第6回 日本考古学協会賞

第6回(2015年度)日本考古学協会賞の発表

「第6回日本考古学協会賞」には、締切日までに10件の応募がありました。2016年2月16日(火)に選考委員会が開催されて、日本考古学協会大賞には関根達人氏の著書『中近世の蝦夷地と北方交易』、奨励賞に角田徳幸氏の著書『たたら吹製鉄の成立と展開』がそれぞれ推薦され、3月26日(土)の理事会で承認されました。各賞は、5月28日(土)の第82回総会において発表され、髙倉洋彰会長から賞状と記念品が授与されました。

受賞理由は、次のとおりです。

日本考古学協会大賞

関根達人 著
中近世の蝦夷地と北方交易』 吉川弘文館  2014年11月1日発行

関根達人

推薦文

中・近世の北方史、北方交易史、蝦夷地の研究は、従来、考古学の成果を取り入れつつも、文献史学を中心に行われてきた。また、アイヌと和人の交易の推移や北海道島およびカラフト(サハリン島)への和人進出の実態を時空ごとに把握するために、アイヌ考古学と中・近世考古学が研究上、十分な接点をもってこなかった。これに対して本書は、まず編年の柱である出土陶磁器の精緻な調査と時期区分に基づきながら、アイヌ考古学と中・近世考古学の融合的研究を具体的に実践している。そして、その時期区分が蝦夷地の経済史と政治史の動向に連動することを明らかにし、融合研究の成果を陶磁史研究の枠組みに留まらず中・近世史学へ昇華させることを目指している点は、評価できる。つぎに、考古資料だけでなく、文献史料、絵画、墓標・社寺奉納物を含む石造物などのじつに多様な資料を導入して、総合的に蝦夷地の内国化の実態に迫ろうとする分析方法も高く評価できる。とくに、墓標を含む石造物の悉皆調査とその成果は、新境地を開拓し、文献史学へも大きな影響を与えている。本書におけるこのような分析方法は、じつは著者が前任地で近世城郭跡を発掘調査した際に、出土陶磁器や東北地方の近世墓の多様な副葬品の編年研究を実践する過程で培われたものである。
なお、既発表の論文を一冊の著書にまとめる際に、各節の「はじめに」を重複を避けてより整理された書き方にし、「序章」で簡単に触れられている研究史についてもう少し丁寧にまとめれば、より完成度の高い著書になったであろう。本書は、刊行からわずか1年余で出版元に在庫なし、という高い関心がもたれた好著であるので、その作業は重版に際して期待したい。また、考古学的に不明な部分が多いカラフト(サハリン)島への和人の進出については、著者に白主会所跡やアイヌ集落跡のロシアとの共同発掘をぜひ実現していただき、今後の解明を期待したい。
以上のように、学界に新たな中・近世の蝦夷地研究の方向性を示した本書は、高水準の著書であると評価できる。また著者は、「あとがき」で亀ヶ岡文化を中心とする縄文文化研究との二足の草鞋を履いていると述べているが、縄文文化の研究でも学際性を有する高い業績をあげながら、本書をまとめ上げた点も高く評価できる。推薦委員会は、本書を日本考古学協会大賞とする。

日本考古学協会奨励賞

角田徳幸 著
たたら吹製鉄の成立と展開』 清文堂 2014年12月10日発行

推薦文

本書は、わが国における伝統的な製鉄の到達点である、たたら吹製鉄がどのような過程をへて成立・展開し、衰退するのか、また、東アジアの製鉄史の中において、どのように位置づけられるのかを詳細な考古学の発掘調査の実例をもとに実証的に検討した好著である。また、古文書や金属学的な所見なども、組み込んでおり、たたら吹製鉄という近世を対象とした考古学の分析と、それをもとにした歴史叙述に成功している。近世考古学のあるべき方法論のひとつを提示している。
たたら吹製鉄は、汎列島的な規模で鉄需要を賄えるほどの大規模な鉄生産であり、豊富な砂鉄を原料として、中国地方を中心に17世紀に成立した、わが国独自の製鉄法であった。
本書では、まず、箱形製鉄炉の成立から鉄鉱石の利用、日本の風土に適応した砂鉄利用のはじまりを整理し、中世の製鉄炉の形態や精錬鍛冶技術など、技術的な要素を検討して、その技術的な系譜から近世たたら吹製鉄が生まれることを検証する。
そして、たたら吹製鉄の具体的な様相について、その工程に沿って考古学の発掘調査の成果を基本としつつ、文献史料や金属学的な所見を縦横に使い、たたら吹製鉄の全体像を復元する。そして、高殿、製鉄炉を中心に、その地域的な特性を把握する。たたら吹製鉄の生産システムや鉄の流通などをもとに、「海の鈩」「川の鈩」「山の鈩」と地域による多様性を指摘する。考古学的な遺跡の分布や変遷と古文書や文献史料で明らかとなる操業の実態を照合することにより、地域ごとでのたたら吹製鉄の特性を示し、地域間での技術の移転を検討する。また、韓国の三国時代から高麗・朝鮮時代の製鉄遺跡と比較して、日本の製鉄が、朝鮮半島から技術移入によりはじまったが、その後は異なる展開をして、たたら吹製鉄が成立することを実証し、東アジアの製鉄でも、きわめて特異な存在であることを検証する。
本書は、具体的な調査例をもとに、日本独自のたたら吹製鉄の成立過程とその展開をあとづけるとともに、東アジアの中での独自性についても、その検証に成功している点が評価でき、日本考古学協会奨励賞とする。