第30回「コロナ禍の地方国立大学のフィールド調査」 菊地芳朗

 このコラムでは、大学教員による寄稿が何度かありましたが、今回は私が勤める福島大学(以下「本学」)での考古学教育について書かせていただこうと思います。

 本学における考古学教育は、教員一人、専攻生も合計で10名弱という非常に小規模なものです。そのため、できることは限られ、大規模大学のような先進的で行き届いた取り組みができないことも少なくありません。いっぽう、(どこの大学でもそうでしょうが)学生たちのほとんどは真面目で熱心で、「鍛えれば延びる」有望な人材であり、その才能を伸ばすことが教員の責務といえます。

 そのため、本学に着任した際、「毎年フィールド調査を行うこと」、そして「成果をすみやかに報告書にまとめること」を自らに課しました。自らのそれまでの経験から、座学のみで有為な考古学研究者を育てることは難しく、学生とともにフィールド調査と報告書作成を行うことが必須と考えたのです。関係者の理解と協力、そして学生の努力により、幸いにもこの目標はほとんど毎年達成でき、また、このこともあってか、県内外の学芸員や埋蔵文化財担当者として、これまで少なくない数の卒業生が就職しており、少しは社会の役に立てているものと嬉しく思ってきたところです。

 

 コロナ禍は、このような良好なサイクルに暗い影を投げかけました。

他の教員の方々も書かれているとおり、2020年度は満足な実習も行えず、フィールド調査の中止も覚悟しました。そうなれば、学生の力の低下は避けられず、本学のような小規模大学は、存在意義を問われかねません。

 しかし、近年共同で調査を行ってきた県内の自治体と慎重に検討を重ね、コロナ第二波の陰りを見計らい、9月に何とか発掘を行うことができました。ただし、調査期間を例年の半分とし、合宿でなく日帰りで行い、各種感染防止策を取るという、例年と大きく異なる方式としました。また、その後の2021年春と夏にも同様の形式でフィールド調査を行い、幸いにも大きなトラブルなく終えることができました。

 もちろん、このようにできたことは幸運の部分も大きいですし、学生や関係者の協力なしにはあり得なかったでしょう。また、小規模であることや、県内自治体と信頼関係を築いてきたという本学の“持ち味”も、有効に働いたと考えられます。

 コロナ禍は、これまでの大学の教育研究の常識を大きく変えるとともに、見えにくかった長短両面を顕わにする効果をもたらしたといえます。新しい取り組みのなかには、オンライン研究会のように、たとえコロナ禍が収束したとしても続ける(併用する)べきものも少なくありませんが、フィールド調査のようにオンラインでは代えられないものもあります。状況の変化に対応できる柔軟な発想と行動力をもちつつ、極力フィールド調査を続け、一人でも多くの有為な人材を育てていきたいというのが、今の私の考えです。

 

 

秋田県横手市での測量調査風景(2021年5月)