埋文委ニュース 第68号
日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会
埋蔵文化財保護対策委員会*******2015.5.22
本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2015年度総会に先立って帝京大学本館7階1・2・3会議室を会場として、委員等33名の参加を得て開催された。冒頭に矢島國雄委員長が挨拶し、埋文委アンケート10年間の総括をもとに、総会でのセッション開催、『日本考古学』への掲載を行うことが示され、その協力が要請された。その後、事務局の推薦により議長団に松本富雄(埼玉県)・一瀬和夫(大阪府)、書記に柳戸信吾(埼玉県)・小笠原永隆(千葉県)の各委員を選出した。主な議事内容は以下の通り。
1.埋蔵文化財保護対策委員会の2014年度活動報告ならびに2015年度活動方針
(1)2014年度の活動概要と決算報告
松崎事務局長により、2014年度における埋文委の主な活動及び決算について報告された。
月例の幹事会(計10回)における会議の内容や、要望書を提出した千葉県船橋市海老ヶ作貝塚、神奈川県鎌倉市円覚寺西側結界遺構、高知県高知市浦戸城跡の保存問題等に関する主要な取組みの状況等が報告された。また、10年間取り組んできた「埋蔵文化財を取り巻く状況に関するアンケート」について、2014年度は実施せず総括を行うこととし、これに関する研修会の報告なども合わせて行われた。さらに、文化庁との懇談会の概要が報告された。
(2)2015年度予算(案)と活動方針
松崎事務局長により、2015年度予算(案)及び活動方針が提示された。予算(案)については、やや減額となっているが、活動を制限するものではないことが説明され、原案通り総会に諮ることで了承された。活動方針については、幹事会の月例会と研修会を例年通り開催するとともに、九州地区での連絡会結成に向けた動きがあれば積極的に支援してくことが確認された。
2.委員アンケート10年の総括ならびに問題点と課題(埼玉県・奥野委員)
(1)埋蔵文化財保護に関するアンケート10年間の総括について次の3点に絞って報告された。
①地方行政の動向 担当職員に関しては、30歳代以下の正規職員が減少し、非正規職員が多くなっている。さらに、市町村合併等の影響で、博物館や社会教育全般との兼務が一般化し、職員の負担が増大する傾向にある。発掘調査については、民間調査機関の導入が進んでいるほか、国庫補助に随伴する補助金がつかないケースもみられ、財政悪化を理由とした調査の取りやめが懸念される。調査基準を標準化する動きも活発だが、基準が社会的に広く認知されるものでなければならない。
②埋蔵文化財の保存と活用 各地で世界遺産を目指す動きが活発化し、地域が一体となった整備活用は良いことだが、観光に偏るなど懸念材料も多い。首長部局と教育委員会の連携が重要である。
③出土資料の保管・管理・活用 2011年度、都道府県と政令市を対象に出土資料の取扱いについてアンケートを実施したところ、収蔵専用ではない施設へ仮の分散保管が常態化していることが明らかとなった。さらに、活用見込みの低い遺物の廃棄について、文化庁の指針を越え機械的に区分する基準を作る自治体がある。情報公開も不十分で、強く憂慮される。活用については、学習用貸出キット、体験イベント、巡回展が盛んになっているが、担当職員が少ないと実施できず、自治体間で格差が生じている。また、資料の学術的活用が少ないことは残念である。
(2)アンケートにより明らかとなった問題点と課題
博物館・資料館については、市町村合併の影響で、閉館や規模縮小する館が増え、2008年度より館数が初めて減少に転じた。また、一般化した評価制度は、入館者数を重要視する傾向が強く、観光施設化を促すだけでなく、博物館活動の質の低下を招いている。また、若い正規職員の減少、非常勤・再任用職員の増加は、技術継承を困難化させ、この傾向に拍車をかけている。指定管理者制度の導入も進んだが、民間側は管理部門のみを求めることが多く、直営に戻す事例も見られる。
