新型コロナウイルスの世界への蔓延は、グローバル社会や経済のもつ宿命的な脆さを私たちにまざまざと示してくれているようだ。いまやその影響は私たちの考古学の活動にも大きな足かせとなっている。特に海外をフィールドとしている研究者には、研究生命を左右する問題でもあり、その影響は計り知れないのではなかろうか。
私の所属する大学の文化財研究所では、現在、中央アジアを中心としたシルクロードの都市遺跡の調査や、イランやアフガニスタンなどとの学術交流事業を継続的に展開しているが、2020年度はそれぞれの地域に渡航することさえも全くできなかった。その結果、国からの補助事業については、事業計画の大幅な見直しを余儀なくされた。
イランとの学術交流は、昨年度が事業の最終年にあたっており、日本人研究者がイランを訪問して出土文化財の保存修復や博物館展示の仕方などの現地研修を行う予定であった。また、秋にはイラン人研究者が訪日し、奈良から京都の文化財の保存・修復状況を視察する予定も組まれていた。それらの計画がすべて水泡と帰す中で、保存修復や展示に関しては日本国内で行っている作業を記録映像に編集して、イランの文化財担当者のもとに送り、ネットで意見交換を行う事業へと切り替えが行われた。
また、アフガニスタンから研究者を招聘しての交流事業は、日本国内での発掘調査や動物考古学、植物考古学の理論と実践を編集した動画を現地に送るとともに、オンラインでの講義に変更することで所期の目的を達成した。
コロナ禍2年目を迎える今年は、中央アジアの発掘調査も現地スタッフが行う調査をインターネットで結び、オンライン会議ならぬオンライン発掘の構想も実現化しつつある。昨今は、遺構や遺物の3次元での解析や、ARやVRなどのデジタルコンテンツの技術的な進展も目覚ましく、これらの導入も検討されている。
感染症の世界への広がりは、デジタル情報やネット社会の定着をさらに加速化させている。このように見ると、ウイルス VS デジタルが現代社会の縮図とも思えてきてしまう。おそらくこの傾向はコロナ終息後も続くのであろうが、実際の遺跡や遺構、遺物を研究対象とする考古学では最後までリアルな世界にこだわっていきたいと思うのは、古い考古学研究者の悲しい性なのであろうか。移植ゴテのから伝わる土や土器の触感がなぜか鮮明に蘇ってくる。