第88回(2022年度)総会報告

一般社団法人日本考古学協会第88回(2022年度)総会報告

 日本考古学協会第88回(2022年度)総会は、5月28日(土)・29日(日)の2日間、早稲田大学早稲田キャンパスの国際会議場(28日)と戸山キャンパスの32号館(29日)を会場に開催された。第86回(2020年度)総会が新型コロナウイルス感染症拡大のため書面審議となり、本来計画されていた専修大学での開催が第87回に、第87回に計画されていた早稲田大学が今回に順送りで変更された経緯がある。早稲田大学での開催は、第75回(2009年度)以来13年ぶり、9回目のことである。同大学名誉教授・近藤二郎実行委員長のもと、大学関係者や卒業生・学生などの尽力により、滞りなく進行した。

 開催方法は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、28日は会場(対面)とオンライン、29日はオンラインとされた。参加者は28日会場96名・オンライン297名、29日会場46名(発表者等)・オンライン1,813名(重複集計あり、いずれも非会員を含む)であった。

【第1日:5月28日(土)】

 28日は、午前10時から休憩を挟んで午後4時まで、総会と公開講演会が行なわれた。

 総会は、司会の田尻義了理事により、総会の成立要件を満たしている旨の報告の後、開会された。開催にあたり、辻秀人会長から開催校を引き受けていただいた早稲田大学に対する謝意の表明など主催者としての挨拶があり、次いで近藤実行委員長からは開催校を代表して歓迎の挨拶があった。

 議事に先立ち、昨年度の物故会員27名に対し黙祷を捧げ、弔意を表した。

 その後、司会から定款により会長が議長を務めることが案内され、議長からの指名により副議長と書記各2名が選出され、さらに議事録署名者2名の指名が行なわれて議事に入った。

 審議事項は、第1号議案 新入会員の承認に関する件、第2号議案 2021年度事業報告・収支決算承認に関する件、第3号議案 理事の選任に関する件、第4号議案 監事の選任に関する件の4件であった。

 第1号議案では、正会員40名、賛助会員4名(フレンドシップ会員1名、学生会員3名)の入会が諮られ、承認された。会場参加していた新入会員が登壇し、代表して小山侑里子会員(神奈川県)が挨拶し、自己紹介や抱負などを述べた。

 第2号議案では、まず日本考古学協会賞の選考結果が報告された。大賞には岩本崇会員(島根県)著『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会』、奨励賞には丸山浩治会員(岩手県)著『火山灰考古学と古代社会』と福永将大会員(福岡県)著『東と西の縄文社会』、優秀論文賞には榊田朋広会員(北海道)著「擦文文化前半期の集落群構成と動態」と高瀬克範会員(北海道)著「Time period determination of the Kuril Ainu’s major withdrawal from Kamchatka」が選ばれている。次いで各担当からの事業報告、収支決算報告、監査報告が行なわれ、協会賞を含め、いずれも承認された。

 第3号議案では、理事選挙の結果が報告され、それに基づき新理事23名と継続の常務理事1名の選任が諮られ、承認された。

 第4号議案では、橋本裕行監事が任期満了で退任することから、後任として財務担当理事・同総務理事を務め任期が満了する萩野谷悟会員(茨城県)が推薦され、承認された。

 引き続き報告事項に入った。報告事項は、第1号報告 2022年度事業計画・収支予算に関する件、第2号報告 永年在籍会員表彰の件、第3号報告 日本考古学協会規則の一部改正に関する件、第4号報告 その他の4件があった。

 第1号報告では、2022年度の事業計画の概要と収支予算が報告された。事業計画ではアジア考古学四学会合同講演会が運営方法の見直しを行なうことから当面の計画には入っていないこと、収支予算では協会の今後を見据え会議のオンライン化を進めることで支出の抑制を図ったことなどが説明された。

 第2号報告では、対象者として在籍50年になった1973年度入会の正会員42名が報告された。

 第3号報告では、「協会規則」のうち理事選挙に関わる第6章の各条の改正について報告された。立候補者及び推薦受諾候補者以外への投票を無効とするなど、理事選挙の在り方や手続きの変更を内容とするものであった。なお、件名は議案書では「規則・諸規定の一部改正」とされているが、議事冒頭で訂正されている。また、この件はすでに『会報』第204号で報告されている。

 第4号報告では、会長から、岩手県立博物館における文化財への不適切行為事案への対応についての報告があった。同博物館職員であった会員(岩手県)が、鉄器の保存処理に関連して、分析のためとして委託者に無断で資料の一部を切り取ったという事案である。この件について岩手県教育委員会の最終調査報告が出たことから、事実関係を確認するため会長と佐藤宏之副会長が当人と面談し、岩手県内の資料101件について無断切取りは事実であると認定したこと、この件への対応は次期理事会へ引き継いで検討することが報告された。

 次いで、日本考古学協会賞・永年在籍会員の表彰が行なわれた。協会賞は各受賞者が登壇して(一部はオンラインで)挨拶し、謝意や今後の抱負などを述べた。永年在籍会員については、代表して白石浩之会員(東京都)が登壇して挨拶し、旧石器捏造事件や協会法人化、協会図書寄贈問題などを回顧しながら、謝意と抱負を述べた。

 最後に佐古和枝副会長が閉会の挨拶をして総会は終了し、休憩に入った。なお、表彰者については、引き続き壇上で記念撮影が行なわれた。

 午後1時からは、新理事による臨時理事会が開かれ、互選により会長に辻秀人(再任)、副会長に佐藤宏之(再任)・大竹幸恵(新任)の各理事が選出された。午後1時30分からは新理事の紹介と新正副会長の就任挨拶があった。

 2時から、実行委員長でもある近藤二郎早稲田大学名誉教授による講演会が一般にも公開して行なわれた。講演に先立って、辻会長と、早稲田大学総合人文科学研究センターの河野貴美子所長から挨拶、高橋龍三郎早稲田大学教授による講師の業績等の紹介があり、その後「エジプト考古学の過去・現在・未来」と題する講演が行なわれた。シャンポリオンがロゼッタ・ストーンを手掛かりとしてヒエログリフの解読に成功したのが1822年、ハワード・カーターがツタンカーメン王の墓を発見したのが1922年で、今年(2022年)はそれからちょうど200年、100年という、エジプト考古学にとって特別な年にあたっているというところから説き起こし、日本の調査隊を含む現在のエジプトでの調査研究の成果を概観し、さらにエジプト考古学の今後を展望する、スケールの大きな講演であった。

