「大社基地遺跡群主滑走路跡」東端付近県有地の保存に関する要望書

埋文委 第4号

2023年10月6日

文化庁長官       都倉俊一 様

島根県知事       丸山達也 様

島根県教育委員会教育長 野津建二 様

一般社団法人日本考古学協会

埋蔵文化財保護対策委員会

委員長 山田康弘

 

「大社基地遺跡群主滑走路跡」東端付近県有地の保存に関する要望書

 標記の件について、別添書類のように、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容を有するものであり、貴職におかれましては、適切な保存の対策が講じられることを改めて要望いたします。

 なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2023年10月27日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。

 1 提出書類
   別添のとおり 1通


埋文委 第4号

2023年10月6日

 

文化庁長官       都倉俊一 様

島根県知事       丸山達也 様

島根県教育委員会教育長 野津建二 様

一般社団法人日本考古学協会

埋蔵文化財保護対策委員会

委員長 山田康弘

 

「大社基地遺跡群」主滑走路跡東端付近県有地の保存に関する要望書

 大社基地およびそれに附属する遺跡群(以下、「大社基地遺跡群」と呼ぶ)は、アジア・太平洋戦争最末期における海軍航空基地の遺構を良好にとどめる、全国的にも例がほとんどない貴重な戦争遺跡です。特に、築造当時の舗装面を残す滑走路は、国内にほとんど遺存例がない重要な遺構です。

 しかしながら、2021年、国有地であった「大社基地遺跡群」の主要構成要素である主滑走路跡の大部分が、民間事業者に売却後、住宅開発工事によって破壊され、建設時の滑走路コンクリート舗装面は完全に失われてしまいました。さらに2022年、「大社基地遺跡群」主滑走路跡南側に遺存していた東西約1000mにもおよぶコンクリート舗装面も、市道敷設工事によって破壊されてしまいました。日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会では、この問題を重要視し、これまで二度にわたって要望書を提出して「大社基地遺跡群」の現地保存および史跡整備・活用を求めましたが、残念ながら主滑走路跡を破壊から救うことはできませんでした。

 こうした問題があったなか、さらに追い打ちをかけるように、「大社基地遺跡群」主滑走路跡東端付近の県有地における出雲児童相談所移転建設計画が決定されたとの報に接しました。当該予定地の地表下に滑走路コンクリート舗装面が遺存している場合、工事によって貴重な遺構がまたも失われてしまいます。事前の確認調査で当該予定地の滑走路コンクリート舗装面の遺存状況を丁寧に確認し、遺構の遺存が確認された場合は、適切な保存が講じられることが必要です。当該予定地は、国からの売却によって民間事業者の所有に帰した部分とは異なり、島根県管理の土地であるため、自治体の決断によって保存可能な土地であるはずです。

 島根県教育委員会は、これまでの「大社基地遺跡群」保存問題を契機に、2023年度から近代遺跡調査指導委員会を設置し、県内の戦争遺跡を含む近代遺跡の保護を目的とした調査・検討を開始されたところです。また、出雲市が所有する「大社基地遺跡群」主滑走路跡の遺存部分は、多くの小学校の修学旅行訪問先にも選定されるなどして、児童の平和学習の場として有効に活用されていると聞いております。戦後80年近くが経過し、これまで等閑視されてきたきらいのあったアジア・太平洋戦争期の戦争遺跡が、貴重な歴史的文化財であると改めて認識され、保存と利活用を進めていこうという社会的気運が、この数年の間にまさに高揚している局面にあると思われます。わが国の文化財行政においても、こうした社会全体の価値観の変化に応じて、これまでの近代遺跡の取り扱いを再考し、しっかりとした保護を推進していく方向に舵がきられているのが全国的な趨勢と認識されます。

 また、滑走路跡東端付近に位置する当該予定地が保存されることによって、出雲市が利活用を表明している滑走路跡西端部分や周辺に残るその他の遺構との有機的な活用においてもきわめて有効であると評価できます。

 以上により、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、下記の通り要望いたします。

1.出雲児童相談所の移転計画を再検討し、「大社基地遺跡群」主滑走路跡東端付近県有地を現状保存していただくこと。

2.「大社基地遺跡群」主滑走路跡東端付近県有地を保存・整備し、周辺の基地関連遺構とともに歴史学習・平和学習の場として積極的活用を図ること。