「高校生ポスターセッション」は、日本考古学協会総会研究発表会に位置づけられ、考古学に関連する調査研究について公募し、優秀な発表を表彰している。高校生および高校教育現場と考古学界・研究者を結ぶコミュニケーションの場として取り組まれ、本年で7回目となる。今回は、12件の応募があり11件が採用となった。ポスターデータは、日本考古学協会公式ホームページで公開され(5月29日から6月10日)、『日本考古学協会第88回総会研究発表要旨』に概要が掲載されている。
本年度は、Zoomミーティングを用い、発表会当日(5月29日)13:00~14:00にオンラインによる解説時間(コアタイム)を設けることができた。発表者は、①各自のパソコンから参加、②配信会場(早稲田戸山キャンパス)に来場し発表、を選択した。画像やデータの点検と確認、接続リハーサル(5月8日)、会場設営・当日進行など、一貫してご尽力頂いた田畑幸嗣氏はじめ早稲田大学実行員会の皆様に厚くお礼申し上げる。
今回の発表は、昨年より件数は若干減少したが、歴史部や郷土部などの部活動のほか、個人やグループでの参加もみられた。宇宙線検出といった新しいアプローチもあり、内容・分野は多彩であった。年々力作が増加し、複数年にわたる調査成果も認められる。今回もコロナ禍中における開催となったが、継続して取り組む意義を確認しつつ、オンラインとはいえ、発表の機会を確保できたことは前進といえる。
(企画(高校生ポスターセション)担当理事 河村好光)
発表11件10団体(個人含)
K01 福島県立磐城高等学校史学部
K02 福島県立相馬高等学校郷土部
K03 太田市立太田高等学校地理歴史クラブ※
K04 早稲田大学本庄高等学院墳Q班※
K05 東京都立白鷗高等学校木下奈映※
K06 鶯谷高等学校地歴サークル部
K07 岐阜県立関高等学校地域研究部
K08 岐阜県立関高等学校地域研究部(2件)
K09 奈良県立橿原高等学校考古学研究部※
K10 鳥取県立八頭高等学校生徒有志亀の会
K11 福岡県立糸島高等学校歴史部
※番号に下線:早稲田大学配信会場で発表
優秀賞受賞者および発表題目/辻秀人会長による講評
K02 福島県立相馬高等学校 郷土部(寺島祐一郎・寺島詩織・星 愛理・菅野まみ・阿部遥奈)「高松古墳群第一号墳調査の意義について」
相馬高等学校郷土部の先輩達が今から70年以上も前に実施した調査成果を郷土部の後輩が受け継いで学び、さらに現代の理解を加えて評価されたことに敬意を表したいと思います。高松1号墳調査成果は、これまで断片的に紹介されてきましたが、全体像は明らかではありませんでした。今回の発表でその成果が紹介され、現地の状況も明らかにされたことは意義深いと思います。これからも、長い伝統を受け継ぎながら、新たな活動をされることを期待しています。
K05 東京都立白鷗高等学校 木下奈映「都立白鷗高校敷地内にあった江戸時代・大名上屋敷の特徴とは?─同年代の大名屋敷・町屋敷との比較─」
本発表では、学校敷地内発掘調査で発見された江戸時代大名上屋敷廃棄坑からまとまって出土した陶磁器の分析から校内発見上屋敷の特徴を探ろうとするものでした。まず、廃棄された陶磁器から上屋敷の特徴を考える問題設定はとてもユニークで、説得力のある考え方でした。さらに、具体的な分析では、磁器と陶器の比率、食事用、喫茶用椀の比率、各器形の全体に占める割合という複数の要素を取り上げ、分析結果を多層化した円グラフを使って一目で分かる形にまとめ上げた研究方法は素晴らしいものでした。また、用いられる器の名称も専門的で驚きました。問題意識、分析手法、考察すべてで大変優れていました。
K07 岐阜県立関高等学校 地域研究部(河路康太・小原和也・渡邊貫太)「陸軍秘匿飛行場跡を追う─岐阜県内の事例から─」
本発表は、歴史の中に埋もれようとしていた岐阜県内の秘匿飛行場の存在を明らかにし、歴史的な意味を考察し、地域に伝えようとした研究活動をまとめたものでした。秘匿飛行場が関高校の近くに存在するという情報を得て、関係自治体史を調べ、さらには現地を確認し、ドローンによる写真撮影、実地調査と測量調査を実施する行動力に脱帽しました。また、地域の方々からの聞き取りも加えて多くの新たな事実を発見し、太平洋戦争時に地域で何が行われたかを描き出したことは大きな成果だったと思います。さらに研究成果を普及するために自治体に周知と活用にむけて働きかけることは、研究成果を地域にお伝えするために大切で望ましい活動だと思います。