 最後に本年秋の福岡大会(会場;九州大学)について実行委員会の溝口孝司事務局長から、次いで次回第89回総会(会場;東海大学)について実行委員会の北條芳隆委員長から挨拶があり、第1日の日程を終えた。お二方ともコロナ禍が収束し、対面での開催が可能になることを希望されていた。

【第2日;5月29日(日)】

 29日は、午前9時から午後5時10分まで研究発表会(口頭発表・セッション・ポスターセッション・高校生ポスターセッション)が行なわれた。

 口頭発表は第1会場で10件、セッションは第2から第5の4会場で午前と午後、計8件(発表計42件)が行なわれ、ライブ配信された。8件のセッションを列挙しておくと、田畑幸嗣会員ら総会実行委員会による「資格制度を考える」、高橋龍三郎・米田穣会員らによる「縄文社会変動の深層を探る」(日本人類学会骨考古学分科会との共催)、上條信彦・根岸洋会員らによる「列島東北部における弥生農耕文化の受容と展開」、山田昌久・白石哲也会員らによる「日本における弥生時代水田稲作技術の再検討」、松木武彦会員らによる「ランドスケープ(景観)で考古学する」、俵寛司・池田瑞穂会員らによる「海域アジアにおける文化遺産の保存と活用」、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会による「近現代遺跡の調査と保存・活用」、日本考古学協会英文機関誌編集委員会による全編英語での「The ʻAxial Ageʼ in the periphery of a world system(〈縁辺〉における〈枢軸時代〉の展開)」である。いずれも考古学の成果または関連分野に関する鋭い問題意識を反映するものであった。

 ポスターセッションは26件が総会特設サイト(オンライン)で掲示され、高校生ポスターセッションは11件が日本考古学協会公式サイト(オンライン)で掲示された。高校生ポスターセッションについては、いずれもレベルの高い発表であったが、その中から3件が優秀賞に選ばれ、後日公式サイトで講評とともに掲示された。優秀賞に選ばれた3件は、福島県立相馬高等学校 郷土部(寺島祐一郎・寺島詩織・星 愛理・菅野まみ・阿部遥奈)「高松古墳群第一号墳調査の意義について」、東京都立白鷗高等学校 木下奈映「都立白鷗高校敷地内にあった江戸時代・大名上屋敷の特徴とは?」、岐阜県立関高等学校 地域研究部(河路康太・小原和也・渡邊貫太)「陸軍秘匿飛行場跡を追う」である。

 以上で2日間にわたる第88回総会及び研究発表会を終了した。コロナ禍の困難な状況の中、円滑に進行し盛会裡に終了できたのは、ひとえに早稲田大学の多大な御支援と近藤二郎実行委員長をはじめとする実行委員会、大学関係者や卒業生・学生の皆様の御尽力の賜物であり、厚く感謝申し上げる次第である。

 なお、恒例となっていた懇親会と図書交換会は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から3年連続で開催が見送られた(図書交換会は、一部出版社の御協力により「考古学スクエア」として形を変えて開催されている)。次回大会・総会実行委員会からの挨拶にもあったが、コロナ禍が早く収束し、対面での開催が可能になることを望みたい。

(前総務担当理事 萩野谷 悟)

一般社団法人日本考古学協会第88回(2022年度)総会議事(抄録)

日   時 2022年5月28日(土) 午前10時00分~午後0時30分
会   場 早稲田大学早稲田キャンパス 国際会議場
議 長 団 議長:辻秀人会長、副議長:西川修一会員・谷口肇会員  司会:田尻義了理事

 本日の司会は本協会の総務担当理事の田尻義了が務める。コロナ禍のため例年の対面方式とは異なる方式を採用していくことから、次の注意事項の説明がある。会場には、質問の方法をはじめ感染症対策としてマスクの着用、出入り口設置の消毒液の使用、間隔をあけての着席など。また、今中継しているが、このオンラインの視聴者は事前に委任状を預かっていること、また本日は視聴のみで、発言ができない旨の了承を頂いていることのほか、使用するZoomウェビナーについての諸注意、例えば録音や録画の禁止などである。

 続いて、2022年5月28日現在の会員数は3,855名、うち本日の総会出席者数は、午前10時時点で63名であり、それに委任状分1,424名を加えると合計で1,487名となる。総会議事を進めるにあたり、この1,487名は当協会の定款第18条の総会の決議に定める総正会員数の1/8以上(人数は482人)を上回っている。つまり本日の総会議事は成立する旨の報告であった。総会を開始する。

 開会にあたり、一般社団法人日本考古学協会を代表して辻秀人会長から次の挨拶がある。本日はこのコロナの厳しい状況の中で、このように盛大な総会を開くことができたこと、また何よりも近藤先生を委員長とする実行委員会の皆さんのご努力、それから総合人文科学研究センターの河野貴美子様をはじめとするセンターの皆様のご支援をいただいた感謝の意が先ず伝えられた。

 続いて、本総会がこれまでの1年間の協会の活動報告、新入会員の審議や、予算等々のご報告をするにあたり、私どもの現理事会にとっては最終年度にあたる2年間の総決算に近い。2年前の現理事会の発足時は、「とにかくコロナの下でなんとか学会活動を維持したい、それが最大のテーマであった」。そのなかで、東京都の高輪の保存問題等々にも理事会としては積極的に関わってきたことも一例かと思う。今日・明日ともこの会場及びオンライン参加の皆様の絶大なご支援をいただき、コロナ禍に負けない総会としたい。

 続いて、第88回総会の実行委員会を代表して、早稲田大学名誉教授の近藤二郎実行委員長からの挨拶があった。「一昨年2020年度の第86回総会が新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりまして、当初、専修大学での開催予定が書面の発表とそれから誌上開催となり、秋の金沢大会も中止となりました。そのため、翌年の春の総会、秋の大会が1年遅れとなったことによって、結局、当早稲田大学も実は最初の予定では昨年の2021年5月に開催の予定が、1年遅れの開催となった。

