東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が推進している品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)に伴う発掘調査によって、高輪築堤跡が良好に遺存していることが明らかとなりました。明治5年(1872)年の、日本で最初に開業した鉄道建設に伴い、世界にほとんど類を見ない海上築堤として造られたのが高輪築堤でした。その構築には、伝統的な土木技術も使われており、日本の急速な近代化のあり方を示すものとして歴史的重要性は明らかでした。そのため日本考古学協会は、要望書提出や会長声明、会長コメントなどで、繰り返し高輪築堤跡の保存を訴えてきました。しかし残念ながら、第Ⅰ期分の1街区から4街区では、第7橋梁などの一部が現地保存された以外は、工事によって破壊されてしまいました。この間、2022 年1 月 28 日には、国際記念物遺跡会議(イコモス)から「遺産危機警告(ヘリテージ・アラート)」が出されました。イコモスは、ユネスコの世界遺産に関わる諮問機関であり、高輪築堤が世界的な文化遺産としての価値を有することを認めるとともに、保存を一部にとどめ、多くを破壊する現状に深い憂慮と疑義を示したものです。
品川開発プロジェクト(第Ⅱ期)に該当する5・6街区については、1~4街区と同様に、高輪築堤跡が遺存していることが推定されてきました。周辺区域での試掘調査では、築堤跡が良好に保存されていることが確認されつつあります。また、羽田アクセス線予定地においても、築堤跡の遺存が確認され、築堤跡が良好に保存されていることと、その歴史的重要性はますます高くなっていると言えます。
このような中で、12月6日に開催された、高輪築堤調査・保存等検討委員会の第38回委員会【全体会】の議事録と資料が、先だって公表されました。この第38回委員会では、「5・6街区及び隣接地区の高輪築堤跡の遺構と文化財的価値について」との文書が示されています。ここでは、周辺区域での調査成果を踏まえ、5・6街区でも高輪築堤跡の遺存状態が良好であると考えられることを指摘するとともに、その文化財的価値が高いことを踏まえ、「5・6街区の保護措置については、1~4街区と同様に、計画の見直しを含めた現地保存を検討することを出発点」とするように提言しています。
第Ⅰ期事業区域内で現地保存された第7橋梁付近と北側の公園部分については、「史跡旧新橋停車場跡及び高輪築堤跡」として国指定史跡となっています。高輪築堤跡は、史跡に相当する歴史的価値を有することを示すものであり、同様に遺存が推定されている5・6街区の築堤跡は、史跡に相当する可能性が高い重要遺跡として対処するべきです。このような観点から日本考古学協会は、高輪築堤調査・保存等検討委員会の保護措置についての提言は極めて重要と考えます。
第Ⅰ期事業では、事業計画が定まった後に、高輪築堤跡の実態が明らかとなったことから、計画の変更が難しい面があったとされています。それに対して第Ⅱ期事業にあたっては、すでに高輪築堤跡の実態が明らかとなっており、事業区域内に遺存している可能性が高いことを踏まえた事業計画策定が可能です。
世界でここにしかない高輪築堤跡を現地保存し、新たなまちづくりの中核に据える計画策定を要望いたします。
2024年3月25日
一般社団法人日本考古学協会
会長 辻 秀人