弥生時代の青銅器生産は、製品の型式分類と時期的変遷の検討から、これまでも社会の発展段階に対応していることが明らかにされてきた。そこで、青銅器生産体制と社会の発展段階の対応関係をいっそう明らかにしようと、製品にくらべて等閑視されてきた観のある鋳型に視点を据え、その製作痕跡である加工痕を細緻に分析し、地域性や時期変遷を解明している。その分析に当って、日本列島に隣接する中国や朝鮮など東アジアの諸地域で知られている青銅器の生産体制を視野に入れ、比較対照している。また、資料の豊富な小形仿製鏡や巴形銅器の細緻な分析から、中期のピラミッド型(自立・分散型)から後期のネットワーク型へと製作や流通が変化していく様相を復元し、それが部族社会から首長制社会へと変化する社会の変化への対応であることを明らかにしている。このように、従来研究されてきた製品の検討に加え、鋳型の製作痕跡、地域性、時期変遷などを解明した実証性の高い内容は弥生時代青銅器研究に新たな境地を開拓した点で高く評価ができる。言い換えれば、生産体制を論ずるにあたって製品のみでは不十分であることを喝破している。生産体制であるから、たとえば工房や工人組織などの解明も重要であり、鋳型研究の開拓によって青銅器研究の新たな視点を提起した著者に今後を期待したい。
このように、学界に新たな青銅器研究の方向性を示した本書は、弥生時代青銅器生産体制の総合的研究書として高水準の著書であると評価できる。選考委員会は、本書を日本考古学協会大賞候補として推薦する。