ふたつの「発掘調査」
日本中いたるところで遺跡の発掘調査が行われています。その数、年間7,000~8,000件ほど、このほとんどは、何か建物が建ったり、道路が作られたりするときに地下の遺跡が壊されることが多いため、その前にそれがどういうものであったか詳しく調べ、できるだけ正確な記録を残しておこうとするものです。これを「緊急発掘調査」とか「行政発掘調査」などといい、日本の遺跡発掘調査の99パーセント以上を占めます。発掘調査にはこのほか、研究者が自分の学問的興味に基づいて任意の場所を掘ったり、行政機関が保存整備のために指定史跡を継続的に掘ったりするものもあり、これを「学術調査」といいます。
学術調査の場合、遺跡は調査後に埋め戻されて保存されますが、緊急調査ではたいていの場合、調査後に開発行為によって壊されます。また前者の場合には、経費は公的資金や補助金などでまかなわれるのに対し、後者の場合は、個人住宅建設の事前調査などを除き、ほとんどが遺跡を破壊する原因を作る事業者が負担します。これを「原因者負担」または「事業者負担」の原則といいます。では原因者負担の原則は、どのような論理により成り立っているのでしょうか。
誰のために、何のために発掘調査をするのだろうか?
土地の所有者が自分の土地に建物や道路を作ったりするのは、ひとまず自由です。しかしたいていの場合、その人物、あるいは団体が土地を手に入れたのは、たかだか数ヶ月か数年、せいぜいこの数十年のうちに過ぎません。一方、地下の遺跡は土地所有者よりもはるか以前からそこにあります。たまたまそこの所有者となった人物(団体)には、地上に何か建造物を作る権利はあるにしても、そのことのために、その地下に何百年、何千年の昔から存在し続けてきたものを壊す権利まではありません。遺跡はだれか特定の人の所有物ではないのです。では誰のものでしょうか。誰のものでもありません。私たちの祖先の生活した証しを、誰か個人が独占することはできないのです。つまり、遺跡は「皆のもの」です。皆で守っていかなければならないものなのです。遺跡をしばしば「国民共有の財産」といいますが、それはこのような意味です。
現代の私たちの要求を優先してどうしても何かを作って遺跡を壊すのであれば、それがどういうものであったかを正確に調べ、できるだけ元の姿に近い形で国民の前に示さなければいけません。調査・保全(保存)・展示公開をする義務がこのとき生まれます。発掘調査は調査報告書の刊行をもってひとまず終了となりますが、それだけでなく、そのあと市民に親しみやすい形で公開することで、はじめて遺跡は国民共有の財産として生きるのです。