本書は、ユーラシア草原地帯とその周辺域における、前2千年紀から前1千年紀初頭の青銅器時代の動態解明を試みたものである。それはまた、人類史上の古くて新しい課題である「初期遊牧民文化の起源」を探る試みでもある。
ユーラシア草原地帯とは、長城地帯以西、モンゴリアからアルタイ山脈・サヤン山脈を越えてカザフスタンに通ずる地域である。この広大な地域のうち、アルタイ山脈の北側に位置するミヌシンスク盆地と、アルタイ山脈以東のモンゴリアが、当該地域の青銅器文化展開を解明するキーになる。
著者は、この地域の青銅器について、型式分類、動物紋の系譜整理と分類、さらに成分分析等、多角的な追及を行っている。
著者によると、ミヌシンスク盆地およびモンゴリアの文化展開は次の通りである。
すなわち、青銅器時代Ⅰ期(前2千年紀前半。石器にかわる道具としての青銅器の出現期)、青銅器時代Ⅱ期(前2千年紀後半。非実用の精製青銅器が広範囲で出現)、青銅器Ⅲ期(前2千年紀末~前1千年紀初頭。工具等の実用的青銅器の役割が増す時期)、そして青銅器時代Ⅳ期(前1千年紀前半。青銅器時代の最終段階、一部に鉄器出現)、である。
上の各期のそれぞれの文化的特徴をみると、青銅器時代Ⅰ期は青銅器の使用開始期、Ⅱ期は青銅器が‘様式’を形成する段階、Ⅲ期は騎馬とそれに伴う遊牧が開始される段階、そして、Ⅳ期は個人墓の造営が認められる段階。すなわち、リーダーの出現が想定される段階となる。
以上のように、ミヌシンスク盆地とモンゴリアでは、青銅器の出現から、‘様式’の成立とその発展といった一連の流れが認められる。そこには前2千年紀から前1千年紀初頭にかけての、絶えざる地域間交流も認められるのである。それはすなわち、当該地域の青銅器文化が「忽然」と現れたものでないことを示すものである。
本書は、具体的な考古資料操作を通して、当該地域の青銅器時代展開の実相に迫っていると評価できる。また、今後の活躍も期待されることから、考古学協会奨励賞に推薦するものである。
日本考古学協会賞選考委員会講評
第10回協会賞選考委員会を2020(令和2)年3月4日(水)に開催した。協会賞・奨励賞についてであるが、本年度は9件と昨年に引き続き多くの応募があり、協会賞が定着してきた感がある。
応募の対象となった業績についてみていくと、地域的には日本を主たる対象としたもの8件、中央ユーラシアが1件であった。一見、日本考古学分野が多いように感じるが、日本の中には朝鮮半島について論考を含むものが3件、また、琉球列島について論考が1件あり、中央ユーラシアの1件を加えると、日本列島の周辺国・地域に応募の研究・業績の対象が広がっているともいえるであろう。
9件の応募の業績のうち6件が、博士学位論文をもとにした論考・業績であり、今回応募された業績の質の高さを示している。一方、応募者の年齢層を見ると、30歳代が最も多く4名、40歳代が3名、50歳代1名、60歳代1名であり、30歳代が多いことは博士学位論文をベースにした業績が多いことと関係している。今回の業績は先述したように、総じて論文として質の高いものであって頼もしく感じたが、一方において、考古学的活動・実践との結びつき、もしくは考古学の啓発や普及、社会貢献の増大との結びつきにおいては、やや物足りなさを感じる点もあった。
日本考古学協会賞規定の目的にある「考古学の啓発と普及、人材の育成、社会貢献の増大など」に、これから期待できる若手の業績をより評価して、今回はあえて大賞を該当なしとし、奨励賞の候補を2名とした。今回は表彰できなかった若手研究者の業績にも優れたものがあり、未来の大賞候補として今後の活躍を大いに期待したい。
最後になるが、研究の場における優れた論考が多くみられた今回の応募業績の中にあって、選考に漏れたものの、地質時代から歴史時代の変遷を考古学的あるいは埋蔵文化財的に扱い、地域のビッグヒストリーにチャレンジした業績は、新鮮かつ重要に感じるものであった。フィールド・ワークや現場での啓発や普及活動をベースとした業績も、盛んになることを期待したい。
なお、論文賞に関しては今回初めて邦文誌・英文誌ともに該当なしとなった。会員には奮って機関紙への投稿をお願いしたい。