震災復興公営住宅建設に伴う発掘調査の成果-宇城市・大塚台地遺跡第2次調査-

理事の杉井です。

今日から11月。
朝夕がめっきり涼しくなってきました。

平成28年熊本地震の発生から、1年半が経過。
日頃の忙しさのなかに身を置いていると、地震をもうだいぶ以前のことのように感じている自分がいて、ときどきハッとしてしまいます。

ある一面、人はつらい経験を忘れることでその生を生きることができるのだとは思いますが、でも、歴史学の世界に身を置いている我々としては、何とか後世に伝えていくことも忘れてはなりません。

 

さて、10月13日付けの熊本県の発表では、9月末日での公費解体の進捗率は86.9%とのことで、今年度中にはすべての解体が終了する予定とされています(下記ページ参照)。
http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_15656.html

そうしたなか震災復興住宅の建設も進められていて、その1つである宇城市の建設予定地にて埋蔵文化財の発掘調査が行われています。
10月20日付けでその調査成果が報道機関に提示され(図1)、新聞でも報道されました(下記ページ)。
https://mainichi.jp/articles/20171028/ddl/k43/040/281000c

 

その遺跡は、宇城市にある大塚台地遺跡。
地震で被災した松橋大塚古墳からすぐの場所に位置します(図2)。

弥生時代終末期の方形周溝墓のほか、「粘土棺墓」と名付けられた、きわめて地域色の強い埋葬施設が検出されています。類例は、宇土市境目遺跡にあります(図3~6)。

写真1 大塚台地遺跡調査成果の報道資料

写真2 大塚台地遺跡の位置

写真3 大塚台地遺跡調査風景

写真4 大塚台地遺跡検出の「粘土棺墓」1

写真5 大塚台地遺跡検出の「粘土棺墓」2

写真6 「粘土棺墓」断面模式図

 

そうした調査成果も注目されるところですが、それ以上に注目すべきなのは、現地説明会の開催が計画されたことだと思います。

残念ながら、台風22号の接近で、現地説明会は中止になりましたが、たとえ災害復旧に関わる調査であっても市民の皆様にその成果を知っていただくことはとても大切なことだと思いますし、でもこれまでの震災でも現地説明会の実現にはさまざまな困難があったと聞いていますから、熊本県・宇城市等関係各位のご努力に頭が下がる思いです。
願わくは、何らかの別の機会をとらえて説明会が開催されれば、それほど素晴らしいことはありません。

現地説明会の中止を残念がる声がネットにも上がっています(下記ページ)。
http://norinori123.otemo-yan.net/e1051731.html

 

今年の2月14日付けの読売新聞には「熊本地震 埋蔵文化財 復興に難題」との見出しが躍りました(下記ページ)。
http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/feature/TO001139/20170214-OYS1T50002.html

でも、地域社会が復興するうえで、その土地がもつ歴史は、人が自らの暮らす土地に愛着をもち、その地域を誇りに思うための拠り所となるものです。

ですから、復興は急がれるべきですが、と同時に、土地の歴史を明らかにするための事前調査もおろそかにすることはできません。

そういった埋蔵文化財調査の重要性を市民の皆様に知っていただくためにも、現地説明会の開催はきわめて重要な意味をもつものでした。

今後も、こうした機会が可能な限り設定されればと願っています。