広島県安芸郡府中町下岡田遺跡の保存・活用に関する要望書

2025年9月26日
埋文委 第4号

文化庁長官 都倉 俊一 様
広島県知事 湯﨑 英彦 様
広島県教育委員会教育長 篠田 智志 様
府中町長 寺尾 光司 様
府中町教育委員会教育長 新田 憲章 様

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 吉田 広

 

広島県安芸郡府中町下岡田遺跡の保存・活用に関する要望書

 

 標記の件について、別添書類のように、当該文化財は学術上きわめて重要な内容を有するものであり、貴職におかれましては、適切な保存の対策が講じられることを改めて要望いたします。

 なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2025年10月17日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。

 

 

 1 提出書類
  別添のとおり 1通

 


2025年9月26日
埋文委 第4号

文化庁長官 都倉 俊一 様
広島県知事 湯﨑 英彦 様
広島県教育委員会教育長 篠田 智志 様
府中町長 寺尾 光司 様
府中町教育委員会教育長 新田 憲章 様

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 吉田 広

 

広島県安芸郡府中町下岡田遺跡の保存・活用に関する要望書


 広島県安芸郡府中町石井城二丁目・城ヶ丘に所在する下岡田遺跡は、旧石器時代から中世にかけての遺跡です。とくに、奈良時代の官衙が想定できる場所は下岡田官衙遺跡として国史跡に指定されており、古代律令制下の地方制度や交通制度の実態を理解する上で学術的にもきわめて重要です。このたび、この遺跡の中心部に位置しながらも史跡には未指定だった場所にアパートが建設されることは、遺跡の保存・活用に重大な影響をおよぼすものであり、きわめて残念なことです。
 そもそも、この遺跡は1953年に最初の発掘調査が行われ、1967年の第4次調査までに官衙遺跡としての性格やその重要性が明らかになっています。1970年代以降、遺跡周辺では宅地開発が急速に進み、保存・活用を検討するための範囲確認調査等が実施されてきたものの、総合的で長期的な展望に基づいて遺跡の保護・活用に向けた施策が採られたとは言いがたい状況にあります。今回の問題も、都市計画に対する対応が遅れ、貴重な文化財が町づくりに活かされなかったことが、その背景にあると私たちは考えます。
 2024年3月には『史跡下岡田官衙遺跡保存活用計画』が策定されましたが、その中では重要な遺構が存在する未指定区域の保存・活用計画が具体的に示されていません。そのため、今後どのような形で遺跡の保存・活用を図っていくのか、全体像が明らかではありません。さらに、実施計画に示された項目のうち、史跡指定地の公有化は一定程度進展したものの、それ以外の計画、たとえば、文献調査を含む調査・研究、追加指定の検討、大学等高等教育・研究機関との連携に基づく調査・研究などは、具体的な進捗状況が明らかではありません。これらの諸事業は、今後に予定されている整備基本計画を策定する際の基盤となるものであり、計画的な実施が求められます。
 下岡田遺跡は、府中町という自治体名の由来につながる遺跡であり、住民のみなさんが地域の成り立ちを理解し、地域への愛着を深めていくためのかけがえのない遺跡です。関連諸分野の学術研究の進展に対応しながら、住民のみなさんとの連携によって、地域の文化遺産を守り育てていくことが求められています。
 以上のことから、一般社団法人日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、次の点を要望します。

 

1 2024年3月に策定された『下岡田官衙遺跡保存活用計画』に基づき、計画した諸事業を確実に実施するとともに、未指定地を含む遺跡全体を保存・活用するための具体的な計画を策定し、周辺一帯の町づくりに活かしていくこと。
2 地域に根ざした遺跡の保存・活用施策が、長期的展望のもとで計画的に実施できるよう、専門職員の配置を含む行政組織の整備・拡充を進めること。