学習指導要領の今-歴史教育と考古学-(小学校・中学校・高等学校)

歴史教科書を考える 第19号
2023.5.27 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会 

学習指導要領の今―歴史教育と考古学―
 社会科・歴史教科書等委員会では、2008(平成20)年の常置委員会移行以来、第1に小学校教科書に旧石器時代記述掲載を目的に活動を行ってきた(常置委員会移行に至る経緯については2008(平成20)年「歴史教科書を考える」第4号参照)。2006(平成18)年、07(同19)年に教育基本法、学校教育法が改正され、現行の学習指導要領で示されている学力の三つの柱が「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性」と規定された。現行の学習指導要領は2017(平成29)年に小・中学校、2018(平成30)年に高等学校が告示され、順次小中学校の教科書が採択され、昨年度からは高等学校においても年次進行で採択されている。現行学習指導要領のポイントは教育基本法等で示された内容が3つの柱としてまとめられているが、内容は小・中・高等学校とも共通しており、今回の「歴史教科書を考える」第19号「3.高等学校(1)高等学校学習指導要領改訂」のポイントに示してある。そこで、教育課程の節目にあたり小学校・中学校・高等学校の学習指導要領について、歴史教育と考古学の視点から概観したい。
1.小学校
(1)はじめに
 小学校においては、2017(平成29)年告示の学習指導要領(以下指導要領)をもとに新たな教育課程が2020(令和2)年度からスタートし教科書も改訂された。そこで、現行指導要領が示す歴史学習を概観してみよう。今回の指導要領であるが、社会科も含めて、各教科の目標について、前述した三つの柱に沿って示されていることが特徴である。因みに、指導要領は法的根拠を持つ「大綱的基準」であるが、補足として文部科学省は教科ごとに詳細な学習指導要領解説(以下解説)を出している。

(2)小学校社会科歴史学習の枠組み
 小学校の社会科は、①地理的環境と人々の生活、②歴史と人々の生活、③現代社会の仕組みや働きと人々の生活という3つの枠組みからなり、それぞれ中学校社会科の①地理的分野、②歴史的分野、③公民的分野に対応している。歴史学習については、第3学年、第4学年、第6学年で行われているが、本格的な歴史学習が始まるのは第6学年からである。第6学年の社会科学習であるが、以前の指導要領では、歴史的分野を学習した後に、公民的分野を学習することとなっていたが、今回の改訂からは公民的分野を学習した後に歴史的分野を学習することとなった。6月中旬から歴史学習が始まることとなったのであるが、その理由は、解説によると「政治の働きへの関心を高めるようにすることを重視して」とのことである。歴史的分野の学習が6月からスタートすることについては、それまでの期間を歴史学習の準備期間として積極的に評価することもできよう。
(3)第6学年の歴史学習
 歴史学習の項目(構成)は、1目標2内容(1)公民的分野の内容となっており、(2)ア(ア)~(サ)に歴史的分野の知識として身に付ける内容が11時期に区分され時代順に示され(2)ア(シ)は身に付けるべき技能が示されている。3内容の取扱いでは、先に示した(2)ア(ア)~(サ)の各時期についての取扱いが7項目に分かれて記載され、解説ではさらに詳細な内容が示されている。以下、具体的に指導要領が示す歴史学習とその内容について触れていきたい。

(2)我が国の歴史上の主な事象について、学習の問題を追究・解決する活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する。
 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。その際の歴史上の主な事象を手掛かりに、大まかな歴史を理解するとともに、関連する先人の業績、優れた文化遺産を理解すること。
(ア)  狩猟・採集や農耕の生活、古墳、大和朝廷(大和政権)による統一の様子を手掛かりに、むらからくにへと変化したことを理解すること。その際、神話・伝承を手掛かりに、国の形成に関する考え方などに関心をもつこ。
 …
(シ) 遺跡や文化財、地図や年表などの資料を調べ、まとめること。 (下線部筆者)