民間調査機関の導入問題については、かながわ考古学財団の民営(一般財団法人)化問題が、埋蔵文化財調査において自治体がどこまで責任を負うのか、という意味で象徴的な事例であった。地方自治体の民間調査機関の活用は確実に進んでおり、民間側の体制整備も進んでいる。しかしながら、管理監督に係る体制整備は進んでいるとは言い難く、問題も大きくなっている。
全体として、この10年間で問題は多様化しており、取り組むべき課題も複雑化している。なお、埋蔵文化財の保護問題については、あからさまな破壊事例は減少傾向にある。しかしながら、この問題に直面した時、行政職員は研究者以前に公務員であり、理想を追うことだけでは済まされないという現実がある。学会の役割として、世論に保護を訴えていくことが今後の大きな課題となる。
3.静岡県沼津市高尾山古墳の保存を求める会長声明について
松崎事務局長より、理事会の最終判断をもって声明が関係機関に送付されることが報告された。
4.各地からの報告
(1)北海道・東北連絡会(藤澤副委員長)
・福島第一原発事故に伴う中間貯蔵施設建設に伴う埋蔵文化財調査/県と環境省は通常の遺跡と同 じ扱いをすることを明言した。
・大震災復興事業に係る埋蔵文化財調査/埋蔵文化財調査はかなりの進捗を見せ、高台移転関連を 中心に今年度中に目途がつく見込みだが、完全に終了する訳ではない。復興交付金が27年度で終 了してしまうが、その後は発掘調査等についても地方負担が生じる見込みである。
・宮城県栗原市入ノ沢遺跡/国道43号パイパス工事に伴い調査が行われ、古墳時代集落と豪族居館 が発見された。続縄文文化との接点と示すと思われ、かなり特殊な事例として、県教委は保存の 意向である。しかし、調整段階ですでにルート変更した結果であり、難航することも予想される。
(2)関東甲信越静連絡会(千葉県・日暮委員)
・臨地研修会/千葉県鴨川市嶺岡牧は、日本の主要乳牛メーカーの発祥地であり、資源調査を通じ て管理型放牧を行っていたことが判明しつつあり、重要な近代化産業遺産として位置づけるこ とが可能となっている。そこで、3月21日に魅力ある地域づくりの原点としての嶺岡牧を考える ため、ワールドカフェ方式で検討を行った。
(3)関西連絡会(大阪府・佐藤委員、一瀬委員)
関西地区全体で調査件数が増え、職員も増員傾向にあるが、まだ人員不足の自治体もある。
・兵庫県朝来市竹田城/教育委員会と市長部局との連携を進める方向で、改善の見込み。
・兵庫県神戸市兵庫城/天主の一部が検出され、大半が保存となった。
・奈良県天理市西乗鞍古墳/市が保存を決定し、国指定史跡化の意向を示している。
・奈良県明日香村小山田遺跡/建設予定だった校舎の設計を変更し、保存の方向で話が進んでいる。
(4)四国連絡会(愛媛県・吉田委員、高知県・吉成委員)
・高知県高知市浦戸城/保存要望書を提出したものの対立が続くが、市側は協議の可能性を見せて いる。4月に地元関係団体の主催でシンポジウムが開催され、県内外から約60名が参加した。6 月には坂本龍馬記念館の実施設計が上がってくる見込みなので、今後も動きを注視したい。
・愛媛県今治市野間神社/地元が修復の方向でまとまり、来年度までに具体的な方法を検討する。
(5)九州地区(福岡県・田尻委員、沖縄県・山本委員)
・九州考古学会総会(11月29日開催)の終了後、埋文委の委員に呼びかけて情報交換会を行ったが、 有益であるとの意見が多く、年に1回はこのように集まり、情報を共有することとした。
・沖縄県那覇市中城御殿跡/2011~2014年度にかけて首里高校校舎建設に伴う調査を実施。沖縄県 考古学会が保存要望を提出、県側はできる限り遺構を保存するため設計変更を検討している。
(報告:小笠原)