埋文委ニュース 第85号

2024.12

埋文委ニュース 第85号

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

はじめに

 本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会(以下、埋文委)の情報交換会は、2024年10月20日(日)13時30分~15時30分に島根大学松江キャンパス・教養2号館601教室を会場として、28名(会場17名+オンライン11名)の参加を得て開催された。吉田広委員長による挨拶の後、開催地報告、そして各地の埋蔵文化財保護の状況等についての報告および活発な情報交換が行われた。以下にその概要を記す。

1 開催地報告

「近年の松江市における埋蔵文化財保護行政の動向」
             川西学氏(松江市文化スポーツ部埋蔵文化財調査課)

 遺跡の整備は田和山遺跡などがあるが、整備の進んでいない遺跡が多く、関連資料は資料館での見学を主としている。組織体制については、2019年に文化財の活用とまちづくりを一体化するため、市長部局に文化スポーツ部を設置し、埋蔵文化財の調査を含めた文化財関係の部署は教育委員会事務局から移管された。
 松江市の埋蔵文化財行政基本方針としては、2021年12月に認定を受けた「松江市文化財保存活用地域計画」をマスタープランとして、以下のような具体的な措置を講じている。
 調査体制の見直しと強化については、従来は遺跡本調査を(財)松江市スポーツ・文化振興財団に委託していたが、2023年から直営で実施している。これに伴って、正規職員1名、任期付職員3名など合計10名の増員を行った。
 埋蔵文化財の保存については、弥生時代前期~中期の神後田遺跡は田和山遺跡に近接し、関連が高いことから文化庁と協議の上、国史跡にむけた追加調査、土地の買い上げをすすめた。そして2022年3月に田和山・神後田遺跡に史跡名称を変更して、追加指定となった。
 埋蔵文化財の指定に向けた調査・研究については、これまで指定が滞っていたが、地域計画策定を機に積極的に文化財指定を行う方針となった。そうした中で、2021年に「松江市指定文化財の指定及び無形文化財の保持者又は保持団体の指定基準」、2022年に「今後の指定候補リスト」を策定した。これに基づき、指定第1号として2023年に古墳時代前・中期の奥才古墳群出土遺物を指定した。さらに、古墳時代中期の八幡鹿島古墳について史跡指定を目指して学術調査を実施した。
 デジタル技術を用いた遺跡の活用については、2020年に「田和山遺跡史跡公園再整備基本計画」を策定し、公園内の遺跡および周辺にAR、VRの導入を進めている。
 今後は、将来に見据えた計画の策定、ヒストリー(文化財をつなぐ物語)の構築に向けて取り組んでいく。

2 地域連絡会からの報告

(1)能登半島地震に係る石川考古学研究会の取組み
 伊藤雅文委員(石川県)より、能登半島地震に係る取組みについて次のような現状報告があった。
 埋蔵文化財について被害状況の把握は、石川考古学研究会も独自に行っている。被害が大きい地域は、担当者の配置がもともと脆弱であり、現状把握や保護にあたることが困難な状況にある。担当者は、他の膨大な業務にも対応しなければならない例も見られ、ますます埋蔵文化財への影響が懸念されている。今後、復興事業に伴う調査が増えていくことが予想され、十分な調査がなされるかなど、注視しなければならない点が多くみられる。

(2)関東甲信越静地区連絡会
 橋本博文委員(新潟県)より、埴輪生産遺構が検出された群馬県伊勢崎市石山南遺跡への対応について問題提起がなされ、幹事会で検討することとした。

(3)中国地区連絡会
 藤野次史担当理事(広島県)より、広島城跡三の丸の歴史館移転問題について、現状と今後の対応の説明があった。

(4)四国地区連絡会
 吉田広委員長(愛媛県)より、要望書を提出した2件(高知県多良古墳群、徳島県徳島城跡)および愛媛県松山城跡の土砂災害について説明があった。

(5)九州・沖縄地区連絡会
 田尻義了委員(福岡県)より、北九州市旧門司港駅跡の状況について次のような説明があった。現地説明会があり、今後は下層の遺構調査を行う予定。要望書等については、状況の変化を見て対応することとする。

 今回の埋文委情報交換会は、一昨年の福岡大会、昨年の宮城大会に引き続き、対面とオンラインを併用して開催された。対面のみで開催していた時よりも多くの委員が参加し、活発な議論がなされている。今後もそれぞれのメリットを活かしつつ、より多くの委員の交流を図っていきたい。        (藤野次史・小笠原永隆)