 上記に示したのは、指導要領が示す小学校歴史学習の2内容(2)身に付けることができるよう指導する知識(ア)~(サ)及び技能(シ)である。下線で示した歴史上の主な事象とは(ア)~(サ)に示した時代の典型的な歴史上の事象や関連する人物、代表的な文化遺産を示している。解説の内容の取扱いでは「小学校の歴史学習は,人物の働きや代表的な文化遺産を中心として学習することとしている。児童にとっては我が国の歴史を初めて学習することから,児童の興味・関心を踏まえて,取り上げる人物や文化遺産を精選する必要がある。」とあり、精選された人物42名が示され、代表的な文化遺産として解説では「国宝,重要文化財に指定されているものや日本遺産に認定されているもの,世界文化遺産に登録されているもの」が示されている。
 下線で示した大まかな歴史を理解するとは「いくつかの時期における世の中の動きを人物の業績や優れた文化遺産を通して捉え,我が国が歩んできた歴史を大まかに理解することである。従って,小学校では 歴史を通史として事象を網羅的に取り扱うものではないことに留意する必要がある。」と示されている。引用等が長くなったが、下線部が小学校歴史学習の特徴を端的に示している。(ア)~(サ)で示された11時期の学習であるが、アクティブラーニングによる問題解決的な学習を志向している。
 そのため、解説の内容の取扱いでは、「指導計画を作成する際には,例えば,(ア)から(サ)までに示された歴史上の事象の中で重点的に扱うものと関連的に扱うものを明確にして授業時間の掛け方に軽重を付けるなど,歴史上の主な事象の取り上げ方を工夫し,小学校の歴史学習に関する目標や内容が一層効果的に実現できるようにすることが大切である。」としている。小学校の歴史学習は通史を扱わず各時期の歴史的事象に軽重を付け学習を進めることから「だんご型の歴史学習」と呼ぶ場合もあるが、中学校の歴史学習との大きな違いがここにある。
 また、小学校の歴史学習が精選された人物42名と代表的な文化遺産について重きが置かれていることを前提としつつも、解説を読み進めると身近な地域の文化財についても一定の理解が示されていることに気付く。それは、指導要領の「内容の取扱い」について「イ アの(ア)から(サ)までについては,例えば,国宝,重要文化財に指定されているものや,世界文化遺産に登録されているものなどを取り上げ,我が国の代表的な文化遺産を通して学習できるよう配慮すること。」とあるが、解説では地域の文化財について以下のように触れられている。「なお,地域の実態を生かし,歴史上の主な事象に対する関心や理解を深める観点から,自分たちの住む県や市によって指定されている文化財などを取り上げることも一つの方法である。(下線筆者)」
 また、今回の改訂では、今まで小学校歴史教育において等閑視されがちであった北海道と沖縄の歴史について、「アイヌの人々には独自の伝統や文化があることにも触れるようにする。また、現在の沖縄県には琉球の伝統や文化があることにも触れるようにする。」という文言が加わった。
 6年の歴史学習で最後に触れておきたいことがある。それは、「内容の取扱い」において「オ アの(イ)から(サ)までについては,当時の世界との関わりにも目を向け, 我が国の歴史を広い視野から捉えられるよう配慮すること。(下線筆者)」と記されている部分である。世界史的視野から日本の歴史を捉えることを素晴らしいのだが、下線部に注目すると(ア)に該当する時期(旧石器時代~古墳時代)が除外されている。
(4)小学校社会科における考古学の扱い
 小学校歴史学習の2内容(2)身に付けることができるよう指導する知識(ア)は、11に分けられた時期区分の最初にあたり「狩猟・採集や農耕の生活,古墳,大和朝廷(大和政権)による統一の 様子を手掛かりに,むらからくにへと変化したことを理解すること。その際,神話・伝承を手掛かりに,国の形成に関する考え方などに関心をもつこと」とある。
 解説では、「狩猟・採集や農耕の生活については,貝塚や集落跡などの遺跡,土器などの遺物や,水田跡の遺跡や農具などの当時の遺物が残されていること,日本列島では長い期間,豊かな自然の中で狩猟や採集の生活が営まれていたこと,大陸から稲作が伝えられ農耕が始まると,人々は耕地の近くに定住してむらを作るようになったことなどが分かることである。
 古墳については,古墳の規模やその出土品,古墳の広がりなどが分かることである。」ここに記された内容そのものが考古学の扱いを示したものとなる。また、身に付けるべき技能として示された「(シ)遺跡や文化財,地図や年表などの資料で調べ,まとめること。」であるが、特に知識(ア)をうけて「例えば,貝塚や集落跡などの遺跡,土器などの遺物について,地域にある博物館や資料館などを利用して調べたり,身近な地域に残されている古墳を観察・見学したり,当時の様子や人物の働きなどを資料で調べたりして,年表などにまとめることなどが考えられる。ここでは,博物館や資料館などを見学して適切に情報を集める技能,(略)」が示されている。
