史跡広島城跡一帯における文化財の総合的な保存・活用に関する要望書

埋文委  第9号
2023年1月27日

 

文化庁長官       都倉俊一 様
広島県知事       湯﨑英彦 様
広島県教育委員会教育長 平川理恵 様
広島市長        松井一實 様

 

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田康弘

 

 

史跡広島城跡一帯における文化財の総合的な保存・活用に関する要望書

 

 標記の件について、別添書類のように、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容を有するものであり、貴職におかれましては、適切な保存の対策が講じられることを改めて要望いたします。

 なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2023年2月22日(水)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。

 

 1 提出書類
   別添のとおり 1通

 


埋文委 第9号
2023年1月27日

 

文化庁長官       都倉俊一 様
広島県知事       湯﨑英彦 様
広島県教育委員会教育長 平川理恵 様
広島市長        松井一實 様

 

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田康弘

 

 

史跡広島城跡一帯における文化財の総合的な保存・活用に関する要望書

 

 史跡広島城跡周辺では、現在、サッカースタジアムや広島城三の丸歴史館などの整備計画や建設工事が進められています。当該地は、近世城郭広島城に含まれる区域であるほか、近代には旧陸軍関係の施設が設置されるなど、広島市の歩みを理解する上では欠くことのできない歴史的環境を形成しています。こうした当該区域の重要性に鑑み、当会ではこれまでにもサッカースタジアムの建設計画の再検討や、文化財保護体制の整備・拡充を要望してきました。しかしながら、現在進められている事業は、これまで伝えられてきた歴史的環境を著しく損なう方向へと進められています。

 

 とくに、広島城三の丸歴史館の建設予定地は、広島城内堀に隣接する場所であり、1988年4月に策定された『史跡 広島城跡保存管理計画書』(以下、『保存管理計画』)において、「史跡広島城跡に付随したものとして追加指定し、保存を図る必要がある」とされています。1989年3月に策定された『史跡 広島城整備基本計画書』(以下、『整備基本計画』)においても同様の認識の元、「史跡と一体的に整備を行なう範囲」に指定されています。歴史館建設によって、史跡追加予定地である三の丸の遺構・造成土が破壊されることは絶対に認められません。そもそも、建設計画予定地は二の丸へ通じる通路にあたり、近世において建物等の構築物が配置されたことはありません。近世城郭としての防御機能に関連して広場的空間を維持することに意味があり、これまでも景観が維持されてきた場所です。それにもかかわらず現状を変更して新たな施設を建設することは、文化財としての価値を損なうものにほかなりません。

 

 こうした問題が生じる背景としては、『保存管理計画』、『整備基本計画』が継承されず、広島市街地の中核に位置する広島城跡一帯の歴史的環境を活かしながら、その魅力を発信していくための総合的な計画がないままに、個別の計画が策定されていることに問題があると考えられます。近年には、『広島城基本構想』(2020)・『広島城三の丸整備基本計画』(2021)・『広島城展示等基本計画』(2022)などが策定され、さらに現在『史跡広島城跡保存活用計画』策定のための会議が開催されています。また、広島城三の丸の整備に関連しては、「広島城の展示整備に関する懇談会」や「広島城三の丸整備等事業者選定審議会」などの会議が設置されています。このように、計画内容の検討が進行中ですが、三の丸歴史館予定地の広場では、昨年7月から広島サッカースタジアムへの通路と一つとなるペデストリアンデッキ(歩行者専用橋)の建設が始まるとともに、観光拠点の「にぎわい広場」としての整備計画が進められ、新聞報道(2022年12月)によるとすでに事業者の決定が報じられています。三の丸歴史館についても予定地における建設を前提に建物設計や展示内容などの検討が行われています。史跡広島城跡の整備計画の評価が定まらないまま、事業計画の一部、あるいは全部が進行しており、史跡広島城跡の整備計画が関連事業との間で十分な調整が行われていないというきわめて遺憾な状況であると言わざるを得ません。

 言うまでもなくかつての広島城の範囲は史跡指定地だけでなく、現在市街地となっている指定地の外側にもおよんでいます。そのため、個別の計画の寄せ集めでその環境を整備することは不可能で、市街地一帯を含む広範な区域の再開発や整備を総合的に行っていくことが必要です。そのためには、計画内容検討のための会議を相互に有機的に関連づけるとともに、文化財審議会等の既設機関の利用、あるいは新規機関の創設により、検討成果を集約し、文化財の保護の観点から整備計画を総合的に検討することが求められます。

 

 以上のことから、一般社団法人日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、次の点を要望します。

 

 

  1. 現在進められている広島城三の丸歴史館の建設場所および三の丸跡の整備計画について文化財および歴史的景観保護の観点から再検討を行うこと。
  2. 史跡広島城跡とその周辺区域を含む文化財の総合的な保存・活用に関する計画を策定した上で、関連事業との調整を行い、具体的な事業を進めること。