広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について

埋文委 第3号
2022年7月8日

 

広島市長 松井 一實 様

 

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘

 

 

広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について

 

 標記の件について、別添書類のとおり要望いたします。

 なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2022年 7月29日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。

 

 1 提出書類
   別添のとおり 1通

 


埋文委 第3号
2022年7月8日

 

広島市長 松井 一實 様

 

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘

 

広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について

 

 広島城跡の一画、サッカースタジアム建設予定地は、国史跡広島城跡の西に隣接しており、発掘調査実施前から重要な遺構の存在が予想される地点でした。発掘調査に先立つ試掘調査は、発掘調査対象面積に比して規模はわずかで、近世の遺構が良好に残存している可能性があると結論づけられたものの、近代の遺構の把握は十分ではありませんでした。

 その後の発掘調査では、旧陸軍中国軍管区輜重兵補充隊の施設が非常に良好な状態で確認されました。全国的にも軍施設の発掘調査例は少ないうえ、ここでは被爆の痕跡をとどめている可能性があり、貴重な歴史資料であることは明らかでした。そのため、私ども日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2021(令和3)年8月に、調査成果を広く公開し、市民・学識経験者の意見と専門的知見・評価の収集に努めること、遺跡の価値を十分に検討し、事業計画の見直し・現地保存を含めた遺跡の保護策を講じること、十分な発掘調査を実施するため、必要な期間を確保することを求めました。

 同様の要望は被爆者団体や市民団体からも出されました。こうした声に対し、広島市はわずかな遺構の切り取りや、近世遺構の調査範囲を工法変更により一部縮小するといった措置をとったのみで、発掘調査は当初計画していた期間内に収めました。市民や学識経験者からの多くの要望に対し、広島市が誠実な対応をとったとは到底いえず、また貴重な遺構が永遠に失われる結果となったことに、強く遺憾の意を表します。

 事業地選定、試掘調査、発掘調査の各段階で埋蔵文化財についての評価を見直す機会があったにもかかわらず、そこで充分な検討や適切な手続きをとらなかったことに今回の問題の一因があります。本来、文化財保護を最優先すべき文化財保護担当部署が、開発スケジュールを重視した結果であり、広島市の文化財保護体制の脆弱な一面を露呈したものに他なりません。他の政令市と比較しても、その脆弱さは明らかです。近い将来、中央公園全域にわたる再開発、旧市民球場跡を含む広島城の範囲内での再開発、広島城天守の木造再建などが計画されていますが、現在の広島市の文化財保護体制下でこれらの事業が問題なく完遂できるとは到底考えられません。また、地下に眠る被爆の痕跡の存在を適切に認識し、保存・継承していくことは、原爆被害を広く訴える国際平和文化都市を掲げる広島市において、喫緊の課題といえます。

 将来の広島市民が、自分たちの都市の歴史を物語る遺跡や被爆の痕跡を共有できるよう、広島市はすみやかに文化財保護体制の整備・充実をはかり、実現することが必要です。

 以上により、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は下記の通り要望いたします。

 

 

1 広島市における文化財保護体制の整備・充実をすみやかにはかり、実現すること。

2 サッカースタジアム周辺および周知の遺跡として登録されている広島城跡の範囲内において、総合的かつ適切な埋蔵文化財保護措置を講じること。

3 被爆の有無やその状況について、専門家を含めて検討する体制を整備し、被爆の痕跡をのこす埋蔵文化財は被爆遺跡・被爆遺構として保存・継承すること。

 

以上