほとんど見いだせなかった点である。考古学資料が「主体的・対話的で深い学び」に有効であるだけに、考古学研究と学校教育とを結ぶ活動をいかに実践するかは、当委員会の取り組むべき重要な課題である。
(2)静岡大会におけるポスターセッションと今後の展望
 1)学校教育と考古学(その1)―各地の教育実践の紹介
 考古学研究と学校教育とを結ぶ活動の一環として考古学資料を用いた教育実践の紹介をおこなった。これまでの本委員会の活動で、学習指導要領をさらに改善し、より理想的な教科書を実現するには、教材としての考古学資料の有効性を、学校現場、学校を取り巻く世間一般に、考古学研究者が積極的に提示し続けることが必要だと考えたからである。教科書問題に関する12年間の本委員会の活動内容と、5月に開催したテーマセッションでの実践例を示し、考古学資料が「主体的・対話的で深い学び」に有効である点を強調した。
 また、4社の小学校歴史教科書を展示し、来場者とともに、「狩猟・採集の生活」について、何を主題として子どもたちにどのように提示しているかを考えた。
 2)今後の展望
 ポスターセッション会場への来場者は残念ながら少なかった。しかし、人数が少ない分、担当者が対応しやすく、教科書の内容について来場者とともに深く考察できる場合もあった。今後も、ポスターセッションでは、その利点を活かし、来場者との対話を重視し、本委員会の活動の理解者を増やしたい。
 本年5月19日の第85回総会では、小学校社会科教科書への旧石器時代の記載を実現するための一環としてのポスターを2枚用意する。旧石器時代を題材にするからこそ語れる歴史について、来場者とともに考えたい。