埋文委ニュース 第70号

埋文委ニュース 第70号                               2016.8

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋蔵文化財保護対策委員会*******2016.5.27

 本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2016年度総会に先立って東京学芸大学20周年記念飯島同窓会館第4会議室を会場として、委員等34名の参加を得て開催され、矢島國雄前委員長による挨拶の後、事務局推薦により議長団に舘野孝(東京都)・松本富雄(埼玉県)、書記に小笠原永隆(千葉県)・関口慶久(茨城県)を選出した。主な議事内容は以下の通り。

1.委員の改正及び委員長・副委員長の選出

 今年度より委員が改選となり、新たな委員長に藤沢敦委員が、副委員長に山田康弘委員、藤野次史委員がそれぞれ満場一致で選出された。

2.2015年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動報告

①2015年度の活動概要と決算報告  松崎元樹事務長により、2015年度における埋文委の主な活動及び決算について報告された。 月例の幹事会(計10回)における会議の内容や、要望書を提出した静岡県沼津市高尾山古墳の保存問題等に関する主要な取組みの状況、新たに九州・沖縄地区連絡会が立ち上がったこと等が報告された。また、総会時委員会、大会時の情報交換会、文化庁との懇談等の各概要が報告された。 ②2016年度予算と活動方針  松崎事務長により、2016年度予算及び活動方針が提示された。予算については、すべて了承された。活動方針については、幹事会の月例会議と研修会を例年通り開催するとともに、埋蔵文化財保護をめぐる状況アンケートの10年総括を文章化していく作業を進めていくことが確認された。

3.埋蔵文化財保護対策委員会規定について

 馬淵和雄担当理事より、協会における各委員会の規定見直しに伴い、2016年4月1日付で「埋蔵文化財保護対策委員会規定」が施行されたことにより、これまでの「埋蔵文化財保護対策委員会規則施行規定」が廃止となったことや委員の任期等に関する事項の説明がなされた。

4.埋蔵文化財保護をめぐる状況の10年総括について

 松崎事務長により、『日本考古学』誌上において、10年にわたって実施してきたアンケートの総括について本年度中に取りまとめる方針案が示され、今後の進め方についての説明がなされた。

5.WAC-8について

 矢島前委員長より、本年度に京都で開催されるWAC-8について、埋文委として活動状況のポスター発表を行うこととし、ポスターセッションに関する説明等を行う人員を出すことについて説明がなされ、今後の対応を幹事会に一任することが了承された。

6.各地からの報告

① 北海道・東北連絡会(藤沢委員長)

  • 宮城県栗原市入の沢遺跡/保存の方向で協議が進行中。
  • 宮城県山元町合戦原遺跡/横穴内線刻部分のみの剥取り保存が決定、実施された。
  • 岩手県洋野町西平内Ⅰ遺跡/配石墓群は移設保存。町は隣接部分の確認調査を実施する方針。
  • 東日本大震災復興に伴う埋蔵文化財調査/全体的に進捗が著しいが、地域差が生じていることが懸念される。原発被害地域内については事業自体が未着手。報告書作成については、復興交付金の振替により今後5年以内の作成が可能となり、時間的制約が大幅に緩和。

② 関東甲信越静連絡会(松本委員・渡井英誉委員)

  • 静岡県沼津市高尾山古墳/遺跡保存と道路建設を両立させるための協議会が立ち上がり、整備案が検討されているが、状況の変化も懸念され、今後も注視していくことが必要。
  • 埋蔵文化財の活用/現状のままで良いのか、今後その理念から検討していくことが必要。

③関西連絡会(一瀬和夫委員)

  • 大阪府枚方市禁野本町遺跡/旧陸軍火薬庫跡について、保存はできなかったが、案内板を設置。
  • 大阪府羽曳野市応神天皇陵古墳外濠外堤/国史跡範囲内に、イベントスペースへ通じる砕石敷の仮設道路が設置され、大阪府の命令により、市が撤去を開始。史跡に対する姿勢が大きな問題。
  • 奈良県橿原市見瀬丸山古墳/墳丘本体が公有化されたが、周溝や外堤部分はできていない状況。大阪府、奈良県を中心とした大型古墳について同様の問題が多くあり、今後の検討が必要。

④四国連絡会(吉田広委員)

  • 高知県高知市浦戸城跡/新坂本龍馬記念館の竣工が決定しており、今後は工事が急速に進むと思われ、連絡会としても積極的に対応していく方針。

⑤九州連絡会(佐藤浩司委員・田尻義了委員)

  • 「平成28年熊本地震」文化財被災状況/九州考古学会、大学、博物館等で復旧に向けた動きがあるが、各市町村では、文化財の被害状況が把握しきれていない模様。文化財復旧の財源確保が、今後の大きな課題。
  • 福岡県北九州市城野遺跡/土地の落札業者が決まり、保存は極めて厳しい難しい状況だが、その重要性に鑑み、引き続き保存や活用に関する要望活動を継続していくことが確認された。

⑥その他地域からの報告 (1)広島県(藤野副委員長)

  • 「広島県福山市鞆の浦/高潮対策の護岸整備事業が進行。今後有識者組織において検討予定。
  • 広島県広島市広島平和記念資料館被爆遺構/被爆遺構はもとより、近世初頭までの遺構も良好に残っている模様だが、現在情報は非公開。
  • 広島県三原市和霊石地蔵磨崖仏/埋文委による現地視察の後、保存要望書を提出。県と市が協力して対応する模様だが劣化が急速に進んでおり、今後も注視が必要。

(2)岡山県(野崎貴博委員)

  • 岡山県岡山市千足古墳/2011年に石障を搬出後、市による保存・整備が進行中。
  • 岡山県岡山市百間川河川改修工事に伴う調査/大規模な石造構造物や堤等の遺構が検出。事業者である国交省河川改修局との協議により、遺跡は保存される見通し。

(3)石川県・福井県(伊藤雅文委員)

  • 北陸新幹線の敦賀への延伸工事前倒しに伴う調査量増加に対し、民間調査機関の導入、富山県から石川県への職員派遣などの措置がなされたが、調査水準維持が今後の課題。

(4)沖縄県(山本正昭委員)

  • 沖縄県那覇市中城御殿跡/校舎設計案が8月に出る見込み。全面保存は厳しいという情報もあり、今後も地元の状況の注視が必要。

(文責:小笠原永隆)