第29回「地方大会から全国大会へ~コロナ禍での珍現象」 岡林孝作

 新型コロナウイルス感染症の第5波がやっと収まり、全国の感染者数もかなり減ってきました。各地に緊急事態宣言が発出されていた頃のさまざまな活動に対する制限も、ほとんどが緩和の方向にあります。もちろん、寒い季節に向けてリバウンドを懸念する声も聞かれますし、これでコロナ禍が完全に収まったと楽観している人は少ないでしょう。

 私が勤務する奈良県立橿原考古学研究所附属博物館は、大規模施設改修のため、2018年の年末から長期の休館に入りました。全世界を巻き込むコロナ禍が襲来するなど、誰もまだ予想しなかった頃です。2020年春の第1波から2021年夏の第5波まで、新型コロナウイルス感染症流行の波が繰り返した悪夢のような期間、偶然にも私が勤務する博物館は長期休館中でした。

 長期休館の間も、東京、神奈川、福岡、島根を巡回する館蔵品の展覧会のほか、県内の主要博物館と連携した共同企画展を開催しました。また、工事中でも開催可能な各種のイベントや、博物館実習生の受け入れなど、通常の活動は場所を変更するなどして極力行うようにしました。そうした展覧会やイベントがコロナ禍の影響を受けたことは言うまでもありません。しかし、通常開館していた他館の皆さんが感染防止対策に追われ、入場制限や突然の休館対応に頭を悩ませる中で、当博物館が長期休館中であったことは、やはり不幸中の幸いだったというべきでしょう。

 コロナ禍の中でも所定の工事は着々と進み、去る11月3日、2年10ヶ月ぶりに橿原考古学研究所附属博物館はリニューアルオープンしました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置がすべて解除され、感染状況がかなり落ち着いた状況でリニューアルオープンを迎えられたことは、これも偶然とはいえ不幸中の幸いでした。もちろん、今後は予想される第6波に備えて十分な対策を講じていかなければなりませんが・・・。

 ところで、当博物館が毎年実施しているイベントとして、「考古学写真甲子園」があります。2017年に、橿原考古学研究所創立80周年を記念するイベントの一環として、国民文化祭にあわせて第1回を開催しました。第1回は、高校生をターゲットに、考古資料をより身近に感じてもらおうということで、埴輪を題材として「『はにわ』を撮ろう!!」をテーマに行いました。館内の撮影会場に人物埴輪や動物埴輪を並べ、エントリーした高校生のグループに自由に撮影してもらい、応募作品の出来映えを審査して各賞を表彰するというものです。撮影会には、県内の高等学校写真部14グループが参加してくれました。プロの写真家にも審査員に入ってもらい、それなりに本格的な写真コンクールとして実施しました。

 翌2018年も、第2回考古学写真甲子園「古代の造形美を撮ろう!!」として、土偶、銅鏡、金製垂飾付耳飾などを会場に並べ、撮影会を行いました。2019年は、前述の休館期間に入ったため、第3回考古学写真甲子園「『古墳のある風景』を撮ろう」と題して、それぞれ身近にある古墳を主題とした風景写真を撮ってもらうことにしました。しかしながら、この種のイベントにありがちな、回を追うごとにエントリー数が減るという難しい課題に直面しました。

 そして昨年、2020年は第4回考古学写真甲子園「『古墳のある風景』を撮ろうⅡ」を開催しました。長期休館のためやむを得ず前年と同じことをしたわけですが、前年にはなかったコロナ禍という新たな状況の中で、明らかに変化したことがあります。それは、エントリー数が倍増したこと、エントリーされた方の居住地が奈良県周辺からほぼ全国規模に拡大したことです。どういうわけか、「近畿大会」から一躍「全国大会(=甲子園)」になったのです。

 コロナ禍の中で、私たちの周りではさまざまな活動のオンライン化が進みました。オンライン化は、自分と相手との現実の「空間的距離」を忘れさせます。以前であれば、遠方の公立博物館の、さして有名でもない写真コンクールにわざわざ応募しようとは皆思わなかったでしょう。ひょっとするとこれは一つのチャンスなのではないか。そう思って、今年も第5回考古学写真甲子園「『古墳のある風景』を撮ろうⅢ」の作品を募集しています。

 

 

第5回 考古学写真甲子園

 
 

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館リニューアル告知ポスター