第13回日本考古学協会賞

第13回日本考古学協会賞

 「第13回日本考古学協会賞」には、締切日までに3件の応募と2件の推薦がありました。2023年3月7日(火)に選考委員会が開催され、大賞には門田誠一氏、奨励賞に加藤一郎氏、優秀論文賞に阿部芳郎氏・栗島義明氏・米田 穣氏、光本 順氏がそれぞれ推薦され、3月25日(土)の理事会で承認されました。各賞は、5月27日(土)の第89回総会(東海大学)において発表され、辻秀人会長から賞状と記念品が授与されました。なお、阿部芳郎氏・栗島義明氏・米田 穣氏の共著論文は代表で阿部芳郎氏に授与され、加藤一郎氏は当日欠席となったため、賞状と記念品は後日、個別送付させていただきました。

 受賞理由並びに講評は、次のとおりです。

第13回日本考古学協会賞 大賞

門田誠一 著
魏志倭人伝と東アジア考古学』 吉川弘文館 2021年12月発行

推薦文

 いうまでもなく『魏志倭人伝(「三国志」魏書東夷伝倭人条)』は、日本列島の3世紀史を考える場合の最重要史料のひとつである。そこには、「倭」を構成する諸国、そしてその中心である「邪馬台国」やそこに君臨した「女王卑弥呼」、そして卑弥呼による中国の魏王朝への献使、さらには倭の習俗といった重要な事象が書き記されている。この時代は弥生時代から古墳時代への転換点であり、日本列島における国家の成立の画期のひとつがここにあることはまちがいない。そして『魏志倭人伝』は、邪馬台国の所在や卑弥呼の墓をどの遺跡に宛てるかなど、幅広い議論をまきおこしてきたところである。当然、『魏志倭人伝』の解釈についてもさまざまな面からの検討がなされている。

 ところが、『魏志倭人伝』の正確な解読をおこなうためには、文献史学的解釈は当然として、考古学の側からのアプローチ、それも単に日本だけではなく東アジア全域のという視点からの研究が重要になるはずである。しかし、それを可能とするためには日本考古学、朝鮮半島や中国の考古学、さらには中国の文献史学という幅広い視野に立脚することが必要となり、これはひとりの研究者がなしとげるためにはなかなか困難が伴う。

 本書の著者は、20歳代から現在にいたるまで40年近くにわたって日本・中国・韓国・北朝鮮の各地を歴訪し、それらの地域の考古学研究を続けてきた。そうした研究の蓄積にもとづいて著者はこの難題に果敢に挑戦し、その成果をB5判337ページの大著にまとめあげたのである。

 本書は、序章、第一部「倭人の習俗・社会に対する同時代的認識」、第二部「中華社会の礼俗と倭人」、第三部「魏志倭人伝に記された物質資料」、終章、からなる。その中で扱われるのは、卑弥呼の鬼道、卑弥呼の冢、倭の生口、倭人の生食、禾稲(以上第一部)、被髪と徒跣、籩豆、跪拝、葬送と棺槨、卑弥呼の冢への奴婢の殉葬(以上第二部)、黄幢、檄、五尺刀、金八両、丹・鉛丹・真珠、邸閣(以上第三部)と、実に幅広い。中国の文献史料を博捜しつつ、日本・朝鮮半島・中国にわたる考古学資料によってそれらの実像を浮かび上がらせる様子はまさに圧巻である。一例を挙げると、『魏志倭人伝』が「大作冢、径百余歩、徇葬者奴婢百余人」と記す卑弥呼の墓について、著者は巨大な墳丘を持つ古墳に直結させる通説とは距離を置く。そして著者は多方面からの検討によって、この記事の記主は卑弥呼の墓を高い封土を持つものとは認識していなかったし、多数の奴婢の殉葬というのも事実ではなく、むしろ倭が漢人社会とは異質な礼俗によってたつ社会であるという中国的な思想の産物であるという斬新な結論を提示している。