 この技能(シ)であるが、11の時期区分の内、(ア)~(シ)全時期においても求められる技能として指導要領には記されおり、全時代において遺跡を調べまとめる技能を身に付けさせることが可能なのである。
 身近な地域の遺跡についてであるが、指導要領「指導計画の作成と内容の取扱い」の配慮事項において「(3) 博物館や資料館などの施設の活用を図るとともに,身近な地域及び国土の遺跡や文化財などについての調査活動を取り入れるようにすること。また, 内容に関わる専門家や関係者,関係の諸機関との連携を図るようにすること。(下線筆者)」と示されており、地域の遺跡の調査活動とともに考古学研究者を含む専門家との連携を配慮するように記載されている。
 また、この部分の解説では「6学年での我が国の歴史学習などでは,身近な地域や国土に残されている様々な遺跡や文化財,歴史博物館などを直接訪ねて観察・見学したり調査したりする活動を組み入れることができる。」とあり、身近な地域の遺跡への学習が組み込まれている。
(5)小学校社会科における旧石器時代の扱い
 旧石器時代は、指導要領の2内容(2)ア(ア)「狩猟・採集や農耕の生活・・・」に含まれるが、現行の教科書で旧石器時代に触れたものはない。今回の指導要領が告示された際に、文部科学省は都道府県教育委員会の関係者に対して改訂の趣旨等についての説明会を行っている。これを受けて各都道府県教育委員会は管内の市町村教育委員会に対して同様の説明会を実施している。
 ある県においてだが、事前に「小学校社会科で旧石器時代の学習は可能であるか」という質問を寄せられた。県担当者は通常、文科省に問い合わせ回答を行うこととなる。説明会では、「1.小学校では「大まかな歴史を理解」することを目的として通史的な学習は行わない。2.小学校では時代という表現も用いず時期という表現を用いる。」という回答を得た。具体的な回答は得られなかったが、旧石器時代の学習を「狩猟・採集や農耕の生活」の中で学習することは問題ないと考えてよい。指導要領の目指すところを理解し、第6学年の目標を達成する内容であれば旧石器時代の学習は可能なのである。
 教科書に旧石器時代に関する記述がないことが、小学校における旧石器時代学習を困難にしているともいえる。今後、具体的な教育実践の蓄積が必要とされる所以でもある。このことに関連して、社会科・歴史教科書検討委員会の委員でもある小森牧人氏が昨年実践例を発表している(小森牧人2022「地域の旧石器時代を教材とした、歴史学習の導入」『社会科教育』No.761明治図書)。また、岩宿博物館のある群馬県みどり市や黒耀石体験ミュージアムのある長野県長和町の小学校では、旧石器時代の学習を実施している。                               (文責 木村 收)
2.中学校
 (1)はじめに
 現行の中学校学習指導要領(以下、指導要領)は、小学校と同じく2017(平成29)年3月に告示された。第2章・第2節「社会」41~64ページのうち、48~57ページが〔歴史的分野〕に当てられている。さらにこの指導要領の社会解説編(以下、解説)が同年7月に文部科学省から示されている。ここでは、指導要領とその解説の内容を合わせて検討する。
 新しい指導要領に基づく教育課程は2018(平成30)年の第1学年から移行措置として先行実施され、学年進行で2020(令和2)年にはすべての学年が新指導要領に基づく教育課程に移行した。本通信の冒頭で示したように、「三つの柱」については、中学校でも詳細な説明と指示が為されている。
(2)中学校社会科における歴史学習
 〔歴史的分野〕の解説においては、その内容は前要領と大きく変化はないが、以下に述べるように生徒の主体的な活動を促す記述に変化している。
 「2 内容」では、前要領の「(1)歴史のとらえ方」以降、(2)~(6)を古代から現代にそれぞれあてていたが、(1)を下記のように変更してAとし、(2)~(4)をB「近世以前の日本とアジア」、(5)・(6)をC「近代以降の日本と世界」として、大きく3項目に再編されている。また、いずれの項目においても、冒頭に「課題を追求したり解決したりする活動を通して、次の事項を身に付けることができるように指導する。」という一文が掲げられている。
 前要領の「(1)歴史のとらえ方」は「A 歴史との対話」とし、その中に「(2)身近な地域の歴史」が新しい項目として登場している。前要領では「理解させること」という教員を主語とした表現であったが、現指導要領では、すべての項目において、「理解すること」、「表現すること」と生徒が主体となる表現に改められている。「(2)身近な地域の歴史」でも、前要領の記述からさらに詳細に生徒の活動について述べ、イで「次のような思考力・判断力・表現力等を身に付けること。」とし、「(ア)比較や関連、時代的な背景や地域的な環境、歴史と私たちとのつながりなどに着目して、地域に残る文化財や諸資料を活用して、身近な地域の歴史的な特徴を多面的・多角的に考察し、表現すること。」としている。
(3)中学校社会科の歴史教育における考古学の扱い
「B 近世までの日本とアジア (1)古代での日本 (イ)日本列島における国家形成」では、

