本書は、糸づくりから布が織り上がるまでに必要となる各種の紡織具について、出土遺物によりながらその用途や機能を明らかにし、その分析にもとづいて弥生時代~律令時代にいたる紡織技術の変化、律令国家成立期の生産体制の特徴について検討したものである。これまで弥生~古墳時代の直状式原始機の経巻具ないし布巻具とされていた木製品を、形態的特徴と出土状況や民族資料との比較によって輪状式原始機を構成する布送り具であることを突き止め、さらに輪状式原始機の系譜を広く東アジアに求めて、弥生文化の紡織技術の復元に一石を投じた。また、律令体制下における織物生産の具体相について、地方官衙と一般集落を基軸に検討をくわえ、製糸と製織の分業体制の成立や実態の解明、糸の流通形態の復元といった実証的な研究成果を導いた。
本書は、日本古代紡織技術の復元的研究として完成度の高い一書であり、当該期の生活と文化を考えるうえで不可欠の書物である。選考委員会は、本書を日本考古学協会大賞候補として推薦する。