 私どものフィールド調査や、海外でのフィールド調査なども大きな影響を受けているが、今回の早稲田での総会も、2009年度における第75回総会以来13年ぶりの開催となったのである。

 ところで、本日は総会を、明日の口頭発表は文学部がある戸山キャンパスの会場・教室を使って行い、また昨年度の総会と同様に懇親会や図書交換会も中止としたが、皆さんの資料の中にパンフレットで図書交換会紙上開催という案内がある。コロナの感染状況については、計画段階では予測がしがたいものであるが、協会の理事の方々や会員諸氏、本学の実行委員の方々の情熱やご努力からすれば、今日と明日、無事に口頭発表が行われることを切に願う次第である」、と結んだ。

 次に審議に先立ち、司会からこの一年間に他界された27名の会員の氏名を読み上げ、参加者全員起立のうえ、黙祷を捧げた。

議 事

 協会の定款第33条の規定により総会議長は辻会長が議長となり、副議長・書記については会場からの立候補等がなかったことを受けて、副議長には神奈川県の西川修一会員、神奈川県の谷口肇会員、書記には東京都の都築由理子会員、群馬県の小原俊行会員があたる。また、本日の総会議事録の署名には、神奈川県の矢島國雄会員と東京都の山崎和巳会員とに議長から指名があり、先の議長団と同様、会場からの了承を得る。議長から議事進行の概略、総会議案書の訂正等の説明がある。

 ところで、以下2020年度における各事業等の執行状況の説明において、中止や延期となった主因が新型コロナウイルス感染対策及び政府による緊急事態宣言の発出等に共通していることが大半を占めている。そのため、以下の各委員会等による説明に際して、「コロナ禍により」と略記する。

【審議事項】

第1号議案 新入会員の承認に関する件

 日本考古学協会の会員には、正会員と賛助会員の2種類があり、先ず正会員については、入会資格審査委員会の白井久美子委員長から説明がある。入会申請43名であり、2021年12月11日開催の第1回審査委員会で申し込み総数43名のうち1名が資格基準を満たさず、4名が保留とされた。その後追加資料を基とした翌年の1月15日の第2回審査委員会では2名が辞退、また1名は入会資格基準を満たさなかった。ついては、2022年度の正会員入会資格審査では、申し込み総数43名のうち、入会資格基準を満たす者40名、基準を満たさない者1名、辞退者が2名となった。この結果は2022年1月22日に開催された定例理事会で報告され、了承が得られた。さらに3月上旬に正会員に入会適格者40名の一覧表を送付し意見を求めたが、特に異議申し立てはなかったとの報告がその後の理事会にあり承認された。

 賛助会員については中嶋郁夫理事の説明による。同じく12月11日に開催された資格審査委員会において、賛助会員申し込みのフレンドシップ会員1名、学生会員3名について審査した。審査委員からは特に異議がなかったので2022年1月22日の定例理事会での審議で承認された。なお、今回は法人会員の応募はなかった。

 議長から第1号議案「新入会員の承認に関する件」について、会場に質問を求めた。質問はなく決裁に入り、拍手をもって原案どおり承認された。そこで会場参加の新入会員全員が登壇し、鈴木宏和、坂井正人、坂田敏行、西村広経、林道義、小山侑里子、齊藤達也の7名が勤務先とともに自己紹介した。神奈川県の小山侑里子さんから新入会員40名を代表しての挨拶があった。

第2号議案 2021年度事業報告・収支決算承認に関する件

 配布資料記載の順に、最初に事業報告、次に収支決算についての順に説明と審議を行った。事業内容及び各委員会に関わる業務についての担当理事から以下説明があった。

〈1〉2021年度事業報告
1.日本考古学協会賞の報告

 植田真理事からの説明。2021年度、第12回となる考古学協会賞への応募件数は、過去最大の11件があり、事前に配送された後の本年3月13日にオンラインによる選考委員会で審査された。また、以下は3月26日開催の理事会において承認された。

 大賞には島根県の岩本崇会員の『三角縁神獣鏡と古墳時代の社会』が、奨励賞は今年も2件で岩手県の丸山浩治会員の『火山灰考古学と古代社会 十和田噴火と蝦夷・律令国家』と福岡県の福永将大会員の『東と西の縄文社会─縄文後期社会構造の研究─』が選ばれた。さらに、協会機関誌『日本考古学』に投稿された論文で編集委員会からの推薦による優秀論文賞には、第51号に掲載された北海道の榊田朋広会員の「擦文文化前半期の集落群構成と動態」が選ばれた。また、英文機関誌『Japanese Journal of Archaeology』に投稿された論文でJJA編集委員会からの推薦による優秀論文賞は、第8巻第1号に掲載された北海道の高瀬克範会員の「Time period determination of the Kuril Ainuʼs major withdrawal from Kamchatka」であった。各受賞作の選考理由と委員長講評については、会報及び協会ホームページを参照願いたい。

2.総会・大会・公開講座等 3.理事会等 4.年報・会報等 5.機関誌

 萩野谷悟理事から「総会資料」に沿って上記事項の特に例年とは異なる点の説明があった。「コロナ禍により」専修大学で予定した2020年度総会が書面開催となったが、2021年度は1年延期の形で専修大学生田キャンパスを会場とした総会及び研究発表ともにオンラインを中心にした、これまで経験のない形で行われた。金沢大会も同じく1年延期による開催となった。オンライン形式での開催はマイナスの面もあるが、プラスの面も大きく、学会の開催方法として新たな、そして後戻りのできない道を歩み始めたと認識する。アジア考古学四学会合同講演会や賛助会員学習会も中止となった。(5)の「カフェde考古学」は新たな事業で協会のアウトリーチ活動として、2022年から2023年にかけて計7回計画され、21年度には第1回目が実施された。

 理事会は、オンラインを基本として、臨時を含め年間11回開催された。理事会を経て発出した声明や要望は20年度来、東京都港区の高輪築堤跡の保存に関する2本、8月の「高輪築堤の全面保存を求める共同要望について」は、日本歴史学協会と共同で、改めて全面保存を要望したもの。9月には「ただちに築堤の破壊をやめ、コロナ後のまちづくりを考えよう」と題する会長声明を発出。築堤の解体が進む現実の中で、都市計画の中に遺跡を取り入れ、新たな街づくりを目指すべきだと主張した。

