第10回「オンライン授業と考古学」 滝沢 誠

 私が勤務する筑波大学では、新型コロナウイルスの影響により、約1か月遅れの4月末に今年度の授業がスタートしました。どこの大学も似たような状況だと思いますが、オンライン授業はほとんどの教員が初めての経験で、慣れないweb会議システムへの対応や授業動画の作成などに悪戦苦闘しました。また、授業を受ける学生側も、常に自宅のパソコンに向き合う生活で、心身に不調をきたすケースが少なくなかったようです。そうした状況の中で、大学で考古学を教える立場として何ができるのか、自問自答しながら取り組んだ私たちのささやかな経験を以下にご紹介したいと思います。

 ご存じのように、大学には講義、演習及び実習という3つの基本的な授業形態があります。そのうち、今年度の講義については、大学全体の方針にしたがって事前に収録した授業動画によるオンデマンド型を基本としました。また、演習については、教員と学生による討論が欠かせないことから、双方向性を確保したリアルタイム型のオンライン授業としました。問題は実習系の授業で、とくに「モノ」を取り扱う考古学の実習をいかにオンライン方式で実施するのかが大きな課題となりました。

 筑波大学には、考古学に関する実習系の授業として、考古資料の基本的な取り扱いを毎週のコマで学ぶ「物質資料研究法」と、一定期間の野外実習を行う「考古学実習」などがあります。そのうち「物質資料研究法」については、いろいろと悩んだ末に、担当教員が毎週の授業動画を配信するオンデマンド型としました。その授業動画を作成するにあたっては、教員を正面から映すwebカメラに加え、教員の手元を映す書画カメラ、さらには作業の全体を映すビデオカメラを同時に稼働させ、複数のアングルで撮影が行われました(写真1)。

結果として、完成した動画に対する受講生の評判は上々で、とくに実測図を作成する授業では、アップで映し出された教員の手元を繰り返し視聴できたことにより、教室で説明を受ける従来型の授業よりも理解度が増したようです(写真2)。ちなみに、通常であれば大学の所蔵資料を用いて行う土器の実測図作成では、各受講生が100円ショップで購入した陶器を利用し、その破壊→復元→実測の作業を自宅で行ってもらいました。

毎年冬期に実施している「考古学実習」は、10月以降に対面授業の実施条件が緩和されたため、必要な感染症予防策を講じながら計12日間の実習を実施することができました。今年度は、近年のフィールドワークを引き継ぐかたちで、土浦市内最大の前方後円墳・王塚古墳の発掘調査を行いました。その期間中、かねてから考えていた新しい授業の試みとして、私が担当する「考古学概説」の講義を発掘現場からオンライン(リアルタイム)で実施しました(例年であれば実習期間中は「休講」なのですが・・・)。この現地からの生中継は、スマホとスタビライザーを駆使して自撮りで行い、撮影自体は順調に進んだのですが、当日の悪天候により現地からの電波が不安定であったため、結果として配信された映像は画質が悪く、見るに堪えないものとなってしまいました。結局、翌日撮り直した動画をオンデマンドで再配信することになりましたが、個人的には、今後の新たな授業展開に向けた意味のあるチャレンジだったと思っています。受講生からは、「画質が悪くても、現地の様子がリアルにわかって良かった」との感想が寄せられ、ひとまず胸を撫で下ろしたところです。

新型コロナウイルス感染症の終息が見通せない現状で、多くの大学が来年度もオンライン授業を継続する見込みと聞いています。一日も早く状況が改善され、本来のキャンパスライフが戻ることを願うばかりですが、この1年間否応なく取り組むこととなったオンライン授業には、アフター・コロナの時代にも活かせるプラスの要素があると思います。ここで紹介した繰り返し視聴可能な実測動画や発掘現場からのリアルタイム講義のほか、海外留学中の学生も参加可能なオンライン演習の実施などは、平時の授業でも大いに役に立つものです。そのいくつかは、近い将来「標準仕様」になっているのかも知れません。

学生も教員も、いましばらく忍耐の時が続きそうですが、「災い転じて福となす」可能性をともに考えていきたいものです。

写真1 遺物実測の授業動画を作成する前田修准教授

写真2 石鏃実測の細部を動画撮影