2023.8
埋文委ニュース 第82号
日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会
本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2023年度総会に先立って東海大学11号館1階103教室を会場として、委員等37名(会場18名+オンライン19名)の参加を得て開催された。山田康弘委員長による挨拶の後、議長団に吉田広(愛媛県)、高橋香(神奈川県)、書記に関口慶久(茨城県)を選出し、議事を進行した。主な議事内容は以下の通りである。
1.2022年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動報告及び決算報告について
小笠原永隆事務長より、月例幹事会を計11回(オンラインのみ5回、対面とオンラインの併用6回)開催したこと、総会時の全国委員会を5月27日に、大会時の情報交換会を10月9日に、いずれも対面とオンライン併用で開催したことが報告された。加えて、島根県出雲市大社基地遺跡群、大阪府島本町越谷遺跡(御所池地区)、広島市の文化財保護体制の整備・充実、広島県広島市史跡広島城の保存等に関する要望書等5件についての提出及び経過、文化庁との懇談、現在進行中の検討事項と今後の課題について概要が報告された。また、決算についての報告が行われた。
2.2023年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動及び予算について
山田委員長より2023年度の活動方針が、小笠原事務長より予算案がそれぞれ提示され、了承された。
3.地域連絡会からの報告
(1)北海道・東北地区連絡会
菊地芳朗委員(福島県)より、2022年度の活動状況についての概要報告があった。遺跡保存に関することでは、大きな問題はないが、廃校等を利用した収蔵施設での保管環境で懸念される事例があることなどが報告された。
(2)関東甲信越静地区連絡会
小笠原委員より、活動状況についての概要報告があった。また、望月秀和委員(山梨県)より甲府市平瀬の烽火台問題の現況と今後の見通しについて報告がなされた。
(3)関西地区連絡会
一瀬和夫委員(大阪府)より、活動状況についての概要報告があり、現在のところ遺跡保存問題等で大きな動きはないが、博物館等は閉鎖、公的な調査組織は解散・縮小傾向にあり、今後の遺跡調査については、民間調査組織が中心となることが説明された。
(4)中国地区連絡会
会下和宏委員(島根県)より、活動状況ならびに各県の埋蔵文化財を取り巻く状況、特に近現代遺跡への対応や文化財保存活用大綱の策定状況、連絡会として中心的に取り組んだ島根県出雲市大社基地遺跡群、広島県広島市広島城跡の詳細について報告がなされた。また、山口県防府市役所建て替えに伴って調査が行われた「市庁舎敷地遺跡」の問題点について説明があった。
(5)四国地区連絡会
吉田広委員(愛媛県)より、活動状況についての概要、継続的に取り組んでいる徳島県徳島市徳島城跡の音楽ホール建設問題、高知県安芸市瓜尻遺跡問題についての状況報告があった。徳島城跡については、新知事が新ホールの整備事業を一時ストップする方針を示したとから、今後の状況を注視する必要があることが説明された。
(6)九州・沖縄地区連絡会
桒畑光博委員(宮崎県)より、活動状況ならびに各県の埋蔵文化財を取り巻く状況の報告があった。また、宮城弘樹委員(沖縄県)からは、沖縄県名護市嘉陽上グスク問題について状況報告があった。
4.その他の地域からの報告
伊藤雅文委員(石川県)より、2023年5月5日に発生した能登地方を震源とする地震に係る文化財の被害と現在の状況について以下のように報告があった。特に被害の大きかった石川県珠洲市では、珠洲焼資料館での保管資料破損、県指定平時忠卿及びその一族の墳の五輪塔群での石材転落が確認されたが、国史跡珠洲陶器窯跡などの状況は不明である。なお、珠洲市においては、埋蔵文化財の被害状況確認や資料館の復旧作業については、行政側の対応が不十分で、県内外の有志ボランティアが行っているなど問題が多い。
今回の委員会は、対面参加者にオンライン参加者も含めると、平日にもかかわらず多くの方々の参加を得て開催することができ、各地の最新状況が多く報告されるなど、極めて有益なものであった。埋文委として、今後も幹事会を核として、各地域連絡会相互の連絡、情報共有体制を強化し、埋蔵文化財の保存活用に向けて活動していきたい。
(小笠原永隆)