『高輪築堤跡において破壊を前提に計画を進めることに反対する。』日本考古学協会会長コメント(動画配信あり)

2021年5月31日
日本考古学協会 会長 辻秀人

はじめに

 JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)は、2021年4月21日高輪築堤を一部保存する一方で大部分を調査の後破壊する方針を公表いたしました。私ども日本考古学協会は同日付で会長コメントを発出し、高輪築堤の全面的な保存を前提に計画見直し、高輪築堤跡を広く社会へ公開すること、現地保存のために最後まで努力することを求めてきました。

しかし、残念ながらJR東日本は方針を変えず、大部分の破壊を前提とする調査に着手してしまいました。ここで改めて、日本考古学協会会長として大部分の破壊を前提とする計画の実行に反対いたします。

地域、社会・そして国民に調査成果、遺跡の価値を十分に開示していない

これだけの遺跡であるにもかかわらず、いったいどれだけの人がこの遺跡を知っているでしょうか。JR東日本は、調査成果の公表にきわめて消極的で、私の知る限り、これまで広く社会に向けては、4月9日報道発表、4月10日に人数を限定した一般公開、5月20日に私ども日本考古学協会を対象とする公開に限られます。共に町を作り、生活を営む東京都を含む社会の皆さんに広く遺跡を公開し、その価値と重要性を十分に開示する必要があると考えます。

あらためて、JR東日本が「残す」としているのは、発見されたうちのほんの一部に過ぎない、ということを強調したいと思います。これだけの遺跡をどのようにするのかは、広く国民の共有認識のもとに判断されなければなりません。日本最初の鉄道の跡が、ごく限られた人々のいっときの判断によって壊されていいはずはありません。JR東日本には、近隣住民を始め広く国民と情報を共有し、社会のコンセンサスの下に遺跡の将来を判断されることを強く求めたいと思います。

日本イコモス国内委員会が高輪築堤の世界的価値を認め、全面的な保存を求める要望書を発出

日本イコモス国内委員会は、ユネスコ世界遺産登録審査の諮問を担当しているイコモス(国際記念物遺跡会議)の世界的な活動の一翼を担っていますが、5月24日に全面保存と高輪開発計画の見直しを求める要望書を発表しました。内容は多岐にわたり、精緻を極めていますが、およそ次のようなことが書かれています。

世界遺産の可能性を秘めた価値

高輪築堤が日本の近代化遺産として21世紀における最大の発見と位置付けられること。文化史の上からも土木工学史の上からも、世界的な意義と価値を有すること。東アジア最初の鉄道遺跡であることも併せ、十分に世界文化遺産に値すること。

再生の活力としての遺跡

何より、この日本最初の鉄道遺跡を現代の新たな街並みの中に甦らせることが、コロナ禍に苦しむ社会にとって希望と再生の活力になるのではないか。

イコモスのこれらの言葉に私たちは深く共感します。現代の地上に現れた最初の鉄道の軌道上を歩くとき、私たちは明治の先人の近代化に向けた熱意を体感し、誰もがその偉業に深い敬意を抱くに違いありません。それは将来長きにわたって、ときの社会情勢に左右されない活気を高輪の街に与えることでしょう。それこそが再開発事業の究極の目的に適うことではないでしょうか。

高輪築堤跡の大きな価値と次世代に伝える必要性を総理大臣が指摘

 5月29日、菅総理大臣が萩生田文部科学大臣らとともに現地を訪れました。総理は直かに見たこの遺跡について感動を語り、「将来に伝えるべき」として、「史跡指定を考えたい」と言っています。私たちは、文化庁がこの言葉を受けて早急に国指定史跡とすることを望みます。また総理にはぜひともこの遺跡の意義に一層の思いを寄せ、全体を保存する方向を考えていただきたい、と思います。総理も言うように、開発と遺跡保存・公開は決して対立するものではなく、むしろ遺跡の活用こそ開発の本義に沿うものです。

最後に

日本イコモス国内委員会の要望書、菅総理大臣のご指摘は、これまで日本考古学協会が声明、会長コメント等で主張してきた内容とほぼ共通しています。つまり、高輪築堤跡は国の宝であり、世界の宝とされる可能性も秘める重大な遺跡で、全面的に保存し、次世代に伝える必要があるということです。ここに改めて日本考古学協会は高輪築堤跡において破壊を前提に計画を進めることに反対し、全面的な保存と、従来の計画を再検討のうえ新たな町作りの中核に据えることを要望いたします。なお、残念ながらすでに破壊を前提に調査が進行している現状があります。貴重な遺跡の調査ですので、少なくとも期限を切らず、精緻な調査を実現するべきであることを申し添えます。

声明読み上げはこちら

URL:https://youtu.be/Qzo7JkRVu2I

 

日本イコモス国内委員会 高輪築堤要望書