広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について(回答)

(公 印 省 略)
広文振第246号
令和4年7月29日

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委 員 長 山 田 康 弘 様

広島市長 松井 一實
(市民局文化振興課)

 

広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について(回答)

 

令和4年7月8日付け埋文委第3号で要望のありました件について、次のとおり回答いたします。

1 広島市における文化財保護体制の整備・充実をはかり、実現すること。

(回答)

 埋蔵文化財の発掘調査には、考古学の専門知識を有し、地域ごとに異なる地形や地層等を把握した上で、遺跡の有無や年代等について適切に判断ができる職員の確保と育成が必要となります。

 また、歴史的な財産である埋蔵文化財を未来に伝えていくためには、開発事業などとの円滑な調整を図りつつ適切に保存・活用していくための充実した体制の整備が重要となります。

 本市では、埋蔵文化財保護事務の実施に当たって、開発事業者との調整や試掘等行政判断のための調査は教育委員会(地方自治法の規定に基づき、市民局文化振興課において補助執行)が、発掘調査の実務や出土品の保存・活用事業等は公益財団法人広島市文化財団が実施する形で機能分担を図ってきました。こうした中で、文化庁への職員派遣や当該財団との職員相互派遣を実施し、文化財保護に関する実務や埋蔵文化財の調査を経験させることで、文化財保護政策に精通した職員を育成するとともに関係機関との連携強化を図っています。

 これに加え、令和4年度には、実務経験を通じて培った専門的な知識と経験を持つ学芸員2名を採用しています。

 こうした取組を進めることにより、文化財保護の諸課題に的確に対応できる人材を継続的・計画的に確保・育成していきたいと考えています。

 

2 サッカースタジアム周辺及び周知の遺跡として登録されている広島城跡の範囲内において、総合的かつ適切な埋蔵文化財保護措置を講じること。

(回答)

 サッカースタジアム建設地での埋蔵文化財発掘調査は、建設地の1割強を対象とするものであり、地下に存在すると考えられる旧陸軍施設の遺構の大半は引き続き地中に保存されることになります。

 こうした前提の下、調査の実施に当たっては、事前の試掘調査に加え、歴史資料等の調査を行った上で、本市の文化財審議会による試掘調査の現地視察、それに基づく指導・意見を踏まえ、遺構の現状保存が困難な範囲について、文化財保護法上の保護を図るため記録保存を行っています。

 こうしたことに加え、開発事業者と調整を行い、可能な限り近代遺構面より上で施工してもらえるよう工法を変更した上で、近代遺構の埋め戻しを行うとともに、現状保存が困難な箇所の中から、戦前の広島の姿の一端を広く知ってもらえるよう遺構の一部を切り取り、保存・活用することとしています。

 また、本市では、これまでも近世の周知の埋蔵文化財包蔵地である広島城跡における発掘調査に当たっては、近代遺構についても開発事業者等関係者に協力を求め、その保存に努めてまいりました。

 こうした取組や昨年度までの中央公園の発掘調査の結果、文化財審議会の意見も踏まえ、本年7月からは明治期以降の主要な軍関係の機関・施設跡等についても、埋蔵文化財として取り扱う範囲とするよう基準の改正を行い、関係者等の理解・協力を得て、近代遺跡の保護に向けた取組を推進することにしています。

 なお、7月8日の面談時にお話のありました旧市民球場跡地での再開発事業における埋蔵文化財の取扱については、過去の球場建設時及び解体時の施工状況や、事業実施前の試掘調査により適切に対応していることを申し添えます。

 

3 被爆の有無やその状況について、専門家を含めて検討する体制を整備し、被爆の痕跡を残す埋蔵文化財は被爆遺跡・被爆遺構として保存・継承すること。

(回答)

 本市では、爆心地周辺で被爆の惨禍を如実に伝えているレストハウス(旧大正屋呉服店)・中国軍管区司令部跡(旧防空作戦室)・旧日本銀行広島支店等について、広島原爆遺跡として我が国の近代史における重要な遺跡であることを鑑み、本市文化財審議会の意見を聞きながら、国の史跡指定に向けて、文化庁と協議を行っています。

 こうした遺跡のほか、埋蔵文化財として位置付けられるものについても、平和記念資料館の耐震改修工事、レストハウスの改修・増築工事に伴って発掘調査を実施し、詳細な図面・写真等の記録を保存するとともに、平和記念資料館に係る発掘調査では、被爆の痕跡が明らかな遺構の一 部を切り取り保存しています。

 また、平和記念資料館北側に残る、被爆の痕跡をとどめる旧中島地区の町並み遺構の一部を現状のまま保存・公開するための施設を現地に整備し、本年3月に被爆遺構展示館としてオープンしたところです。

 平和記念都市建設法には、広島市を恒久平和を象徴する平和記念都市として建設していくことが掲げられており、被爆遺跡や埋蔵文化財の保存・活用、継承の観点からも、この法の精神に 沿った形で、関係部局が連携を図りながら、しっかりと被爆体験を継承していきたいと考えています。