日本考古学協会において、会員の倫理をめぐる問題が議論されたことは過去にも何度かあった。しかし本格的な検討は、いわゆる「旧石器捏造事件」発覚直後の「上高森遺跡問題についての委員会見解」(2000年11月)で「協会として研究者倫理の徹底についても検討に取り組みたい」と示されたことに始まる。2002年5月の第68回総会では倫理綱領の制定を目指すことが表明され、2003年5月の第69回総会および会報No.149で「倫理綱領に関する基本的な考え方」を示して会員から意見を求めた。本協会は、2004年3月に有限責任中間法人として発足し、その定款第12条には会員の義務として「総会の定める倫理綱領を遵守しなければならない」と定められており、この点でも倫理綱領の制定が急務である。理事会では、2006年5月総会で倫理綱領を制定することを目指し、新たに小委員会を設けて案文を作成し理事会で検討した。ここに「日本考古字協会倫理綱領(案)」を提示し、会員から意見を求めるものである。
日本考古学協会は自由と平等の理念のもと、考古学の健全な発展をめざすとともに、文化財が人類共通の遺産であることを自覚し、その保護に力をつくし、あわせて社会のいっそうの向上に寄与することを使命とする、その使命を果たすため、ここに倫理綱領を制定し、日本考古学協会会員が守るべき規範とする。そしてこの綱領は、同時に広く考古学研究者が守るべき規範となり得ると信ずる。
(1)遺跡の保護
日本考古学協会会員は、考古学が対象とする遺跡、遺構、遺物が人類史・人類文化の貴重な遺産であることを認識し、これを保存し、活用していくために努力する。
(2)調査・研究の公開・普及
日本考古学協会会員は、調査・研究などの学問的成果を広く社会に公開し、普及することに努める。
(3)環境や社会に対する配慮
日本考古学協会会員は、調査・研究を遂行するにあたり、対象となる地域の自然環境の保全に努め、その地域の歴史・文化を尊重するとともに、地域社会との関係に配慮する。
(4)知的財産権の尊重
日本考古学協会会員は、他者の知的成果、知的財産権を尊重し、これを侵害してはならない
(5)遺物や美術品の不正取引等の禁止
日本考古学協会会員は、遺物や美術品などの文化財の略奪、不正な取引・譲渡に関与してはならない。
(6)関係法令の遵守
日本考古学協会会員は、海外もしくは国内において調査・研究を遂行するにあたり、その国の関係する法令を遵守する。
(1)調査・研究における専門的能力
日本考古学協会会員は、調査・研究に関して、関連分野を含めた知識・方法論など、専門的能力の向上に努め、その遂行においては最善をつくす。
(2)調査の準備・計画
日本考古学協会会員は、適正な教育や訓練を受け、かつ事前に適切な準備・計画を策定した上で調査に着手する。
(3)調査記録の作成と保存
日本考古学協会会員は、遺跡の調査においては、恒久的で適正な記録を作成し、かつ報告書刊行後も記録の保存に万全を期す。
(4)報告書の作成
日本考古学協会会員は、遺跡の調査成果について、適正な報告書をすみやかに刊行し、その学術的成果の周知・共有化をはかる。
(5)資料・記録の保存・管理・公開
日本考古学協会会員は、調査によって得られた資料・記録が人類共有の財産であることを認識し、これらを適正に保存・管理するとともに、公開に努める。
(6)安全と人権への配慮
日本考古学協会会員は、調査・研究の遂行にあたって、安全対策に万全を期すとともに、人権を尊重する。
(7)不正行為の禁止
日本考古学協会会員は、調査・研究の遂行および成果発表の際に、資料・記録の捏造や、成果の盗用など、いかなる不正行為もしてはならない。