 年報、会報、機関誌等の発行は計画通りの刊行。新たな事業としては、先の「カフェde考古学」のほか会員名簿の印刷刊行がなされた。個人情報の問題で議論も重ねたが、学会としての情報交換あるいは会員の研究活動等に必要不可欠と判断し刊行となった。なお、会員にはその取り扱いについては要注意を今も呼びかけている。

6.陵墓報告

 岡林孝作理事からの説明。陵墓関係の16学協会の幹事学会として当協会が陵墓公開運動全体の連絡調整役を担当した。16学協会には運動の立案と実務にあたる運営委員会があり、当協会が幹事、そして大阪歴史学会、京都民科歴史部会、考古学研究会、古代学研究会、日本史研究会、日本歴史学協会の7学協会が担当した。

 2021年度ではコロナ禍により、全体会議が例年より1箇月遅れてのオンライン開催となった。また、毎年7月に開催の宮内庁との陵墓懇談は、学協会側の出席者を限定するかたちで10月にようやく開催した。大阪府堺市大山古墳の限定公開、奈良県天理市渋谷向山古墳の立会見学、大阪府太子町叡福寺北古墳の事前調査の見学。それに大阪府羽曳野市白髪山古墳の立入り観察については、緊急事態宣言が発令されていない時期に実施することができた。なお、白髪山古墳の立入り観察は、2020年度の予定が、緊急事態宣言の発出を受けて延期となったものである。

 陵墓に関する懇談会の主な議題は、当該年度の陵墓保全整備工事、それから大山古墳第1堤の2回目の調査について、立入り観察。ほかに保全整備工事や限定公開の内容、あるいは宮内庁が保有する各種情報の公開等であり、宮内庁の担当者と具体的な意見交換を行った。なお、2021年度の懇談会は、昨年度に引き続き、非常に特殊な状況の中で実施された。

7.研究環境検討委員会報告

 亀田直美理事からの報告。本委員会は考古学に関わる研究環境を改善し、考古学の発展と広い理解の促進を目的として行政、大学、博物館、調査機関、民間調査機関など様々な組織に属する委員で構成された委員会である。2020年度からは新たに主にアイヌ民族における研究倫理問題に関する委員会の実務的な窓口として、委員会内に「研究倫理部会」を設置した。ただし、この部会は実務に特化し、情報や問題意識の共有はするが、通常の活動とは切り離されている。

 近年、文化財関連業務の後継者育成と発掘調査技術の継承、さらに報告書の質の堅持を主な課題として取り扱ってきた。2021年度では高校生を含む若い世代に対して法改正や新型コロナ感染症への対応なども盛り込みながら、考古学の職域を伝えて就職へ繋げるような実践的な取り組みとして、総会時では「考古学を仕事にしたいというあなたへⅡ」というセッションを企画した。6回の委員会ともオンラインで開催した。また、あわせて博物館法の改正や近現代遺跡の取扱や「研究環境検討委員会の問題提起2022─文化財行政における後継者育成に向けて─」などの新たな課題の検討も始めた。

8.広報委員会報告

 足立佳代理事からの報告である。本委員会は、会員及び社会に対して日本考古学協会の活動を広く発信するために設置された常置委員会である。主な活動は、会報の発行、ホームページの整備・更新、プレスリリースである。

 2021年度はオンラインによる委員会を6回開催し、会報はNo.203から205を発行。取り組み事業は、前年度から継続するホームページコラム「コロナ禍の考古学」で、本年5月の第39回まで連載された。「コロナ禍により」大学、博物館、調査機関、行政及び学会などで様々な対応が迫られたがその記録の共有という目的は果たされたものと考える。プレスリリースは、引き続き「高輪築堤の保存問題」に関するもので、埋蔵文化財保護対策委員会の協力を得ながら、会長コメント、声明を動画配信した。特に、2月の「高輪築堤消滅危機についてのイコモス警告を支持する日本考古学協会会長声明」はオンラインによる記者発表を実施した。また新規事業として、5月に講演会「発掘された高輪築堤~姿を現した近代遺産」を主催し、YouTube日本考古学協会公式チャンネルにて配信した。また、アウトリーチワーキンググループに参加し、「カフェde考古学」の企画、ポスター、チラシの作成など周知化を担当した。また「考古学スクエア」の名で図書交換会の代替とした。

 ところで、ホームページを活用した情報発信の重要性が増す一方、その内容が確実に届くとは限らない。近い将来SNSの活用なども含めた情報発信のあり方を検討したいと思う。例えば「考古学スクエア」が図書交換の代替ではなく、関係団体のプラットホームとして機能するように取り組んでいきたい。

9.国際交流委員会報告

 溝口孝司理事からの報告。「コロナ禍により」昨年度と同様に活動も制限された。文化庁『発掘された日本列島2020』展の内容に基づきNoteworthy Archaeological Sites, Issue 2020の作成と協会公式サイトへのアップロードを行った。同『発掘された日本列島2021』展の内容については、これまでの英文概要紹介に加え韓国語・中国語による紹介も行った。今後も、同様としたい。Noteworthy Archaeological Sites, Issue 2021については、近日アップロードの予定である。また、2008年の第1回開催以来、恒例となっていたアジア考古学四学会合同講演会は、2020年1月11日に第13回講演会を開催した後、「コロナ禍により」2021年度も中止のやむなきに至った。

10.社会科・歴史教科書等検討委員会報告

 小菅将夫理事からの報告。委員会では、1998年学習指導要領改訂後、小学校の歴史教科書から旧石器あるいは縄文時代の記述が削除されたことをきっかけに、2006年に小委員会として発足し、2008年からは常置委員会となる。任務は「考古学の学問的特性や研究成果が学校教育に適切かつ有効に活用されるよう図るとともに必要な働きかけを行うこと」ということで活動を進めている。委員会発足以来、第一に取り組んできたのは小学校教科書への旧石器・縄文時代の記述の掲載に向けた活動である。教科書や学習指導要領の分析・検討を行い、結果を本協会の研究発表・大会並びにシンポジウム等を通して公開・発信し、議論を深めてきた。また、文部科学省や中央教育審議会等に学習指導要領に関して要望や声明文を提出してきた。縄文時代については、2012年から全ての教科書に復活したが、旧石器時代については、一部の出版社の教科書に記載はあるのみであった。しかも、2020年には、どの教科書からも旧石器時代の記載がなくなった。以上のような経過を踏まえ、2021年度は以下のような活動を行った。

