初代門司駅遺構の保存を求める11学会合同要望書

2024 年5月21日

 

文部科学大臣        盛山正仁 様

文化庁長官         都倉俊一 様

福岡県知事         服部誠太郎 様

福岡県教育委員会教育長   寺崎雅巳 様

北九州市長                   武内和久 様

北九州市議会議長            田仲常郎 様

北九州市教育委員会教育長  田島裕美 様

 

初代門司駅遺構の保存を求める11学会合同要望書

 

九州近現代考古学談話会 九州考古学会 九州産業遺産研究会 建築史学会

考古学研究会 産業遺産学会 鉄道史学会 都市史学会 日本イコモス国内委員会

日本考古学協会 文化財保存全国協議会

 

 北九州市で発見された初代門司駅関連遺構に関し私たち文化遺産に関わる11の学術研究団体(以下、「11 学会」という)は深い関心を寄せ、既に 11 学会から保存要望書を提出するなどしているところです。この遺構は、地域史を超え、日本史、アジア史、世界史の視点から考古学、都市史、鉄道史、産業史、 建築、土木などの幅広い領域に関わる特筆すべき価値を有していますが、それにもかかわらず、その価値 はいまだ十分に理解を得られているとはいえません。したがいまして、このたび改めて合同でその価値を申し述べ、遺構の保存を要望することといたしました。

 

 私たちは初代門司駅遺構の価値を以下のように認識しています。

 門司の歴史的意義は、二つの近代インフラである港湾と鉄道が明治24年(1891)にまったく新しく、 そして同時に建設されたことにあります。

 門司は当初、港湾機能を持っていませんでしたが、明治22年(1889)に設立された門司築港会社が浚 渫・埋立をおこなって、明治24年(1891)に近代港湾を整備しました。この過程には渋沢栄一などの資本家の参画がありました。

 築港と平行して明治 24 年(1891)、当時の日本における代表的な私鉄であった九州鉄道の博多ー門司間の開通にともなって門司駅(初代)が設置されました。これによって、陸上と海上交通の一大結節点としての門司が誕生することになるのです。

 海外との玄関口となった関門海峡には、北前船の寄港地であった下関港と、背後に筑豊炭田という石炭の一大供給地を抱えた門司港の両港が、特別輸出港や大陸との定期航路の寄港地に指定され、国際港湾都市として一躍注目を集めはじめました。

 鉄道は産炭地から直結して石炭を門司へと運び、それらは阪神地区や東南アジアへと輸出されました。明治34年(1901)に山陽鉄道が対岸の馬関(下関)まで達し、同鉄道の連絡線が関門航路を開設すると、全国的な鉄道ネットワークの拠点としての門司の重要性はさらに高まりました。

 造成された門司の市街地には三井物産・三菱合資・大阪商船・日本郵船など、当時の日本を代表する企業の支店・出張所がたち並ぶようになりました。門司はまさにわが国の典型的な近代都市のモデルとなったのです。

 今回、発掘で姿をあらわした遺構は、上記の近代海峡都市門司の誕生の瞬間を余すことなく伝えています。 ① 先行する都市集積のなかった場所において、港湾と鉄道という近代インフラを直結するかたちで成立した近代都市として、② 日本はもとより東アジア、さらには世界につながる海峡都市として、この二つの局面を示す実物がほぼ完全なかたちで地面の下に残されていたことはまさに奇跡と言わざるをえません。このかけがえのない遺構は北九州市にとどまらず、日本さらには東アジア、世界の近代に接続して いく世界的な価値を有する遺産なのです。

 さらに述べれば、今回発掘調査された場所の周辺には、初代~二代目門司駅の諸施設遺構が埋蔵されていることが推察されます。将来的に発掘が進めば初代門司駅の全貌が明らかになり、ひいては日本における近代都市の先駆である門司がどのように構想・計画されたのかが解明される可能性を多いに秘めています。

 遺構群が保存された暁には、日本のモデル的近代都市の誕生を示す物証として国史跡に指定される可能性も有すると考えます。さらに、日本各地の他都市の近代交通遺構と一体的に、日本の初期鉄道遺産として世界文化遺産として推薦するに値するものとも考えます。

 

  以上を踏まえ、私たち11学会は以下を要望します。

 

  1. 近代日本史及び世界史において特筆すべき価値を有し、重要遺構である初代門司駅遺構を、現在及び 将来の市民・国民・全人類が享受できるよう、現地で全面的に保存すること。

 

  1. そのために、今後実施する発掘調査を、記録保存のための行政発掘ではなく、史跡指定を目指した学 術調査(重要遺跡確認調査)へと切り替えるべく、北九州市、福岡県、文化庁が協議をすること。こ のための学術委員会を設置すること。

 

  1. 初代および二代目門司駅に関連する建築・構造物が存在していたと考えられる区域を広く、埋蔵文化 財包蔵地として指定すること。

 

 日本そして世界の宝である初代門司駅遺構の学術調査、保存活用に際して、私たち11学会も最大限の協力をする所存ですので、以上のことに宜しくご配慮を賜りますようお願い申し上げます。