「遺物の分析試料の不正採取」について

2022年7月29日

 

「遺物の分析試料の不正採取」について

 

  2019年に岩手県立博物館において金属製遺物に対する破壊に等しい不正な試料採取が疑われる事態が発覚した。日本考古学協会は同年7月27日付けで会長声明を発出し、関係機関に対し、真相究明と再発防止を求め、出土遺物の調査や管理体制の整備が必要であることを指摘した。

 岩手県教育委員会では、2019年から本格的な調査を実施し、2022年3月15日付けで『「岩手県立博物館における文化財への不適切行為事案」調査結果(最終報告)』を公表した。報告書では、調査対象資料5,301点のうち重要文化財2点、一般文化財101点の計103点について所有者に無断で切り取り行為が行われたと認定されている。

  日本考古学協会は、最終報告の公表を受け、2022年5月5日に会長、副会長の2名が保存処理の過程で切り取りを実施した当該会員と面談し、事実関係の確認を求めた。当該会員は、重要文化財2点については文化庁の指示に基づいているとしたが、一般文化財101点のうち多くについて切り取りは所有者の確認を得ていないことを認めた。

  日本考古学協会は、2006年に倫理綱領を定め、会員の守るべき規範を示している。当該会員が所有者の同意を得ずに実施した切り取り行為は、倫理綱領に定める「保存活用のために努力」し、「適正に保存管理」することに著しく違反すると判断される。

  一方、保存処理の実施にあたって資料所有者及び業務委託者との十分な協議と認識の共有が不十分であったこともまた今回の問題が起きた大きな原因の一つであったと考える。

  今後は、出土資料の保存処理の依頼、委託にあたり、調査者と保存処理を請け負う者との間でどこまでの保存処理を行うのか、破壊分析を行うか否か等、保存処理の内容について十分な意思疎通を図るとともに作業過程で状況が変化した場合の取り扱いを随時確認する必要性を十分に認識すべきである。

 会員諸氏には、このような事態を踏まえ、保存処理の依頼、委託に当たっては、担当者と十分に話し合い保存処理内容を詳細に確認の上で協議事項を文章化し実行されるよう望みたい。

 

一般社団法人 日本考古学協会
会長 辻  秀 人