 テーマセッション:前回の第87回総会で「続・旧石器時代を小学校の授業で語りたい─博物館・埋蔵文化財センターからのアプローチ─」と題して実施。5人による報告と討論を行い、追加の討論会を12月に開催した。博学連携活動として各地で小学校に対し人類史における旧石器時代の大切さを語り、「考える活動」が多数実践された。それをいかに教科書記載に繋げるかを模索している。

 ポスターセッション:当委員会所属の小学校教諭による旧石器時代を扱った授業の実践例と、委員会での検討内容をあわせ、教科書記載の充実を目指す活動として、10月の金沢大会で報告した。現在、授業指導案等の発表先を検討しているところである。

 2021年度中学校歴史教科書の検討:委員会をリモートで6回開催し、うち2回、2021年4月から使用されている全8社の中学校用教科書について、旧石器時代から古墳時代までの内容を検討し、用語や挿図について問題点等を抽出した。

 協会ホームページ「考古学と教育」の充実:遺跡や考古学資料情報が載る各地のホームページを検討し、授業等の教材として利用可能なものを「授業で使える遺跡・博物館ホームページリンク集」に掲載した。随時、リンク集の充実を図る予定である。

 教科書会社への訪問と次期教科書改訂への活動:小学校教科書作成に関わる情報収集を目的として、旧版まで旧石器時代の記載をしていた日本文教出版を訪問した。記載内容決定の過程、執筆者の選定方法等をお伺いし、旧石器時代の記載が消滅した理由等を詳しく知ることができた。また、教科書記載の事実誤認について、修正意見の提出が可能であるとの情報を得たことで、教科書の次期改訂に向けて「小学校教科書記載内容についての改善案」等を作って提出を準備した。

11.埋蔵文化財保護対策委員会報告

 馬淵和雄理事からの報告。当委員会は、1962年に常置委員会として発足。全国の120名ほどの委員による報告を起点とし、埋蔵文化財に関わる様々な問題について幹事会を中心に議論し対策を進める委員会である。21年度の活動は、毎月の定例会議は一昨年度以来、オンラインで実施。総会時の全国委員会も5月29日にやはりオンラインで実施。以下の要望書7件を提出した。

 4月23日、(島根県)「大社基地遺跡群の学術調査と保存に関する要望書」、5月10日(神奈川県)「横浜市青葉区稲荷前古墳群隣接地の文化財に係る適切な取扱いについて」、8月5日(広島県)「広島城跡(サッカースタジアム建設予定地)における遺跡の保存に関する要望について」、9月10日(同県)「広島城跡(サッカースタジアム建設予定地)における遺跡の保存に関する要望書への貴市の回答について」再要望を。10月14日(東京都港区)「高輪築堤跡の一般公開拡充を求める要望書」、1月21日(徳島県)「国史跡徳島城跡隣接地の埋蔵文化財保護に関する要望書」、1月21日(高知県)「安芸市瓜尻遺跡および周辺遺跡の保存と活用に関する要望書」の7件である。

 話題の東京都港区の高輪築堤跡の保存に関して会長声明コメント等の発出は次のとおりである。4月5日「高輪築堤跡4街区調査成果公表にあたっての会長コメント」(これは動画配信も同時に実施した)、4月21日「高輪築堤跡4街区の破壊方針公表にあたっての会長コメント」、5月31日「『高輪築堤跡において破壊を前提に計画を進めることに反対する。』会長コメント」、8月16日「高輪築堤の全面保存を求める共同要望について」、9月25日「会長声明「ただちに築堤の破壊をやめ、コロナ後のまちづくりを考えよう」」、2月22日「高輪築堤消滅危機についてのイコモス警告を支持する日本考古学協会会長声明」以上6件の会長声明及びコメントについて、いずれも当委員会で協力した。

 毎年実施の文化庁との懇談は、一昨年度は中止したが、今年度2021年度は2022年3月2日に実施。内容は近現代遺跡の取扱いについて。先ほどの要望書の中に3つほど近現代の遺跡の問題が含まれるが、最近では近現代の遺跡の取扱いを巡り課題も多い。また遺跡の鳥獣被害について、近年頓に、例えば、イノシシが石垣を掘り返すなど被害がでているが、こうした対策を考えたいというものである。

 出土品保管の問題、遺物の保管、大量の遺物が保管する場所に窮している状態が各地で起きて久しいなど長年の課題、埋蔵文化財の保護体制の問題点等々、総括的な懸案が多い。
 高輪築堤跡見学会が2021年の5月21日と10月8日にあり、また当協会が主催した「シンポジウム~高輪築堤を考える~」が4月16日にオンラインで開催されたが、300人ほどの参加を得た盛況な会となった。

12.災害対応委員会報告

 田尻義了理事からの報告。本年度の活動は7月・11月・1月・4月の4回、会議をオンラインで開催した。各地で頻発する災害による文化財の被害に関する情報交換と、委員異動に関わる次期委員会の構成員についての協議等であった。国主体推進会議である「文化遺産防災ネットワーク推進会議」に7月と12月の2回参加した。そこで、日本考古学協会として埋蔵文化財に対する復旧状況の課題、また防災への取り組みを報告した。また、考古学以外の文化遺産に関係する学会が参加しているため、他の文化遺産の分野における災害対応についての情報交換を行った。

13.将来構想検討小委員会報告

 佐古和枝副会長からの報告。当協会では、社会や経済の変化を見据えながら、協会の将来的な課題について協議するために、理事会とは別に、将来構想小委員会を設けている。委員会の構成は、正・副会長と総務担当理事及び常務理事という総務会と同メンバーである。不定期の開催で2021年度は、7月18日と12月18日の2回、総務会終了後に開催した。主な議題は、コロナ感染拡大のもとでの次の5点を協議した。