 日本列島における農耕の広まりと生活の変化や当時の人々の信仰、大和朝廷(大和政権)による統一の様子と東アジアとの関わりなどを基に、東アジアの文明の影響を受けながら我が国で国家が形成されていったことを理解すること。

と述べられている。
「3 内容の取り扱い(2)内容のAの取り扱いについて」では以下のように記されている。

イ (2)については、内容のB以下の学習と関わらせて計画的に実施し、地域の特性に応じた時代を取り上げるようにするとともに、人々の生活や生活に根ざした伝統や文化に着目した取扱いを工夫すること。その際、博物館、郷土資料館などの地域の施設の活用や地域の人々の協力も考慮すること。

内容のBについては、「ア (1)のアの(ア)の「世界の古代文明」については、人類の出現にも触れ、…」と述べて、ここで初めて人類の出現と旧石器時代が扱われることとなっている。 さらに、日本史の部分とその解説では次のように示されている。

(1)のアの(イ)の「日本列島における国家の形成」については、狩猟・採集を行っていた人々の生活が農耕の広まりとともに変化していったことに気付かせるようにすること。また、考古学などの成果を活用するとともに、古事記、日本書紀、風土記などにまとめられた神話・伝承などの学習を通して、当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるように留意すること。

 この記述は、あくまでも国家形成の前段階としての農耕社会に主眼が置かれたもので、人類史の大半を占める「狩猟・採集を行っていた人々の生活」に対する軽視は、「国家形成史」とその前史としての弥生時代から歴史を学べば良いという意識が強く反映され、「日本列島における人類史の流れ」という視点が欠落していることの現れだと考えられる。
 考古学資料そのものの取扱いについては、前要領では、「(内容の取扱い)の エ」で次のように述べていた。
 

 考古学などの成果を活用するとともに,神話・伝承などの学習を通して, 当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるよう留意すること。この項目は,古代までの学習の全般にかかわる留意事項を示している。

さらに前解説では、

 古代までの学習においては,「考古学などの成果の活用」(内容の取扱い(1)カ)を 図るとともに,後に古事記・日本書紀などにまとめられた「神話・伝承などの学習を通して,当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせる」(内容の取扱い)ことに留意する。

