令和3年1月17日の読売新聞国際面に、エジプトではコロナ禍で失業者が苦境にたたされ、盗掘が2.6倍に急増しているという記事があった。エジプト南部ルクソール「王家の谷」近辺で、民家に穴をあけ盗掘を行っているという。エジプト政府は、文化財保護法の改正で罰則規定を強化等行っているが、盗掘による文化財の海外流失は数多い。
世界のコロナ感染者は2月位末で1億1299万人を超え、死者は250万人をこえる数に拡大している。日本では、43万人を超え、死者は8千人に近い数である。私が住む東京都は11万人を超える感染者数である。コロナ禍、国民の協力のもと国や都道府県、地方自治体は感染拡大を止めるべく様々な方策を行っている。したがって、地方自治体の予算は税収減に加え、コロナ対策に向けられ、文化財行政の予算は大きく削減されている。緊急性が高い市民の命を救うのが第一であることは言うまでもない。ここで、日常的な埋蔵文化財の文化保護法に基づく業務は別として、文化財活用事業について如何にあるべきか改めて考えさせられる。
学問の成果は、社会に還元されなければならない。単に考古学が好きだからとか、功名心のために論文を書くわけではない。私は30年以上練馬区の埋蔵文化財に従事してきて、自身の考古学あるいは埋蔵文化財に対する考え方に大きく影響を受けた事業がある。平成10年から6年実施した石神井城跡の発掘調査である。石神井城跡は15世紀、中世豊島氏の居城である。昭和33年に日本で初めての中世城郭の発掘調査として新聞記事を賑わした遺跡でもある。城跡の構造を解明するという目的で、歴史背景や発掘調査の方法を事前に学習した上で調査参加するという事業内容で、市民を募ったところ定員の三倍にのぼる応募があった。発掘調査は1週間で、最終日に調査地を市民ボランティアの解説付きで公開した。初年度は、「石神井城跡フォーラム」として、調査地や出土遺物の公開だけでなく、解説パネル展や講演会も企画した。この事業は、東京都が毎年実施している「東京文化財ウィーク」の参加事業として行い、「東京都知事賞」を受賞した。石神井フォーラムの展示等の作成に関わった区民や発掘調査参加者の中には、当時の小学生であった子供や高校生などの学生が、今や考古学に携わる仕事に就き活躍している姿は、私にとっては誇らしくもある。また、参加者には発掘調査をしたいという「果たせなかった夢がかなった」とか、「生きがいがみつけられた」、という言葉をいただき、こちらが元気をもらった。
コロナ禍である今でこそ、埋蔵文化財の保護保存の大切さを市民に伝えるだけでなく、将来考古学、埋蔵文化財行政を担ってほしい子供達に伝えたい。人に生きる力を与えるのが「文化力」であると。コロナ禍にあって、文化財が人々の心の支えになるよう、価値を高めていくのが私たちの仕事であり課題であると思う。
※石神井城跡の出土遺物が、練馬区立石神井公園ふるさと文化館で令和3年4月3日~5月30日まで展示します。是非、ご来館ください。