新型コロナウイルスの感染拡大によって、学会や研究会はすべからくその活動に大きな制約を受け、未曾有の難局に直面していることと思われる。島根県は全国的にもコロナウイルス感染者の割合が相対的に低いものの、大学や行政は強い警戒心をもって対応しているため、学会活動への影響もすこぶる大きい。ここでは、コロナ禍における地方学会の状況について、この間の島根考古学会の活動をふまえてご紹介したい。
対面行事の制約とオンライン化
島根考古学会が対面で実施する基幹行事は、6月の総会・総会記念講演会、9・10月ごろの秋例会、11・12月ごろの冬例会、2・3月ごろの春例会(卒論・修論報告会)である。コロナ禍へ突入した2020年以降は、2月の春例会は本格的な感染拡大にわずかに先行したので開催できたが、4月に計画していた遺跡調査報告会、6月の総会記念講演会は緊急事態宣言の発出を受けて中止に追い込まれた。総会については書面審議とし、1ヶ月ほどの意見集約の期間を経て、議決をおこなった。
その後は、対面での開催を前提に、感染状況が悪化した場合にはオンラインで対応する方針で例会・総会を計画し、2020年度冬例会は対面開催、春例会はオンライン開催、2021年度総会・総会記念講演会は対面・オンラインの併用開催として実施した。対面開催に際しては、いずれも人数制限ありの完全申し込み制とし、開催日の2週間前ごろの感染状況をみて開催方式を決定した(写真1)。なお、2020年度春例会と2021年度総会記念講演会は、開催後の一定期間(約1ヶ月間)に限定公開ながらYouTubeで動画配信をおこなった(写真2)。直近の12月18日に開催した2021年度冬例会は、対面とオンラインを併用したハイフレックス方式を採用したが、今後、コロナ禍であるかは別としてこの方式が研究会の一つのスタイルとして定着していくのではないかと見通している。もともと地方は交通の便の悪いところが多く、オンラインで参加できることのメリットは少なくない。ただし、先の冬例会では対面開催でのみ遺物の見学会を実施できたが(写真3)、これをどのようにオンラインで配信するかなど課題も多い。
オンライン化の課題と地方学会のあり方
コロナ禍によって、学会や研究会の多くがオンラインを活用した取り組みを進めており、島根考古学会でも導入可能な方法を積極的にとりいれてきた。オンライン会議システムを用いた発表、さらにはそれをリアルタイムでYouTubeによってライブ配信(限定公開)するなどの方法は、考古学以外の分野やエンタメ業界の実践例も参考にした。また、コロナ禍をめぐる対応として、ホームページを新装し(https://shimanekouko.wixsite.com/my-site)、汎用SNS(Facebook)による情報発信も強化した。
しかし、急激なオンライン化は地方学会においては分断をもたらしかねない。会員が十分なオンライン環境下にあるのかどうかなど配慮が不可欠であろう。コロナ感染者が相対的に少ない地方ゆえに完全なるオンライン化ではなく対面での各種行事の開催を模索し、会誌や連絡誌といった学会の顔でもある刊行物の充実を図ることが、会員とともに歩む地方学会にとっては重要な意味をもつと考える。たとえば、島根考古学会では、財政状況の悪化により、連絡誌である『島根考古だより』を長らく休刊していた。しかし、コロナ禍によって対面での活動が制約されることを懸念して、県内における遺跡の調査情報や県内の考古学をめぐる動向を提供すべく『島根考古だより』を復刊したところ、会員からは好意的な意見が多く寄せられた。
コロナ禍によって地方学会が置かれる状況はこれまで以上に厳しいものとなったことは疑いない。いっぽうで、運営を担う立場にいると、対面機会が制約されるなかで若手を中心とする学会の運営主体の結束は強まったようにも感じる。その意味では、コロナ禍というピンチをチャンスに変える取り組みを模索することが、地方学会の未来を明るくするのではないかと思う。