第27回「コロナ禍の大学における考古学教育と地方学会のあり方」 田尻義了

 新型コロナ感染症は、これまで当たり前に行っていた様々なことが、当たり前にできない状況を突然もたらしました。せめて、このような状況になることを予測できていればと嘆くばかりですが、この1年半の状況を振り返っておきます。

 大学の授業は、コロナによって劇的に変化することになりました。授業の内容によっては、オンラインに向いているものと、対面でなくては実施できないものがあります。当初はそのような区分を考えることも無かったのですが、コロナは授業のあり方に変化をもたらしました。いわゆる講義形式、座学の授業に関しては、教育効果は計りかねますが圧倒的にオンライン方式で対応することができます。また、少人数のゼミ形式、演習形式の授業についてもオンライン方式で対応することが可能です。前者の大人数に対して行う講義は、ランダムに学生へ質問を振ることで、緊張感をもたらし進めることができます。また、少人数のゼミ等は、参加者全員の発言を義務化し、発言時にはカメラをオンにすることによって、対応することができました。また、何より教員が大学にいなくても、出張先から授業を行うことができるようになった点は、非常に評価できる点です。問題は、実習や遺跡の調査でした。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置宣下では、人の接触を伴う対面での授業や調査を十分に実施することができませんでした。遺跡調査に関しては野外であること、マスクを着用することなどを徹底していくつかは実施することができました。しかし、これまで恒例であった調査の後のいわゆる飲み会や慰労会は、実施することができませんでした。そのような会合は、本来その日あったことを振り返り、明日の調査のために活かす様々な話をできる機会でした。そうしたコミュニケーションが十分に取ることができなかった点が、コロナにおける実態と思います。

 考古学の卒業論文や修士論文では、学生の資料調査が求められます。これも十分に予定通り実施することができませんでした。同一県内であれば比較的移動することはできましたが、受け入れ先の教育委員会や博物館のご判断で学生の希望が叶わなかった例もありました。できるだけ実物の資料に接して研究を進めることを推奨していただけに、歯がゆい状態でした。今年度に入ると、受け入れ側も事情を理解してくれ、職員との接触を少なくすることで対応していただいている機会もあります。学生にとってはなかなか予定通りに研究が進められず、もどかしい状態が続いています。

 最後に、地方学会の活動状況です。私は福岡に居住し活動していますので、九州の状況を挙げさせていただきます。九州には九州考古学会という会員約600名規模の学会が活動していますが、この2年間オンラインにて総会や研究発表を実施しました。多くの学会や研究会が、このコロナの中でオンラインによって実施することにより、普段は参加できない会に参加できたなどの有効点も認められましたが、会終了後の懇親会が実施できないことから、何気ない情報交換が十分にできないという残念な状況があります。また、九州考古学会は2年に1度、韓国の嶺南合同学会と合同で大会を実施しており、本来は2020年8月に韓国釜山で開催する予定でした。この合同学会は、日韓の多くの研究者や学生が相互に行き来し、互いの交流を深める良い機会でした。しかし、この2年間は延期することが余儀なくされ、非常に残念です。オンライン上では、遺跡調査の速報や展示会の情報などのやり取りが続きますが、やはり実際に顔を合わせて、夜遅くまで飲食を共にして交流を深めることに比べると、物足りなさがあります。特に新たな知り合いを紹介し合う機会が減ってしまいました。学会を通じた海外交流が途切れている点は非常に残念です。

 以上、コロナにおける考古学の活動を、大学の授業や学生指導、地方学会の動向についてまとまりなく記述させていただきました。今後10年後、20年後にも同様な状況が生じるかもしれません。その際は、この2年間で体験した状況を振り返り、より良い考古学を取り巻く世界にできることを期待しています。

 

コロナ禍でのマスクをつけての発掘調査 博多遺跡①

 

 

 

 

コロナ禍でのマスクをつけての発掘調査 博多遺跡②