2022.12
埋文委ニュース 第81号
日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会
はじめに
本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会(以下、埋文委)の情報交換会は、2022年10月9日(日)13時30分~15時30分に九州大学伊都キャンパスイースト1号館B-101教室を会場として、41名(会場16名+オンライン25名)の参加を得て開催された。山田康弘委員長による挨拶の後、開催地報告、そして各地の埋蔵文化在保護の状況等についての報告および活発な意見交換が行われた。
1 開催地報告
神保公久委員(福岡県)の進行により、近年の九州地方における埋蔵文化財保護に関する2本の報告が行われた。
(1)「佐賀市七ヶ瀬遺跡(弥生時代墓地遺跡)の保存について」重藤輝行氏(佐賀大学芸術地域デザイン学部)
この遺跡は、1980年・2019年・2020年の各年度の調査により、弥生時代後期を中心とする大規模な墓地群が確認され、当該期における墓域の展開をとらえることができる大変貴重な遺跡として注目された。
特に2020年度に徴された3区(3,000㎡)では、甕棺墓87基、石棺墓18基、木棺墓および土壙墓105基の集団墓、祭祀土坑や多くの遺物が確認され、当時の社会情勢や集団構造を知る上でも大変貴重な資料が得られた。
調査は、工業用分譲地造成に伴うものであったが、文化財保護審議会の保存検討要請に加えて、事業者である佐賀県側の理解もあり、計画が変更され遺跡を保存することとなった。
(2)「平成29年7月九州北部豪雨災害の復旧にかかる朝倉市の埋蔵文化財保護行政について」姫野健太郎氏(朝倉市文化・生涯学習課)
表題の豪雨災害による被害は甚大であり、人口約5万人の市に大規模復旧工事の必要性が生じた。それに伴い、例年130件ほどの照会が激増することとなった。そして、そのほとんどが調整対象であり、現有職員では対応が難しい状況となったが、県および他市から職員3名の応援を得て、その対応にあたった。
応援職員と調査需要のバランスをとるのに苦慮したが、原因者側に担当窓口の設定を依頼するなどしたことで、比較的スムーズに調整を進めることができ、遅延することなく復旧工事が着手されることとなった。
2 地域連絡会からの報告
(1)関東甲信越静地区連絡会
望月秀和委員(山梨県)より、山梨県甲府市平瀬の烽火台破壊問題についての報告があった。
平瀬の烽火台は、中世・武田氏の頃に築かれ、天神平の東にある通称「城山」の山頂、標高586mに位置する。2段の主郭・帯郭という簡素な構造から、烽火台の典型とされてきた。
遺跡の破壊は、SNSへの投稿によって明らかとなり、甲府市教育委員会が現認し、作業を行っていた業者と接触したが、開発者は不明であった。また、土地所有者に無断で開発されていたことが明らかとなり、地権者は警察に相談し、県・市による対応協議が行われた。その後、山梨県考古学協会埋蔵文化財保存対策特別委員会は、現地調査を行い、主郭が広範囲に削平されるなど遺構の深刻な破壊状況が明らかとなった。
今回の事案は、人目につきにくい山間部遺跡の無断現状変更であり、類似する遺跡に対しての再発防止・注意喚起を行うものである。
(2)関西地区連絡会
山川均委員(大阪府)より、豊田裕章委員(大阪府)作成の資料に基づき、現在調査中である大阪府島本町越谷遺跡の状況報告があった。
水無瀬離宮と関連する越谷遺跡では、庭園遺構と考えられる州浜状地形が検出され、その重要性が指摘できる。しかし、町教委側の見解では自然地形とされていることから、調査体制を拡充して詳細な調査を実施する必要がある。さらに、周辺の関連地点とともに遺跡の保存について町側に求める必要がある。
(3)中国地区連絡会
会下和宏委員(島根県)より島根県出雲市大社基地跡遺跡群保存問題について、藤野次史担当理事(広島県)より広島市陸軍中国管区輜重兵補充隊施設被爆遺構(サッカースタジアム建設予定地)保存問題について、その経過ならびに埋文委として対応してきた事項、さらに現在の状況についてそれぞれ報告があった。
埋文委情報交換会は、新型コロナウィルス感染拡大による大会の開催方法が変更されたことなどもあり、3年ぶりの開催となった。対面とともにオンラインを併用したことで、例年よりも多くの委員の参加を得ることができ、活発な議論を交えることができた。今後も対面、オンラインそれぞれのメリットを活かしつつ、多くの委員の交流を図っていきたい。
(小笠原永隆)