中・近世の北方史、北方交易史、蝦夷地の研究は、従来、考古学の成果を取り入れつつも、文献史学を中心に行われてきた。また、アイヌと和人の交易の推移や北海道島およびカラフト(サハリン島)への和人進出の実態を時空ごとに把握するために、アイヌ考古学と中・近世考古学が研究上、十分な接点をもってこなかった。これに対して本書は、まず編年の柱である出土陶磁器の精緻な調査と時期区分に基づきながら、アイヌ考古学と中・近世考古学の融合的研究を具体的に実践している。そして、その時期区分が蝦夷地の経済史と政治史の動向に連動することを明らかにし、融合研究の成果を陶磁史研究の枠組みに留まらず中・近世史学へ昇華させることを目指している点は、評価できる。つぎに、考古資料だけでなく、文献史料、絵画、墓標・社寺奉納物を含む石造物などのじつに多様な資料を導入して、総合的に蝦夷地の内国化の実態に迫ろうとする分析方法も高く評価できる。とくに、墓標を含む石造物の悉皆調査とその成果は、新境地を開拓し、文献史学へも大きな影響を与えている。本書におけるこのような分析方法は、じつは著者が前任地で近世城郭跡を発掘調査した際に、出土陶磁器や東北地方の近世墓の多様な副葬品の編年研究を実践する過程で培われたものである。
なお、既発表の論文を一冊の著書にまとめる際に、各節の「はじめに」を重複を避けてより整理された書き方にし、「序章」で簡単に触れられている研究史についてもう少し丁寧にまとめれば、より完成度の高い著書になったであろう。本書は、刊行からわずか1年余で出版元に在庫なし、という高い関心がもたれた好著であるので、その作業は重版に際して期待したい。また、考古学的に不明な部分が多いカラフト(サハリン)島への和人の進出については、著者に白主会所跡やアイヌ集落跡のロシアとの共同発掘をぜひ実現していただき、今後の解明を期待したい。
以上のように、学界に新たな中・近世の蝦夷地研究の方向性を示した本書は、高水準の著書であると評価できる。また著者は、「あとがき」で亀ヶ岡文化を中心とする縄文文化研究との二足の草鞋を履いていると述べているが、縄文文化の研究でも学際性を有する高い業績をあげながら、本書をまとめ上げた点も高く評価できる。推薦委員会は、本書を日本考古学協会大賞とする。