と述べ、「考古学などの成果の活用」が「古代までの学習」に限定されている点が問題であった。新しい解説では、次のようにその利用法がより具体的に示されている。

 日本列島における農耕の広まりと生活の変化や当時の人々の信仰については, 日本の豊かな自然環境の中における生活が,「農耕の広まりとともに変化していったこと」(内容の取扱い)や,自然崇拝や農耕儀礼などに基づく信仰が後の 時代にもつながっていることに気付くことができるようにする。その際,新たな遺跡の発掘の成果や具体的な遺物の発見による「考古学などの成果を活用」(内容の取扱い)するとともに,「古事記,日本書紀,風土記などにまとめられた神話・伝承など」(内容の取扱い)の学習を通して,当時の人々の信仰やものの見方に気付くことができるようにする。また,「考古学などの成果」(内容の取扱い)については,それらを報じた新聞記事や地域の遺跡,博物館の活用を図るような学習も考えられる。

博物館・資料館などとの連携については、指導要領「3 内容の取扱い (1)」の中で

ク 日本人の生活や生活に根ざした文化については,政治の動き,社会の動き,各地域の地理的条件,身近な地域の歴史とも関連付けて指導したり,民俗学や考古学などの成果の活用や博物館,郷土資料館などの施設を見学・調査したりするなど具体的に学ぶことを通して理解させるように工夫すること。

と示され、さらに解説では以下のように説明されている。

 内容の A の(2)の「身近な地域の歴史」などにおいて,より具体的に学ぶことが大切である。その際,民俗学や考古学,文化人類学その他の学問や地域史の研究などの成果を生かし,博物館や郷土資料館などに収蔵されている文化財を見学・調査することなどを通して,衣食住,年中行事,労働,信仰などに関わる学習を充実させることが望まれる。

 博物館等の活用においては、単なる見学だけではなく、多くの施設では様々な体験活動が用意されている。そうした活動を通じて、考古学資料を単に知識として学ぶだけではなく、生徒自身が「主体的に」学ぶこと、実際に「同じ人間としての実感」を伴った学習の実施を意識することが、教員にも要求されているといえよう。
(4)北と南の文化をめぐる記載の変化
 今回の指導要領の大きな特徴として、琉球文化とアイヌ文化についての記述が大幅に増えたことがある。解説の「第1章 総説・2 社会科改定の趣旨及び要点・2 改定の要点」の「オ 様々な伝統や文化の学習内容の充実」の中で次のように示している。

(前略)新たに内容のBの(2)や(3)において,「琉球の文化」や「アイヌの文化」についても触れることとし、学習内容の一層の充実を図った。

具体的には、中世の部分において、次のような琉球文化についての記述が見られる。 

 琉球の国際的な役割については,琉球が日本,明や朝鮮,更には東南アジア諸国との中継貿易に従事したことに気付くことができるようにする。また,「琉球の文化」(内容の取扱い)については,アジアとの交流の中で育まれた琉球の独自の文化について触れるようにする。

さらに近世では、次のような詳細な指示が為されている。

 対外関係については,長崎での「オランダ,中国との交易」(内容の取扱い),対馬を通しての「朝鮮との交流」(内容の取扱い),中国との関わりにおける「琉球の役割」(内容の取扱い),蝦夷地においてアイヌの人々が,海産物など 「北方との交易をしていた」(内容の取扱い)などについても扱い,統制の中にも交易や交流が見られたことに気付くことができるようする。また,「アイヌの文化」(内容の取扱い)については,「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議(平成 20 年6月6日衆議院・参議院本会議)」,「アイヌ文化の復興等を促進するための民族共生象徴空間の整備及び管理運営に関する基本方針について(平成26年6月13日閣議決定(平成29年6月27日一部変更))」を踏まえ,先住民族として言語や宗教などで独自性を有するアイヌの人々の文化についても触れるようにする。

