アイヌ遺骨・副葬品に関する日本考古学協会会長声明

  一般社団法人日本考古学協会は、考古学の発展と社会に対する責務を遂行することを目的として1948年に創設された、日本における考古学界を代表する学会として活動してきました。
 この間、過去に行われたアイヌ遺骨とそれに伴う副葬品の収集や保管のあり方などの問題が認識されるようになり、日本考古学協会もこの問題に取り組んできました。日本政府が主導するアイヌ遺骨の問題への対応が始まる中で、2015年には「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル」が、北海道アイヌ協会・日本人類学会・日本考古学協会の3学協会の委員によって組織され、過去の研究の問題点と今後の研究のあり方などが検討されてきました。その検討結果は、「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル報告書」(2017年4月7日)としてまとめられています。その後、ラウンドテーブルには、日本文化人類学会も参加し、4学協会で「アイヌ民族に関する研究倫理指針」を策定する作業を行っているところです。
 私たち日本考古学協会は、このラウンドテーブル報告書が示すように、過去の研究の過程で、アイヌの人々の遺骨と副葬品についての考え方に対して無理解があったこと、植民地主義や同化政策につながる誤った視点や当事者たるアイヌの人々に研究成果の還元がなされていないなどの問題が存在したことを確認しております。特に、過去に行われた研究目的の遺骨と副葬品の収集に、適切な手続きをはなはだしく欠くものや、詳細な記録を欠くものがあるなどは、特に深刻かつ重大な問題です。収集後の保管状況についても適切でないものが存在し、誠意を欠く対応があったことも、反省すべき点として認識しております。
 このような適切な手続きを欠く過去のアイヌ遺骨の収集は、自然人類学研究を目的としたものではありますが、考古学もその責任をのがれることはできません。
 考古学研究では、遺跡出土人骨の調査研究において、自然人類学の研究者と常に連携してきました。考古学と自然人類学が分化して、それぞれ独自の方法のもとで研究を進めていく以前には、両者は一体のものとして歩んできた歴史を忘れることはできません。考古学は一貫して、自然人類学と近接する位置にあることから連携して研究交流を続けてきており、事情を知らない第三者ではありません。またアイヌ遺骨や副葬品の保管にあたっても、考古学関係者が無関係であったとは言えません。しかしながら一部の方々の努力を除くと、考古学研究者の多くは、この問題への関心が薄く、当事者の声に向き合ってこなかったと言わざるを得ません。
 日本列島における人類の歴史を研究する上で、考古学が果たしてきた役割は大きいと考えます。しかし、多数者である和人側の一方的な決めつけや偏見、あるいは軽視によって、アイヌ民族の歴史が正当に位置づけられていないことが少なくありませんでした。歴史のなかで形成され移り変わっていく文化と人間集団を、どのように把握していくべきかという面でも、反省し克服していかなければならない研究課題も多く残されています。総じて、アイヌ民族の歴史に対する認識や学術的な位置付けが不足していたことは否めません。このような研究のあり方が、結果的に、アイヌ民族への構造的な差別を容認し、アイヌ民族が自らの歴史を描くことを妨げてきました。
 日本考古学協会は、日本の考古学界を代表する学術団体として、このような研究の歴史と現状を深く反省し、心を痛めてこられたアイヌの人々に深くお詫び申し上げます。これからも、当事者であるアイヌの人々との意見交換を不断に続けながら、先住民族としてのアイヌの誇りを尊重し、その文化や歴史が広く社会に正しく理解を得られるよう、研究のあり方を問い直し、ありうるべき研究の姿を求め続けてまいります。

 2025年12月15日

一般社団法人日本考古学協会  会長 石川日出志

 

 

関連リンク:アイヌヘイトに対する3学協会共同会長声明