 一つは理事会・総務会の今後の開催方法、二つ目には総会・大会の今後の開催方法、三つ目には高校生ポスターセッションの開催方法、そして四つ目、アウトリーチ活動、そして五つ目、会員名簿についてである。

 まず一つ目の理事会・総務会の今後の開催方法は、理事会は対面開催を基本としつつ、リモート参加も認めるという形で行う。総務会は理事会の1週間前にリモートで開催することを基本方針とした。

 二つ目の総会・大会の今後の開催方法については、それぞれ実行委員会の判断を尊重しながら、状況に応じて対面開催かリモート開催かを判断するということ。また、近年、大学に支払う会場使用費がかなり高額になってきており、総会・大会の開催委託金を100万円から150万円に増額をすること。そして、リモート配信を実施するための外部委託費用を100万円程度まで協会が負担する形で予算編成を行うということ。

 三つ目、高校生ポスターセッションについては、2021年度はリモート開催で行った。そのため、高校生の人的交流ができるチャンスがなかった。それを反省材料として、対面の場合とリモート開催の場合、それぞれの実施方法を見直し、高校生がポスターセッションに参加した意義を実感し、さらなる考古学の学習意欲を高める工夫をする。またそのために担当委員を増やして体制充実をはかること。

 四つ目のアウトリーチ活動の件は、考古学の研究成果をもっと一般社会に発信していく、社会の中で考古学の意義について認識を広めていくということは日本考古学協会として、社会貢献として非常に重要な仕事、課題だと思っており、また、考古学協会員増加のためにアウトリーチ活動が必要であると認識している。そして近年は、学習指導要領の改訂などを受けて、学校現場から「総合的探求の時間」、GIGAスクール、そういうものに対して考古学の専門家への協力依頼も増えてきている。従来、こうしたことは各委員会が個別に対応してきたけれども、今後こうした要請や必要性は増えるということが予想されるため、アウトリーチ活動を担当する組織・部署を作って、一括して対応していくことにした。ただし、この担当部署が全てを采配するということではなくて、依頼や活動ごとにワーキンググループを立ち上げて行うこととした。また、アウトリーチ活動は副会長の所管とすること。そして2021年度はアウトリーチ活動として、2箇月に一度の「カフェde考古学」を現在も開催している。そして最後の会員名簿については、後ほど別途報告する。

14.アーカイブス小委員会報告

 谷口栄理事からの報告。この小委員会は本協会の歴史的な歩みについて、証拠立てる記録を収集整理し、その社会的責任をどのように果たしてきたのかを明らかにするとともに、将来的な検証・評価に備えるためにも、本協会のアーカイブ資料の構築を目的に2019年の9月に設置されたもの。現在、矢島國雄委員長ほか計5名で構成。2021年度の活動は大きく二つ取り組みがあった。

 一つ目が、当協会の事務所保管の磁気テープ、フロッピーディスク、CD、MO等、都合492点の電子的媒体のデータのデジタル交換が可能か否かの確認作業を行った。結果、総数の約60%にあたる300点がデータの取り出し及びデジタル交換が可能であった。交換できたデータは、アーカイブス専用のHDDに格納し、不可能な媒体は、次年度の2022年に引き続き再確認を行う予定。

 二つ目は、定期刊行物のデジタルデータ化の業務である。『日本考古学協会彙報』1から46号、『日本考古学協会会報』47から199号、『総会発表要旨』1950年から2000年版、『大会発表要旨』1969年から2000年版を対象とし、デジタルデータ化に伴うスキャニング業務の委託により完了。二つ目は協会の文書ファイル及びデジタルデータの分類のためのシステムの構築について、検討を開始し、次年度も継続していく予定にある。

 2021年度の活動を基にして、例えば作業状況の点検、それからデジタル業務可能な委託業務の仕様について、再度精査して2022年度の作業を行いたい。さらに定期刊行物の『日本考古学協会年報』、機関誌の『日本考古学』、それと協会の根本的な情報である会員カードについてデジタル化を行っていきたい。

15.理事選挙制度検討小委員会報告

 中嶋郁夫理事からの報告。当小委員会は、当協会の理事選挙制度に関わり、その規定を正確に執行すること、選挙事務の効率化を図ること。更により現行の社会に則した制度化を目指し、理事会や総会へ提言することを目的として設けられた。2021年度では翌年度の理事選挙に向けて規則の改訂を行った(『会報No.204』参照)。今回の総会の第3号報告にて後で詳しく報告する。また、新型コロナウイルスが蔓延した時に、開票事務が滞った経緯もあり、そのための「危機管理マニュアル」を再整備することを提言した。

16.2021年度版会員名簿の刊行

 辻秀人会長からの報告。今まで協会は5年ごとに会員名簿を作成し、配布してきた。今回は個人情報保護法の施行と改正に伴い非常に厳しい条件が重なることからどこまでが可能かなど弁護士とやり取りをしてきた。結局、「会員の名前の掲載でさえ、その会員本人の承諾なしに掲載することは法に触れる」と指摘を受けた。「それでも会員相互の情報、あるいはお互いの仲間意識」も含めて、「日本考古学協会の会員であるということを名簿の上でも表現したい」ということで、2回に渡って会報でもお願いした。「1回目の会報でそれぞれの会員にどの情報を載せて良いかをお尋ねし」1回目は1,300名程度の情報しか集まらなかったため、2回目は情報をお寄せいただけなかった方に直接手紙でお願いをした。

 結果としては大よそ会員の7割の方々を掲載する名簿を作成した。是非ご活用いただければと思っている。ただ、名簿の取り扱いについては個人情報の塊であるので、是非十分ご注意の上ご活用頂きたい。なお、個人情報の掲載について、意思表示が遅れてしまったケースも散見されるようだったため、新入会員名簿を送るに際して、追補版の名簿を作成する計画である。

