2023年高校生ポスターセッション報告

 「高校生ポスターセッション」は、日本考古学協会総会研究発表会に位置づけられている。全国の高校生に対して、考古学に関連する調査研究について公募し、制作したポスターの掲示・解説による発表を実施している。また研究発表の内容を審査し、例年2~3件を優秀賞として表彰している。この取り組みは、高校生および高校教育現場と考古学界・研究者を結ぶコミュニケーションの場として実施され、本年で8回目となる。今回は、10件の応募があり全ての発表が採用となった。ポスターデータは、日本考古学協会公式ホームページで公開され(5月28日~6月9日)、『日本考古学協会第89回総会研究発表要旨』に概要が掲載されている。昨年度は、コロナ禍のため、Zoomミーティングを用いた発表を併用したが、今年度は全ての参加高校が、ポスター掲示・解説を会場で実施することができた。
 会場設営・当日進行など、一貫してご尽力頂いた松本建速氏はじめ東海大学実行員会の皆様に厚くお礼申し上げる。今回の発表は、昨年より件数は若干減少したが、昨年同様、歴史部や郷土部などの部活動のほか、個人の参加もみられた。部活動として顧問の先生と一緒に団体参加する学生が多い中、たった一人で参加していた学生も存在していた。その精神力には素直に感心し、このような個人参加を奨励するような仕組みを設けるべきかもしれない、と考えている。全体としては、年々力作が増加し、複数年にわたる調査成果も認められる。会場は活気にあふれ、もうポスト・コロナ期と考えても良いような状況であった。継続して取り組む意義を確認しつつ、さらに取り組みを前進させていきたい。

(企画(高校生ポスターセッション)担当理事 足立拓朗)

発表10件9団体(個人含)

K01 福島県立磐城高等学校 史学部
K02 埼玉県立本庄高等学校 考古学部
K03 相模女子大学高等部
K04鶯谷高等学校 地歴サークル部
K05 岐阜県立関高等学校 地域研究部・自然科学部
K06 岐阜県立関高等学校地域研究部・文芸部
K07 追手門学院大手前高等学校
K08 鳥取県立八頭高等学校 有志 亀の会
K09 愛媛県立今治東中等教育学校 生徒有志 観光おもてなしEASTレンジャー
K10 福岡県立糸島高等学校 歴史部

優秀賞受賞者および発表題目/辻秀人会長による講評

K05 岐阜県立関高等学校 地域研究部・自然科学部
「長良川支流域におけるマガモ猟の調査―民俗調査と考古資料の検討から考える―」

 本発表は、マガモ猟を行う猟師さんを訪ね、教えを受けると共に自らも調理を体験し、考古資料と照らし合わせながら縄文時代のマガモ猟を考える意欲的な試みの報告です。なによりも興味を持った事を考えるために、実践している方を訪ね、教えを受け、一方で考古学の専門家のもとで実物資料を見学する行動力が素晴らしいと思います。研究の結果見いだした縄文時代マガモの網猟存在の可能性をさらに追求されることを期待しています。

K09 愛媛県立今治東中等教育学校 生徒有志 観光おもてなしEASTレンジャー
「今治に国府が置かれた訳は古墳が教えてくれた!」
 本発表は、愛媛県の中でも必ずしも広いわけではない今治平野になぜ古代伊予国の国府が置かれたのかという疑問に答えるべく、弥生時代から古墳時代にかけての歴史を調査し、海上交通、製鉄、鍛冶の存在に注目する力作です。国府が置かれた時代を遡る歴史の中に海上交通の要所である点や製鉄、鍛冶の存在から渡来人を介した技術導入など多様で説得力のある視点からの論点は大変優れていると感じました。このような柔軟な視点のもとに歴史研究に取り組んでほしいと期待しています。

K10 福岡県立糸島高等学校 歴史部
「革袋形土器の性格に関する一考察」
 本研究は、古墳時代土器の中で極めて特異な形をした革袋形土器と、他の土器との違い、広がりから歴史的な意味を追求した力作です。多様な視点からの検討が行われていますが、なかでも、実際に猪の胃袋で容器を製作し、出来上がった姿と出土した革袋形土器との比較を行い、革袋形土器の原型となった動物の胃袋から作られた液体容器と革袋形土器との強い近似性を明らかにした点は独創的で、実際の考古学研究の場にも通用する重要な理解を生み出すことに成功していると思います。この豊かな発想力を生かしてこれからも歴史研究を進めてほしいと思います。