 『魏志倭人伝』の研究にはまだまだ多岐にわたる論点が存在している。しかしそれを歴史像の復元につなげるには、単なる語句の表面的な解釈ではなく、本書のような幅広い視点からの検討が必要であろう。その点で、本書は今後の研究の基礎となり、後進にも大きな影響を与えることはまちがいない。

第13回日本考古学協会賞 奨励賞

加藤一郎 著 
倭王権の考古学―古墳出土品にみる社会変化―』 早稲田大学出版部 2021年2月発行

推薦文

 本書は、古墳出土品のうち埴輪、倭鏡、その他の副葬品(銅鏃・甲冑・革盾・鈴釧)についての多角的な分析を通して古墳時代の歴史過程(取り分け国家形成過程)の特質の解明を目指したものである。

 日本考古学における古墳時代研究においては、各種古墳出土遺物の分析を通してこの時代の解明を目指す研究は、最も盛んに行なわれてきた分野の一つである。

 著者もこれまでの間、埴輪、銅鏡研究において大きな実績を上げてきている1人である。本書は著者の学位請求論文「古墳時代の器物生産と倭王権 -埴輪、倭鏡、その他の副葬品の分析から-」(早稲田大学のリポジトリで公開)を基調としているもので、論旨に変更はないが、広く読者を想定した一般書として発刊することを踏まえ、全面的に書き直した意欲作である。そのため、全体に一層の統一感が取れ、一読者として読み進めたとき、著者の執筆意図が理解しやすいものに仕上がっている。

 前述したように、古墳出土遺物の分析研究を通してこの時代の解明を目指した研究は盛んに行なわれてきている。多くの研究事例が単一遺物の徹底分析から国家形成史、国家成立史の課題に迫るものであったのに対し、本書では、多くの遺物を取り上げ、そのそれぞれについて多角的分析とそこから導き出される特性から総合化をはかっている。また、古墳時代全体の解明を目指しているため、考古学的分析の資料も通時的であることが望ましいとして、中心的な検討資料として前期から後期まで及ぶ埴輪、倭鏡が取り上げられ、その他の副葬品についても、前期、中期、後期の代表的な遺物を対象にしている。

 本書は古墳出土遺物研究に対して新機軸が開かれていく可能性を有しており、今後の研究展開が期待されるところである。

第13回日本考古学協会賞 優秀論文賞 

阿部芳郎・栗島義明・米田 穣 著 
縄文土器の作り分けと使い分け―土器付着炭化物の安定同位体分析からみた後晩期土器器種組成の意味―」 
『日本考古学』第53号 日本考古学協会 2021年10月発行 

推薦文

 土器付着炭化物の炭素・窒素同位体分析から動物と植物を判別する新手法を用いて縄文土器の調理対象物を解明し、縄文時代後期に顕在化する器種の多様化の背景を検討した論文である。

 関東の縄文土器においては、後期中葉に精製土器と粗製土器の作り分けが明確になることが知られている。埼玉県内の縄文時代中期から晩期にかかる複数の遺跡出土資料を対象として上記の新手法を用いた分析を実施した結果、中期から後期前葉では動物と植物の加工と特定の器種やサイズとの結びつきが弱い傾向が指摘された。これに対して器種の多様化が進む後期中葉以降では、精製深鉢は動物の加工に、粗製深鉢は植物の加工に利用されたことが指摘された。あわせて、これらの使い分けが土器の容積にも対応していることも指摘された。これらの結果から縄文時代後期中葉における器種の多様化は、多様な食物を加工する技術の集約化と複雑化が関わる可能性等が指摘された。

 本論文は、型式学的手法等、従来の考古学的手法から注視されてきた縄文時代後期中葉における器種組成の多様化について、自然科学的手法を用いた新たな分析法を導入することで、鮮やかに当該課題の新地平を拓いた優れた論文と言える。本論文を自然科学的手法により得られた結論のみで終わらせることなく、従来の考古学的手法による検討との整合性等についても目配りした上で論を終えている点も、本研究の評価を高める所以と考える。今後の分析事例の増加を期待するとともに、同様の分析法を他の研究課題に導入すること等も期待される。

