2017.12
埋文委ニュース 第73号
日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会
埋文委・情報交換会**********2017.10.22
埋蔵文化財保護対策委員会では2017年度宮崎大会にあわせて、10月22日(日)午後1時30分から宮崎公立大学研究講義棟202小講義室において、埋文担当理事、埋文委員等17名の参加を得て情報交換会を開催した。司会進行役は九州・沖縄連絡会の佐藤浩司委員が務め、藤沢敦委員長の挨拶の後、九州豪雨の文化財被害と復旧の取組み、宮崎県における埋蔵文化財保護の現状と課題、および各地での遺跡の保存問題等についての報告や意見交換等が行われた。
1 報告:九州豪雨による被災文化財について
今年7月に九州北部を襲った豪雨による文化財への被害状況に関して、福岡県朝倉市教育委員会の倉元慎平氏と大分県日田市教育委員会の若杉竜太氏の作成資料に基づき佐藤委員が代理で発表した。前者については、市内の指定文化財9件(うち国指定史跡・文化財4件、県指定史跡1件を含む)に関して、スライドを用いての状況報告がなされた。中でも、秋月城跡内法面の崩落や、県最古の建造物とされる普門院本堂床下の土石流被害、杷木神籠石の法面崩落等が大きな被害であった。ほかに、未指定文化財への被害も認められ、個人蔵の文書や資料の毀損も報告され、一部は、すでに九州歴史資料館に修復依頼されている。今後、継続した支援が必要であることが強調された。
一方、日田市では、河川の氾濫や崖崩れ等により計13件の文化財被害が認められ、うち、国指定文化財や登録文化財が12件、県指定文化財1件が含まれている。この中で、国史跡ガランドヤ古墳の復元盛土の崩落や県史跡石坂石畳道の法面崩壊をはじめ、豆田町の伝統的建造物群保存地区への住宅浸水被害が各所で発生し、深刻なことが報告された。また、本格的復旧には、相当な時間がかかることも指摘された。
2 講演:宮崎県埋蔵文化財行政の現状と課題
標記の件は、宮崎県教育委員会の谷口武範氏に依頼して講演いただいた。氏は、西都原古墳群の調査に始まる大正年間から今日までの県内における埋蔵文化財行政の歴史に関して詳細に整理され発表された。この中で、昭和40年~50年代の九州自動車道建設に伴う大規模調査を契機として、県の埋蔵文化財の調査と保護体制の整備が図られたことや、平成における史跡整備事業と普及施設の建設等が推進されたことが述べられた。埋蔵文化財行政に関しては、近年、発掘調査件数がやや増加傾向にあることが個人住宅やソーラーシステム設置に伴うもので、同時に、専門職員の公募も行われていることが報告された。
また、文化財の活用として県埋蔵文化財センターの諸活動が紹介されたが、小学校等への出前授業の減少が総合学習カリキュラムの変更に伴うもので、全体的な傾向ともいえる。さらに、重要遺跡の保護活用推進事業が計画的に進められていることも紹介された。
3 各地からの報告
九州地区では、埋文委で保存要望書を出した福岡県筑紫野市前畑遺跡や北九州市城野遺跡、長崎市小島療養所跡等の現状に関して、福岡県の佐藤委員と田尻義了委員により報告された。城野遺跡では、市民による活発な保存運動が展開していること、前畑遺跡では大宰府跡の羅城に関係する重要な遺構群としての保存の必要性が指摘された。また、静岡県の渡井英誉委員からは沼津市高尾山古墳の保存工法等に関する最新の動向が報告された。
4 その他
松崎元樹事務長から次期埋文委委員の選任について、地域連絡会に協力が要請された。
(文責:松崎)