 この問題は、本委員会ではすでにこの内容を受けて、明治大学で開催された2018年度総会において「教科書にある歴史、ない歴史」と題してテーマセッションを開催したように、以前から積極的に取り組んできたテーマである。今回の改訂の中にこうした記述が盛り込まれたことは、もちろん国家としての政策の方向性もあろうが、本委員会のパブリックコメントが反映された成果の1つではないかと考えている。
 今回の改訂を受けて、現在使用されている教科書では、各社とも北と南の文化の記述は大幅に増加している。しかし、問題点としてはいずれも各時代の記述の中に両文化が同時代の記述として織り込まれているものが少なく、特集記事としてアイヌ文化や琉球文化が見開きで掲載されているものが大半である。同時代の中で生徒自身の暮らしている地域の歴史が理解できる記載となることが望ましいといえよう。
 中学校段階においても、行政や博物館・資料館などの施設が、これまでの様々な活動の蓄積を踏まえて、学校と相互に連絡を密にし、子どもたちが考古学資料に触れる機会が少しでも増加するように、本委員会としても、教育実践や様々な情報を提供することを通じて、活動を深めていきたい。  (文責 大下 明)
3.高等学校
 (1) 高等学校学習指導要領改訂のポイント
 昨年度(令和4年度)から、2018(平成30)年告示の高等学校学習指導要領が年次進行で実施されている。この学習指導要領では、これまでも育成を目指してきた「生きる力」をより具体化し、教育課程全体や各教科などの学びを通じて資質・能力の育成を目指すことが以下の3つに整理されている。
 

 1 「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)
②「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考
力・判断力・表現力等」の育成)」
 2 「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)

 各教科では、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善が求められている。
(2) 歴史科目の見直し
 学習指導要領改訂により、歴史科目は、すべての生徒が卒業までに学ぶ(共通必履修)科目として「歴史総合」(2単位)、選択履修科目として「日本史探究」(3単位)、「世界史探究」(3単位)が新たに設置された。ちなみに単位とは週ごとの50分を基本とする授業時間数で、2単位は週に2回、3単位は週に3回、授業が行われることを示す。
 「歴史総合」はこれまでの「日本史A」(2単位)と「世界史A」(2単位)が統合された近現代史を扱う科目で、世界史と日本史の両方の視点に立って資料を活用しながら歴史の学び方を習得し、近現代の歴史を探究する科目である。「日本史探究」(3単位)は原始・古代から現代までの日本列島の歴史について、様々な資料を活用しながら多面的・多角的に考察する力を身に付け、現代の日本の諸課題の解決に向けて生涯にわたって探究することができる資質・能力を育成する科目である。両科目とも「主題」や「問い」を中心にした学習や、資料を活用し、歴史の学び方を習得する学習が重視されている。
(3) 「歴史総合」・「日本史探究」における考古学の扱い
【歴史総合】
 「歴史総合」は主に近現代史を扱う科目であるが、科目の目標や中項目「歴史の特質と資料」において、考古学の扱いに関連することが示されており、学習指導要領及び同解説の記載から考古学に関する関係個所を整理した。
 「目標の(1) 諸資料から歴史に関する様々な情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能」に関して、
文献や絵図、遺物や遺構、地図、統計などの幅広い資料の中から、必要な資料を選択して有効に活用することで、社会的事象を一面的ではなく、様々な角度から捉えることが可能となる、とある。
 大項目「A 歴史の扉」の中項目「(2)「 歴史の特質と資料」について、「日本や世界の様々な地域の人々の歴史的な営みの痕跡や記録である遺物、文書、図像などの資料を活用し、課題を追究したり解決したりする活動」を通して、知識や思考力、判断力、表現力等を身に付けることができるよう指導することが示されている。
【日本史探究】
 「日本史探究」は「A 原始・古代の日本と東アジア」、「B 中世の日本と世界」、「C 近世の日本と世界」、「D 近現代の地域・日本と世界」の4つの大項目で構成されている。そのうち「A 原始・古代の日本と東アジア」は人類が日本列島で生活を営み始めた時代から平安時代までを扱っている。学習指導要領及び同解説では、学習内容やねらいが以下のように示されている。