 以上の理由により、阿部芳郎氏、栗島義明氏、米田穣氏による論文「縄文土器の作り分けと使い分け ―土器付着炭化物の安定同位体分析からみた後晩期土器器種組成の意味―」を日本考古学協会賞(優秀論文賞)に推薦する。

第13回日本考古学協会賞 優秀論文賞 

光本 順 著
Bodily Representation and Cross-dressing in the Yayoi and Kofun Periods

『Japanese Journal of Archaeology』第9巻第2号 日本考古学協会 2022年3月発行

推薦文

 本論文は、先史・原史時代における女装の身体表現の可能性を弥生時代と古墳時代の事例研究をもとに追求し、それぞれの時代における性/ジェンダー認識の具体像を復元・再検討したものである。その結果、弥生時代の物質文化においては性器や乳房が表現されない傾向があることが確認され、また、古墳時代においては後期の栃木県兜塚古墳の人物埴輪の事例から、異装の身体表現が行われた可能性が示された。その結果、女装の身体表現が当時の社会構造との関連で現れていること、男性の服装、男性性の身体表現の形式化・強化が社会の階層化と相関する可能性を指摘した。同時に、「女性」「男性」というカテゴリー自体が、時代の文脈の中で可変的であった可能性も指摘した。

 以上の研究は、世界的理論考古学の枠組みにおけるジェンダー考古学の実践であるが、欧米における研究の多くが、必ずしも十分な資料的裏ずけを持たない仮説モデルに基づく解釈の提示にとどまるのに対し、本研究は日本考古学の特質の一つである着実な資料分析に基づき析出された諸現象の検討によって、物質文化に媒介されたジェンダー構築と表象の一般理論的モデルの実証と内容的具体化を行ったものであり、日本考古学協会の英文機関誌の意義を高らしめるものである。

第13回日本考古学協会賞選考委員会講評

 第13回協会賞選考委員会を2023年3月7日(火)にオンライン型式で開催した。協会賞・奨励賞についてであるが、本年度は3本の応募であった。昨年度の応募が11件であったので激減といってよい。その要因は不明であるが、来年度もこの状態が続くようであれば要因を分析し、何らかの対応をはかる必要があることが話し合われた。

 応募の対象となった業績は、日本を主たる対象としたもの2件、グローバルな視点での研究が1件である。時代別では、旧石器時代1件、弥生/古墳時代移行期1件、古墳時代1件である。グローバルな視点での研究は、中国の歴史から倭をみるという相対的な視座に立つものであるが、そのほかの2件も旧石器時代の研究は中国やロシアなどを含む東アジア的視点を有し、古墳時代の研究は国家形成に関する新進化主義学説を踏まえるなど、いずれも広い視野からの研究だという特徴がある。

 応募者の年齢層を見ると、40歳代が1名、60歳代1名、70歳代1名であり、省庁勤務の1名および大学の名誉教授2名であった。候補作はいずれも300頁をこえる大著であり、学位論文を土台としたものや長年の業績をまとめたものなど、年齢の分散に応じて多彩であった。

 今回の大賞候補の業績は、魏志倭人伝の同時代資料である漢・三国・西晋の考古資料と文献を博捜して倭の文化史的状況を捉え直すという方法にもとづき、実証的で多角的な資料の分析をおこなった著書である。中国の側からの視点と倭人の視点を相対化する斬新な方法論や緻密な分析が評価され、委員全員が大賞候補に推薦した。

 今回の奨励賞候補は、埴輪の研究と鏡をはじめとする青銅器の実証的研究で、日本列島の王権や国家形成の問題にせまる内容であり、各委員に高く評価された著書である。大賞に準ずる優れた成果であり、今後に研究の発展が期待できる奨励賞にふさわしい業績であることから、委員全員が奨励賞に推薦した。

 なお、邦文誌の優秀論文賞に関しては、「日本考古学」編集委員会の推薦により1件の受賞候補を、英文誌の優秀論文賞についてはJJA編集委員会の推薦により1件の受賞候補を決めた。継続的な論文賞対象者確保のために、会員には奮って機関誌への論文投稿をお願いしたい。