第22回「今が腕の見せどころ コロナ禍の自治体文化財担当者」  亀田直美

 開催に賛否両論のあった東京オリンピックが閉幕し、テレビはまたコロナと台風などの自然災害のニュースで覆いつくされるようになりました。閉会式の催された8月8日の東京のコロナ発生者数は4,066人。緊急事態宣言が続いています。本来であれば、夏休みの自由研究に合わせた親子講座を、公民館と共催で開く予定でしたが、コロナ感染拡大と3つの台風の接近予報のため、冬に延期することになりました。コロナの感染拡大が本格化してから、いくつ目の講座の延期・中止でしょうか。

 

 私の働く西東京市教育委員会では、縄文時代の集落遺跡である「史跡下野谷遺跡」をはじめとした文化財をできるだけ身近に知ってもらい、大好きになってもらうことが文化財の保護の一番の近道との考えから、学校教育の場も含め、数多くの活用事業を行ってきました。

 市民の皆さんがそれぞれの得意分野で工夫をこらしたブースを出して盛り上げる「縄文の森の秋まつり」は、昨年度連続14回目を迎え、スタッフを含む参加者の1,500人超えを目指していましたが、集客性のある企画事業を見合わせるといった市の方針の基、中止となってしまいました。大変残念なことでした。

 また、教育委員会の強みでもある学校との連携を活かした出前授業や団体での郷土資料室への見学も中止が相次いでしまいました。他地域の縄文遺跡とつながるスタンプラリーの実施も一時中止せざるを得ませんでした。

 さらに、下野谷遺跡ではちょうど史跡整備に合わせてボランティア組織や自ら遺跡を楽しんでもらう「ムラびと」制度を立ち上げ、動き出す予定でしたが、出鼻をくじかれる状況になりました。

 これまで、活用事業では、考古学の一番の魅力であり、学問の軸でもある遺跡を含めた実資料を大切にし、できる限り本物に触れてもらうことを基礎においてきました。そして、参加者の反応をその場で活かせるような事業を企画してきました。また、事業に参加する人々の関係性がスムーズに築けるよう、互いが顔を合わせることが出来る場を事業実施時以外も複数回開くなどの工夫もしてきました。それが、コロナ禍により対面での事業実施ができなくなったことで難しくなり、途方に暮れてしまいました。

 

 今思えば、このような時こそ、学校にも行けず友達とのいつものように遊べない子どもたちや、非日常に疲れを覚えてしまうような人たちに、文化財を通して豊かな時間を届けなければいけなかったと反省しています。

 周囲をみまわせば、多くの自治体の文化財担当者が工夫を凝らし、インターネットを使ったり、感染拡大に最大限の注意を払いながら様々な事業を実施しています。また、オンラインでそれぞれの経験や課題を語り合う場を作ったりもしています。私も頑張らねばと思います。

 

 現状をみるかぎり、コロナ禍の本格的な収束までにはまだまだ時間がかかりそうです。その中でどのようなことが出来るのか、文化財担当者の腕の見せ所なのかもしれません。また、そこで見出した新たな手法は、きっと感染が収束したあとも、生きてくるもののはずです。

 例えば、学校教育の場ではコロナ禍により、ICTを基盤とする先端技術を活用した学びの場をつくる「GIGAスクール構想」が前倒しされ、西東京市ではこの4月から市立小中学校の生徒には一人1台のタブレットが支給されています。昨年度学校が休校になった際に自宅で下野谷遺跡や縄文時代を楽しく学んでもらおうとHPにアップした「アニメしたのや遺跡縄文物語」は、そういった学びにも活用されていることがわかり、今年度からはインターネットでのミニ講座(タイムスリップ通信)の配信を始めました。

(西東京市HP https://www.city.nishitokyo.lg/enjoy/rekishi_bunka/rekishi_bunnka2/index.html)

 

 感染が少し収束を見せていた早春、ようやく子どもたちと遺跡に出かける授業を行うことができました。遺跡を駆け回りながら探検をし、クイズに答える子どもたち。土器のかけらを見つけて、ほっぺたを真っ赤にしながら駆け寄ってくる子どもたちの姿に、やはり本物の力はすごいとの思いはより強くなりました。

 郷土資料室では、消毒や3密の回避、マスクの着用、見学者の方の連絡先の把握などを徹底しながら通常通り開室し、本物の魅力に触れてもらう努力を続けることにしました。

 今はできることをしながら、頭を使い文化財と市民を結ぶことをつづけていきましょう。そのためには、何より文化財担当者が元気で熱意を持てることが大切です。体と心の健康を第一に!

 


下野谷遺跡キャラクター、したのやムラの「しーた」と「のーや」もマスク姿でコロ
ナ禍の収束を祈っています。

 


小学生が総合学習の時間に作成した「下野谷カルタ」の一枚。みんなで乗り越えよう!
(カルタは郷土資料室で展示しています。)