〈2〉2021年度収支決算

 中山誠二理事による2021年度の会計収支決算報告。貸借対照表及び正味財産増減計算書の説明とする。ここでは要点のみとする。貸借対照表は財務状況を示し、固定資産の基本財産は前年度と動きがない。流動資産で、45,541,724円あるが、その中には未収会費660万円が含まれている。これは2020年度・2021年度の2箇年度分の会費滞納額の合計となる。貸借対照表の考え方では、こうした未収会費も債権という資産に含まれる。現在、会員の年会費は前納をお願いしている。滞納されている会員には事務局あるいは理事の方から督促を行って会費の確保に努めている。会員の皆様には会費の納入に関して重ねてご協力をお願いしたい。

 正味財産は46,939,085円。前期よりも4,659,468円の増。その理由は、正味財産増減計算書にある。これが今期の収支を示している。経常収益45,590,030円で、内訳は会費が大部分である。それ以外は、国庫補助金の390万円が含まれる。昨年度はコロナ禍の継続でもあり、図書売り上げや広報収入等2,005,880円の雑収入があった。支出について、2021年度は継続的なコロナ感染症の影響で、各種委員会等のオンライン開催による交通費等の経費縮小によって大幅に支出部門の縮小が図られた。そのための、増減額が正味財産増減額に示されているとおり、4,659,468円増となる。その額がそのまま貸借対照表の正味財産の増加に繋がる。

 続いて特別会計報告の科学研究費補助金である。科学研究費補助金に雑収入を加えて、収入合計が3,900,015円。支出の部は講演会講演等謝金あるいは英訳等の支払手数料が、今期は予算額よりも21万円ほど増大する一方で、コロナ感染症の影響で旅費交通費、通信運搬費が未執行となった。

監査報告

 橋本裕行監事からの報告。監査は、決算その他を含め、もう一人都築恵美子監事とともに去る5月10日に考古学協会事務所にて財務担当理事2名及び事務局員との対面で実施した。そして当日下の監査報告書を提出された。

(1) 事業報告及びその附属明細書は法令及び定款に従い当法人の状況を正しく表示しています。
(2) 理事の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実はありません。
(3) 当法人の業務の適正を確保するために必要な体制の整備等についての理事会の決議の内容は相当です。
(4) 計算書類とその附属明細書は当法人の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しています。
 以上、2022(令和4)年5月10日 一般社団法人日本考古学協会監事都築恵美子及び橋本裕行

(質問)

 次に質問を受ける。質問は例年の対面型とは異なり、質問者が質問用に用意されたマイクの位置に移動のうえ実施する旨を案内した。しかし、質問はなかったため、第2号議案の復唱後、拍手により原案どおり承認された。

第3号議案 理事の選任に関する件
 選挙管理委員長の大工原豊会員から先ず開票結果の報告がある。
 理事選挙制度検討小委員会の方針を受けて、選挙制度の一部が改正となった(第2号議案の説明参照)。

 また、改正個人情報保護法により選挙人名簿を配布することができなくなったこと。よって、今回の選挙では立候補者のみ「選挙公報」で表示しており、そして、その方への投票のみ有効ということとなる(『会報No.204』を参照)。理事選挙の公示は2021年11月6日。これを受けて選挙が実施された。選挙の公報が2022年2月12日に出されて、選挙運動及び投票期間は3月7日から4月1日まで行われた。4月2日、選挙管理委員会が協会事務所において、通常の開票作業を行なった。その結果を総会資料9頁に示した。

 選挙管理委員会からの選挙結果報告:有権者数3,939名、投票者数1,047名、投票率26.6%、有効投票数1,038枚、無効9枚、有効記名欄数9,192票、無効記名欄数46票、無記名欄数6,332票、立候補者得票数9,192票であった。選挙の結果、27名の候補者があり、上位23名が協会次期理事候補者と決定した。資料の辻秀人会員以下、足立拓朗会員までの23名が示された。

 提案説明:以上が選挙結果についての報告である。この案件は理事としての会長の立場から諮問で、この選挙の結果を踏まえたものである。即ち、資料9頁に掲げた上位から23名が、この総会で新たな理事候補者として諮問とした。

 決議:質問のないことを受けて、承認の方は拍手多数とみて第3号報告は原案どおり承認された。

第4号議案 監事の選任に関する件

 佐藤副会長からの説明がある。現任の橋本裕行監事は今期をもって任期が満了する。そこで協会定款第26条第2項の規定に基づき、次期の新しい監事に萩野谷悟会員(理事について今回で任期満了)を推薦し、拍手をもって、原案のとおり承認された。

【報告事項】

第1号報告 2022年度事業計画・収支予算に関する件
〈1〉2022年度事業計画

 萩野谷悟理事からの説明。専修大学で予定していた2020年度総会が新型コロナ感染症拡大により書面審議となったことで、専修大学での開催が昨年度にずれ、昨年度予定していた早稲田大学での開催が本年度に順送りとなった。今年度は本日、早稲田大学にて、オンラインを併用しながらの開催にこぎ着けた。研究発表会はオンラインで配信する予定にある。大会も、2020年度に計画の金沢大会が2021年度に延期された影響で、昨年度計画されていた福岡大会を本年度に順延して計画している。「カフェde考古学」は、2021年度から連続で合計7回を予定しており、本年度に6回を予定している。

 また、例年と違っているのは、アジア考古学四学会合同講演会の計画がない点である。これまで実績を積み上げきたが、運営の方法等について国際交流委員会を中心にしながら関係4学会で抜本的に検討してきたが、現状では含まれていない。

 先の議案で理事が決定したけれども、新しい理事の下でその後、会長も選任され、新体制が発足していくことになるが、定例理事会は年間9回を予定。年報・会報・機関誌等の発行その他各委員会等での活動も予定どおりである。

〈2〉2022年度収支予算

 中山誠二理事から説明。先ず一般会計。収入について正会員が3,911人で、正会員と賛助会員を含めた会費収入が39,155,000円、雑収入とを含めた収入合計が40,909,000円、これに前年度の繰越差額19,960,000円を加えた収入合計が60,869,000円である。次に支出について。今年度もコロナ感染症の継続も想定した。そのため各事業において柔軟な対応ができるような予算立てをした。先ほど佐古副会長の報告にあったが、外注費では総・大会においてコロナ禍での円滑な運営を行うため、2022年度は実行委員会への委託費を各150万円に増額し、大会オンライン開催に伴う会場設備業者への委託費等を計上した。一方、各委員会等の会議開催について、予定回数の半数をリモート開催として旅費を半減し、支出合計が60,869,000円となる。続いて、特別会計としては科学研究費補助金として39,000,100円を計上した。