「(1)黎明期の日本列島と歴史的環境」
〇旧石器文化から縄文文化への変化、弥生文化の成立などを基に、黎明期の日本列島の歴史的環境と文化の形成、原始社会の特色を理解する。
〇自然環境と人間の生活との関わり、中国大陸 ・ 朝鮮半島などアジア及び太平洋地域との関係、狩猟採集社会から農耕社会への変化などに着目して、環境への適応と文化の形成について多面的・多角的に考察し、表現する。
〇黎明期の日本列島の変化に着目して、原始社会の特色について多面的・多角的に考察し,時代を通観する問いを表現する。
「(2)歴史資料と原始・古代の展望」
〇原始・古代の特色を示す適切な歴史資料を基に、資料から歴史に関わる情報を収集し、読み取る技能を身に付ける。
〇歴史資料の特性を踏まえ、資料を通して読み取れる情報から、原始・古代の特色について多面的・多角的に考察し、仮説を表現する。
「(3)古代の国家・社会の展開と画期(歴史の解釈、説明、論述)」
〇国家の形成と古墳文化、律令体制の成立過程と諸文化の形成などを基に、原始から古代の政治・社会や文化の特色を理解する。

 なお、中世、近世、近代の項目「歴史資料と中世の展望」・「歴史資料と近世の展望」、「歴史資料と近代の展望」においても、資料から情報を収集し、読み取る技能を身に付け、多角的に考察し、表現する技能を身に付けることが示されている。
 以上の学習のねらいを実現するための学習の工夫について、「地域の遺構や遺物」などを積極的に活用することが求められており、「地域の遺構や遺物」の例として、貝塚、古墳、都城址、城址などの遺構や石器、土器、骨角器、青銅器などの遺物、近代の産業遺産、戦争遺跡、記念碑などがあげられている。
(4) 考古学を活用した授業実践へ向けて
 新科目の「歴史総合」・「日本史探究」においては、生徒や学校、地域などの実態を踏まえて適切な「主題」や「問い」を設定し、その解決に向けて資料を活用して考察する探究型の学習がこれまで以上に重視されている。「問い」を設定し、その解決に向けた「仮説」を立て、資料を適切に収集・分析しながら多面的・多角的に考察する方法は、考古学が得意とするところである。
 「歴史総合」は近現代史を中心に扱っているため、さまざまな制約があろうが、通史を扱う「日本史探究」においては各時代で考古学を活用した学習が期待できる。例えば、縄文時代に関して次のような学習が展開できる。

【縄文時代の学習例】
〔問い〕時代の変化について、「気候の変動や、地域の気候や環境の特色は、人々の生活や,文化の推移にどのような影響を及ぼしたのだろうか。
〔仮説〕縄文文化が長く続いたのは、日本列島の環境と縄文文化の暮らし方が適合していたからではないか。
〔調査〕発掘調査の成果の活用、博物館・資料館、遺跡等での遺構・遺物の観察、聞き取り調査、など。
〔発信〕レポート・論文の作成、ポスターセッション、口頭発表、ディスカッション、など

 古墳時代では、「古墳の特徴の変化から当時の政治権力や社会の変化を読み取ることができるか」という「問い」を設定し、時期ごとの古墳の分布、規模、形態、副葬品などを確認し、変化の要因を多面的・多角的に考察するなどの学習が考えられる。    また、学習指導要領及び同解説には、地域の文化遺産や博物館・資料館などの調査・見学などの指導を工夫すること、諸資料を整理・保存することの意味や意義、文化財保護の重要性に気付くようにすること、専門家や関係諸機関などとの円滑な連携・協働を図り、社会との関わりを意識した指導を工夫すること、などが示されている。
 「日本史探究」は2023(令和5)年度から順次、全国の高等学校で実施されるが、選択履修科目であるためすべての生徒が学ぶ訳ではない。ただし、授業の工夫次第によっては考古学の成果や資料が活用され、その魅力を多くの高校生に伝えることができる。                   (文責 武井 勝)