第35回「コロナ禍と西アジア考古学」 足立拓朗

 海外考古学を専門とする研究者にとって、コロナ禍による海外渡航の禁止は重大な問題である。報告書自身も2019年度までは年に数回の海外調査に参加してきたが、その機会はほとんど失われてしまった。西アジア地域の調査は、昨年度に続き、今年度も殆ど行われていないと思われる。日本人による西アジアの考古学活動は3月の発掘報告会で、毎年総括されている。しかし、今年度も調査を実施した隊が殆どなく、最新の報告会という感じではないようだ。それでも3月のオンライン報告会を楽しみにしている方も多いと思う。

 私が所属する金沢大学は、このような状況で9月、12月と発掘調査を実施している。調査をしたのはサウジアラビアである。サウジアラビアは9月時点で、ワクチンの2回接種の割合は日本より高かった。現在でも3回目接種の割合は日本よりはるかに高い。

 金沢大学が発掘調査のためサウジアラビアで雇用しているのは、パキスタン人の労働者である(写真1)。サウジアラビアでは労働者の多くはパキスタン、アフガニスタン、バングラデシュからの出稼ぎ労働者である。彼ら労働者のワクチン接種もサウジアラビアでは滞りなく進んでいるようだ。

 さて海外調査の実施は難しくなっているが、国際的な学会活動は昨年から復調し、むしろ活発になっていると思われる。西アジア考古学の最大の学会であるICANE(イカーネ:International Congress on the Archaeology of the Ancient Near East)はハイブリッド開催で2021年4月に無事に開催された。開催地はイタリアのボローニャだったが、多くの日本人考古学者もオンラインで日本から参加した。

 金沢大学では駐日イラン大使館と協力して考古学セミナーを毎年開催してきたが、昨年度からオンラインの国際考古学会議を開始した。今年度は2022年2月19日に5名のイラン人考古学者、3名の日本人考古学者の研究発表が行われた。日本、イランの他にヨーロッパや東南アジアの考古学者も参加し、活発な議論が行われた(写真2)。

 このような例からもわかるように、コロナ禍によって、むしろ研究発表の場は多くなっているとも言える。しかし、遺物や手にとっての議論するようなワークショップは不可能であり、また発掘調査の見学会なども実施の機会はなくなった。やはり考古学という実物を相手にする学問にとって、コロナ禍による負の影響は大きいと言わざるを得ない。

 

 

2021年12月、金沢大学のサウジアラビア調査(上杉彰紀氏撮影)

 

 

 

2022年2月19日に開催された「Online International Conference for the Iranian Archaeological Webinar, 2022」