高輪築堤跡の保存に関する要望書

埋文委 第9号
2021年1月22日

 

 国土交通大臣             赤 羽 一 嘉 様
 文化庁長官              宮 田 亮 平 様
 東京都知事              小 池 百合子 様
 東京都教育委員会教育長        藤 田 裕 司 様
 港区長                武 井 雅 昭 様
 港区教育委員会教育長         浦 田 幹 男 様
 東日本旅客鉄道株式会社代表取締役社長 深 澤 祐 二 様

 

                                                           一般社団法人日本考古学協
                                                            埋蔵文化財保護対策委員
                                                             委員長 藤 沢  敦

 

高輪築堤跡の保存に関する要望書の提出について

 

 標記の件について、別添書類のように、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容を有するものであり、貴職におかれましては、適切な保存の対策が講じられることを要望いたします。

 なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2021年2月15日(月)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。

 

1 提出書類  
  別添のとおり 1通

 


埋文委 第9号
2021年1月22日

 

 国土交通大臣             赤 羽 一 嘉 様
 文化庁長官              宮 田 亮 平 様
 東京都知事              小 池 百合子 様
 東京都教育委員会教育長        藤 田 裕 司 様
 港区長                武 井 雅 昭 様
 港区教育委員会教育長         浦 田 幹 男 様
 東日本旅客鉄道株式会社代表取締役社長 深 澤 祐 二 様

 

                                                           一般社団法人日本考古学会
                                                            埋蔵文化財保護対策委会
                                                             委員長 藤 沢  敦

 

 

高輪築堤跡の保存に関する要望書

 

  江戸が東京と名を変えて間もない明治五年 (1872)、我が国初の鉄道が新橋-横浜間に敷かれました。明治政府の技術者はこのとき、イギリス人技師の指導の下に高輪付近の浅瀬に海岸線と平行に堤を築き、その上に線路を敷設しました。それは日本の伝統的な技法に西洋の進んだ技術を加えた、当時の最先端の土木工学を駆使したものでした。JRを中核とする、日本が世界に誇る鉄道文化は、実にここから始まったのです。それは、西洋の産業革命にも比肩しうる、日本における近代の幕開けの象徴でもありました。この築堤上を走る汽車を描いた著名な錦絵は、「文明開化」を実感する人々の喜びをよく表しています。

  今その築堤が、1.3㎞にわたってほぼ当時のままの姿で私たちの前に現われました。延々と続く石垣や緻密な石組みで作られた橋台など、見る者を圧倒するその威容は、近代化を目指した明治の人々の意志をじかに感じさせるばかりでなく、明治初期の土木技術を探る上でも計り知れない価値を有しています。発掘調査で明らかになった、単線から複線化、そして3線化に至る築堤拡張の工程は、日本の鉄道史そのものです。

  本遺跡は、日本の近代化遺産として、疑問の余地なく国史跡あるいは国特別史跡に相当します。その価値は、世界遺産「明治日本の産業革命遺産」にも何ら遜色ありません。この遺跡について東日本旅客鉄道株式会社は、遺跡を部分的に保存または移築する意向を表明しています。しかし、発見された築堤跡は、国指定史跡旧新橋停車場跡から直接続くもので、両者は切っても切れない関係にあります。一部だけの保存や移築という措置では、この遺跡の意義を根本から損ないます。それは高輪の地で海上に建設された、あの錦絵に描かれているとおりの姿であってこそ意味を持つのです。

  高輪築堤跡は近代日本の至宝です。遺構全体を現地で保存する以外の選択肢はありません。これを高輪一帯の新たな街づくりの中心に据え、先人の努力に市民がじかに触れられるようにすること、それが現代を生きる私たちの使命と考えます。

 以上により、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、下記の通り要望いたします。

 

 

1 高輪築堤跡の全面的な現地保存にむけて、東日本旅客鉄道株式会社は、開発計画を抜本的に見直すこと。

2 港区・東京都・文化庁・国土交通省は、高輪築堤跡の保存・活用にむけて検討を開始すること。