第2号報告 永年在籍会員表彰の件

 佐藤宏之副会長からの説明。当協会では、協会設立70周年記念事業を先般行ったが、その一環として会員の顕彰に関する内規を制定して、2018年度総会において協会に長年在籍し、協会の事業活動に多大な貢献をいただいた正会員69名の方々を称え、表彰させて頂いた。翌年度、内規を一部改正し、永年在籍者の条件の一つに正会員として50年在籍し、本会の発展に寄与したものを加えた。2019年度総会では1966年から1969年に入会された49名の該当会員を顕彰させて頂いた。本年度も引き続き、50年在籍された1973年入会の42名の正会員を対象者として顕彰させて頂くこととした。なお、対象となる正会員の方々には、今までのご貢献を称えて協会からシニア・フェローという称号を贈らせて頂くこととした。(拍手)

第3号報告 日本考古学協会規則の一部改正に関する件

 中嶋郁夫担当理事から説明。理事選挙制度検討で述べたが、当協会規則の一部を改正した。詳細な経緯や内容は、2021年12月の『会報No.204』10~17頁掲載。改正の具体的な内容については、現行の第6章「理事の選挙」に記載している。これまでは立候補していないにも関わらず、ある程度の票が集まると当選して新たに理事になってしまうことがあった。この周辺を改正し、あくまでも立候補者の中から投票して選ぶという形とした。

 第18条の選挙管理委員会には、副委員長の指名と、その職制を改正した。第20条の選挙公報については、従来は有権者名簿とともに配布して公報していたが、個人情報保護法の観点から今回配布の当該名簿に被選挙人の全てが掲載されていないため、今回から名簿の配布はしないことした。第21条は、投票の形式に関わるもので、立候補者が23名また23名に満たない場合において、投票を行わない、あるいはいずれかの地区に立候補者がいない場合の細かな規定、第22条の選挙の実施、主に選挙候補者の届出の書式について、推薦文も含めてより具体化し、改正した。

第4号報告 その他

 追加報告について、辻会長から説明がある。

 岩手県立博物館に所属する本協会会員が、所有者の許可を得ずに分析実施に際して金属を切り取ったという問題で、前理事会からの申し送り事項でもある件で報告する。

 岩手県教育委員会が数年に渡って、当該の切り取り案件について調査を行ってきた。全体で数千件の調査をして、正式な報告書が2022年3月15日に刊行された。保存処理101件、重要文化財2件を含むが、所有者の同意を得ずに切り取ったということである。

 私どもとしては、事実確認が必要ということで、今年の2022年5月5日に佐藤副会長と私とで当該会員との面談を行った。重要文化財については文化庁の指示とも言っており、それについて事実確認はできなかったが、先の101件については所有者の同意を得ずに切ったということを認めた。岩手県教育委員会の調査と、それの確認のための私どもからの直接本人からの聞き取りの結果、所有者の承諾を得ずに切ったということは事実であるということで認定することになろう。これを協会としてどう取り扱うかというのは、協会員の身分等も関わる難しい事項でもあるので、次期理事会へ十分な検討を経たうえで対応するということで申し送りしたいと思う。

(質問)

 東京都の石川日出志会員から、理事選挙に関わることについて確認と質問などがある。

 今回の理事選挙に関する規則の改正はとても重要であり、適正だ。よって確認したい。選挙で選ばれる理事は23名。立候補者が23~21名の場合は、選挙は行わず無投票当選とする。20名以下の場合は補充選挙を行うが、補充の選挙が行えないと会長が判断した場合は、会長が候補者名簿を作成し理事会の議を経て総会に付議するということは可能かとの質問である。また、「補充のための選挙が実施できないと会長が判断した場合」とは、スケジュール的に困難な場合を想定してのことかの質問等である。

 辻会長からの回答。前の質問は、時間的な対処の仕方をいい、できればもう一度実施するのが筋ではあると思う。今回のスケジュールを見てもわかるとおり、理事選挙をして次の理事会を発足する間に、もう一回選挙をすることは現実的に可能かという問題を議論して、再度の選挙がスケジュール的に難しいと判断した場合には会長が候補者を推薦し、総会に諮ることとなる。正直言って、この点は選挙管理委員会と細部を詰めていないことである。

 後段に登場する「推薦者」を決めるに点についても同様である。それと今一つ、個人情報保護法に従って新たな会員名簿を作成したが、このなかには従来のように全会員が記載されているわけでない。つまり、誰に被選挙権があるのかわからない中での従来のやり方はできないこととなる。このことも含め、今回の規則改正に際して詳しく触れていない。今後、詳細について選挙管理委員会と詰めていきたいと思う。

 佐古副会長により、閉会の挨拶があり、本日予定の議案報告事項はすべてを終了し、議長団の職を解く。以上をもって、第88回総会を終了とした。

表彰式・記念撮影会の実施

 協会賞受賞者及び永年在籍会員の表彰式を執り行い、その後会場にて記念の写真撮影が行われた。

 最初に、先に報告された日本考古学協会賞大賞、奨励賞、優秀論文賞授与者に、壇上において会長からの表彰状の読み上げがあり終了後には恒例となった挨拶を頂く。対象となった著作、論文のポイントの開設と今後の研究に対する抱負などが語られた。続いて、永年在籍会員の表彰式が実施され、白石浩之会員から42名を代表して「捏造問題、協会の法人化や図書問題など課題の多かった時代のお話を頂いた。

 以上のとおり、昨年度のスタイルを少し応用する形で総会会場における対面型を併用したライブ配信による進行は、つつがなく終了した。この抄録には逐一掲げることはなかったが企画段階から携わった多くの関係諸氏や役員の結集、また当日の裏方となった方々も忘れてならない。本抄録の作成にあたり、特に上記本文に掲げた議長団、議事録署名の諸会員による了解・確認を頂いた。感謝申し上げる次第である。

(協会事務局長 高麗正)