第3回 日本考古学協会賞

第3回(2012年度)日本考古学協会賞の発表

第3回日本考古学協会賞は、昨年の10件に対して4件の応募と少数でした。2013年2月14日(木)に選考委員会が開催されて、日本考古学協会大賞に東村純子氏の『考古学からみた古代日本の紡織』、奨励賞に小畑弘己氏の『東北アジア古民族植物学と縄文農耕』が推薦され、2014年3月23日の理事会において報告、第79回総会において承認され、田中良之会長から各受賞に賞状と記念品が授与されました。

日本考古学協会大賞

東村純子 著

考古学からみた古代日本の紡織』  六一書房 2011年3月31日刊行

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推薦文

本書は、糸づくりから布が織り上がるまでに必要となる各種の紡織具について、出土遺物によりながらその用途や機能を明らかにし、その分析にもとづいて弥生時代~律令時代にいたる紡織技術の変化、律令国家成立期の生産体制の特徴について検討したものである。これまで弥生~古墳時代の直状式原始機の経巻具ないし布巻具とされていた木製品を、形態的特徴と出土状況や民族資料との比較によって輪状式原始機を構成する布送り具であることを突き止め、さらに輪状式原始機の系譜を広く東アジアに求めて、弥生文化の紡織技術の復元に一石を投じた。また、律令体制下における織物生産の具体相について、地方官衙と一般集落を基軸に検討をくわえ、製糸と製織の分業体制の成立や実態の解明、糸の流通形態の復元といった実証的な研究成果を導いた。
本書は、日本古代紡織技術の復元的研究として完成度の高い一書であり、当該期の生活と文化を考えるうえで不可欠の書物である。選考委員会は、本書を日本考古学協会大賞候補として推薦する。

日本考古学協会奨励賞

小畑弘己 著

東北アジア古民族植物学と縄文農耕』 同成社 2011年3月20日刊行

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推薦文

本書は、縄文時代にみられる非栽培植物のドングリを扱っている部分もあるが、多くは栽培植物としてのオオムギ・コムギ・ダイズ・アズキなどについて、フローテーション法と土器圧痕レプリカ法で得た資料を活用し、詳細に検討している。ことにダイズとアズキについて、その起源地の1つとして縄文時代中期の中部地方や西関東である可能性を提唱している。その提唱に当って、琉球を含めた日本国内の資料にとどまらず、中国・朝鮮・モンゴル・シベリアなど、東アジアの全体およびその周辺に視野を広げて調査を実践し、それを実証している。また、直接植物資料を論ずるのみではなく、縄文時代のコクゾウムシを取り上げ、それがクリや堅果類でも繁殖することを明らかにして、コクゾウムシ遺存体の存在をもって縄文時代の稲作を論ずることの危険性に警鐘を鳴らしている点は、稲作伝来期の考察に関する重要な指摘である。このような小畑氏の研究法は、ロシア極東の沿海州における農耕化の過程を論じるなど、地域性や時代にとらわれるところがなく、今後の植生や植物質食材の研究に大きく貢献すると評価できる。
本書は著述のスタイルにも特徴がある。普通、本文の補足として付けたり的に書かれたコラムを冒頭に置き、その軽妙な語りでまず読み手の関心を惹きつける努力がされている。そこにこの著書への親しみが生じ、実際、少なくとも九州の発掘現場では植物質遺物の検出および分析においてバイブル的な扱いを受けている。今後の考古学研究の発展への寄与が日本考古学協会賞の大きな目的であり、本書はすでにその効果を発揮してきている。
ただ、研究の現段階ではダイズ・アズキなどのマメ類やムギ類を中心にしているため、東アジアに広くみられるアワ・ヒエの検討など重要な課題が残されている。その点が今後の課題であるとともに、今後の研究に大きな進展が望めるところから、本書を日本考古学協会奨励賞として推薦する。