平成28年熊本地震対策特別委員会では、2018年8月9日に復興調査に伴う埋蔵文化財調査地や装飾古墳の遺跡見学会を行いました。参加者は、宮本、杉井、近藤、木崎、小畑、美濃口、田尻の各委員でした。
まず、全員が12時50分に益城町仮庁舎に集合し、益城町教育委員会の堤課長・森本主査らの案内で、縄文後晩期・弥生時代の複合遺跡である大辻遺跡を見学しました。 5000㎡に渡る広大な面積を業務支援の導入によって、本年9月~12月で調査を完了する予定とのこと。益城町では復興住宅の建設が遅れており、それに伴う埋蔵文化財調査も今年度後半期から本格化し、今後、大規模調査が目白押しのようです。また、調査予定の隣接地も今後大規模な住宅造成が計画されており、さらなる大規模調査地となる可能性があって、懸念されます。
その後、益城町の木山神社本殿修復現場を見学しました。熊本地震によって神社本殿の崩壊後、地元の強い意向を背景として、文化財指定によって修復の助成事業として位置づけられ、再建が可能となったものです。この神社本殿は、地域の町並みの景観の拠点として位置づけられているのとことでした。
続いて車で移動し、14時30分~15時20分の間、嘉島町井寺古墳調査現場を見学しました。井寺古墳の墳丘周辺部分のトレンチ調査により、墳形や墳端の確認調査がなされていましたが、今のところ明確な墳端は確認されていません。また、羨道部の崩落した天井石のため石室内に入ることができず、石室内の復旧作業の目処が立っていないとのこと。石室の復旧や古墳の復元をどのように進めるか、今後に残された課題は山積のようです。
続いて16時~17時まで熊本市釜尾古墳発掘調査現場を見学しました。現在、被災状況の確認調査が進められており、1960年代に行われた補強工事のコンクリート覆屋の現状確認の調査が行われていました。当時の強固なコンクリート覆屋を見学することができました。井寺古墳と同じように、羨道部の崩落情況がひどいようで、今後の復旧計画を現在模索中であるとの説明を受けました。
以上のように、益城町では復興関連の埋蔵文化財調査がいよいよ本格的に始まることが理解されました。また、国指定史跡である装飾古墳を中心に復旧作業のための調査が進められていました。しかし、5年間の復興支援期間内に、どのように、かつどこまで復旧・復元していくかに問題が残されていることを痛感しました。
翌日の8月10日には、各地教育委員会埋蔵文化財担当者と面会し、復興に伴う埋蔵文化財調査体制や調査状況の確認を行いました。参加者は昨日のメンバーに加え、大分の坪根委員が加わりました。
まず、9時10分~10時10分には、宇城市教育委員会を訪れ、村山課長、神川学芸員と面会しました。宇城市の埋蔵文化財担当は、学芸員2名と任期付1名、派遣職員1名の体制です。本年度は、復興支援住宅に伴う埋蔵文化財調査がピークを迎えるとのことでした。上半期は派遣職員1名の増員で調査を遂行できたとのことですが、下半期は派遣職員の確保が難しく、臨時職員の増補などによって調査を遂行しなければならないとの説明を受けました。このほか、県指定の線刻画を持つ桂原古墳の石室が崩落しており、復旧計画をどのように進めるかが課題となっているとのことでした。
続いて益城町に移動し、11時~12時に益城町教育委員会で堤係長、森本主査他4名(派遣職員2名を含む)と面会しました。埋蔵文化財に関しては、専門職員2名、派遣職員3名の体制です。試掘・確認調査や個人住宅に関わる調査が急増し、今年度後半期から災害公営住宅建設に伴う大規模な埋蔵文化財調査が本格化するとのことでした。また、来年度から土地区画整理事業に伴う大型の埋蔵文化財調査が予定されているともうかがいました。これらの調査は、作業員の会社委託などによって進められる予定ですが、限られた期間での十全な調査が行えるかに課題が残されていると感じられました。また、調査後の遺物収蔵施設や遺物整理の施設が確保されておらず、埋蔵文化財担当者を含め不安を抱いているようでした。整理作業の施設整備が求められると同時に、報告書刊行までの一連の過程が順調に行えるかに課題を残していると思われました。今後、大辻遺跡などの発掘調査の過程を注視していく必要性を痛感しました。
昼食後、熊本市に移動し、13時20分~14時20分まで、熊本市教育委員会文化振興課埋蔵文化財調査室を訪れました。赤星係長が対応されました。熊本市は、埋蔵文化財担当職員16名、派遣職員3名(長崎県、宮崎県、福岡市)の体制です。現在、熊本駅前開発など大規模開発事業による発掘調査が急増しており、その一方で、震災関係では個人住宅での発掘や民間開発に伴う発掘調査が増えているとのことでした。また、試掘・確認調査は増大しているものの、土地開発に伴う届け出件数は、昨年度がピークであった可能性が説明されました。熊本市の場合、復興支援に関わる公共の埋蔵文化財調査は今のところないようです。また、熊本城の復旧・復興事業が大規模に行われている他に、釜尾古墳や塚原古墳群などの国指定史跡の復旧計画が検討されているとのことでした。
15時~16時は、熊本県教育庁文化課で村崎課長補佐、長谷部主幹、廣田主幹と面会しました。昨年の面談調査でも面会していますが、その後の県内での復興事業に基づく埋蔵文化財調査状況の確認を行いました。熊本県では復興事業による国道57号線の清正公道を迂回させて遺跡を保護し、江戸時代の県内初めての街道の一部を発見しました。このほか、益城町の災害公営住宅建設や区画整理事業に対する埋蔵文化財調査への支援を行っていること、また市町村に対しては、益城町、西原村、宇城市などとエリア担当を決めて、きめ細かい支援体制を組んでいることなどの説明がありました。このほか、既に面談を行った益城町や宇城市に関して個別の問題点について協議し、支援をお願いしたところです。
以上のように、復興事業に基づく埋蔵文化財調査がピークに達したところもあれば、益城町のようにこれから本格化する地域があるなど、市町村によって大きく情況が異なっています。今後の調査が見込まれるところには、その調査過程を注視するとともに、さまざまな支援の必要性を感じたところです。さらに、このような復興支援事業に伴う埋蔵文化財調査の成果を、地域住民に周知・還元する必要性を強く感じました。平成28年熊本地震対策特別委員会では、来年度後半期を目処に、被災地域住民向けの埋蔵文化財調査成果の報告会を企画したいと考えています。
(平成28年熊本地震対策特別委員会委員長 宮本一夫)