教文第1805号
令和4年7月19日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘 様
大阪府教育委員会
教育長 橋本 正司
越谷遺跡(御所池地区)の調査に関する要望書について(回答)
令和4年6月25日付け埋文委第2号で送付のあった標記の件について、別紙のとおり回答します。
(要望項目)
1.越谷遺跡の調査に際しては、中世の遺構面の段階で情報開示を行い、有識者の指導を得て検討し、遺構の適切な評価を行うこと。
2.遺構の実態解明のために必要な場合は、範囲を拡張して調査を実施し、性格究明に努めること。
3.遺構の重要性が明らかとなった場合、今後の遺跡の取り扱いについて開発者と協議し、庭園遺構の保存・活用に努めること。
(回答)
- について回答
調査に際しては、島本町文化財保護審議会の委員や必要に応じて有識者の意見を伺うこととされており、町により適切に評価がなされるものと考えております。 - について回答
今回の調査は道路部分を対象とした調査であり、基本的にその範囲で行うこととなります。道路範囲を超えて埋蔵文化財に影響を与える場合は範囲を拡張して調査を実施するよう事業主と協議を行うと伺っており、町の判断のもと適切に調査が実施されるものと考えております。 - について回答
重要な遺構が見つかった際には、その保存にかかる事業主との協議及び活用にかかる検討を行うと伺っており、町により適切な判断がなされるものと考えております。
上記3点について、大阪府においては、継続的に島本町に状況確認を行い、指導・助言を行ってまいります。
島教生第631号
令和4年7月13日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘 様
島本町町長 山田 紘平
島本町教育委員会
教育長 中村 りか
越谷遺跡(御所池地区)の調査に関する要望書の送付について
平素は、本町の文化財行政に、ご理解とご協力を賜り厚くお礼申しあげます。さて、令和4年6月25日付けでいただいた要望事項について、下記のとおり回答いたします。
記
1 越谷遺跡の調査に際しては、中世の遺構面の段階で情報開示を行い、有識者の指導を得て検討し、遺構の適切な評価を行うこと。
(回答)
越谷遺跡の埋蔵文化財調査中に、島本町文化財保護審議会の委員の皆様にも現地を確認いただき、ご意見をいただく機会を設けたいと考えております。また、必要に応じて、調査で、見つかったものに即した有識者に、意見を伺います。
2 遺構の実態解明のために必要な場合は、範囲を拡張して調査を実施し、性格究明に努めること。
(回答)
今回の越谷遺跡の埋蔵文化財調査は、恒久的な工作物である道路部分を対象としておりますので、遺構・遺物の存在を確認した場合は、道路の範囲内及び埋蔵文化財に影響を与える恐れがある場所に限り、範囲を拡張して調査を実施するよう、事業主と協議を行います。
3 遺構の重要性が明らかとなった場合、今後の遺跡の取り扱いについて開発者と協議し、庭園遺構の保存・活用に努めること。
(回答)
庭園遺構に関らず、重要な遺構が見つかった際には、遺構の保存について事業主と協議を行ってまいります。また、その活用方法についても、検討してまいります。
島教生第1160号
令和4年10月17日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山 田 康 弘 様
島本町教育委員会
教育長 中 村 り か
越谷遺跡(御所池地区)の調査について
令和4年9月16日付けでいただいた照会項目について、下記のとおり回答いたします。
記
1 島本町文化財保護審議会の現地見学が、本年8月9日午前中に実施されたと仄聞いたしております。ついては、審議会委員のご意見はいかがでしたでしょうか。
また、回答の後段に記されている有識者による意見はお聞きになりましたでしょうか。お聞きの場合は、貴教育委員の照会内容と、それに対する有識者のご回答及びそれについての対応をご教示ください。
(回答)
令和4年8月9日に実施した島本町文化財保護審議会の現地見学では、当調査地内で行われた土木工事等に伴う掘削行為を、委員にご確認いただきました。
その後、令和4年9月1日に開催した島本町文化財保護審議会では、掘削行為についての事業主からの報告内容とその時点までの発掘調査により確認できた内容、研究者からいただいたご意見、今後の対応について報告しました。委員からは、掘削行為は確認できるものの、その範囲は狭く、今後の発掘調査により遺跡の性格を十分検証できること、発掘調査については、現実的な手法で実施し、その成果については客観的かつ正確に判断すること、水無瀬離宮の研究については、発掘調査以外にも文献の調査を進める必要があることなどのご意見をいただきました。
なお、令和4年9月1日の島本町文化財保護審議会の会議録については、本町のホームページにも掲載しております。
発掘調査内容については、まだ有識者に尋ねておりませんが、今後、調査地の土の堆積状況については、専門家に確認する予定です。
2 本年8月9日に当委員会の委員による視察が行われました。その報告によれば、西側のトレンチにおいて庭園遺構の構成要素である州浜状突起の一部と思われる遺構(盛り土)が検出されています。さらに州浜状突起は、埋設 管設置等によってその大半が大きく損壊されていることが認められました。
ついては当該トレンチの周辺において、改めて州浜状突起をその上面から精査する必要があると思われますが、そうしたトレンチ拡張など追加調査の措置はとられましたでしょうか。また、追加調査を実施する場合の調査方法についてもご教示ください。
(回答)
調査地に隣接する埋設管設置部分周辺については、工事により盛土された土を除去し、旧地形を露出させ、埋設管設置及び撤去工事による旧地形への影響範囲を平面的に確認しました。
全箇所の埋設管設置及び撤去工事の埋土を除去することは、遺跡を新たに損壊させる恐れがあるため、実施しませんが、事業主から提出された報告内容を検証するため、数箇所の埋設管の埋土を除去し、掘削された深さを確認しました。
3 上記の通り、当委員会では西側トレンチで検出された盛り土遺構に関して、庭園遺構を構成する州浜状遺構の可能性が高いと判断しております。また、この庭園遺跡は後鳥羽上皇の水無瀬離宮に関連するものと推測しています。
すなわち越谷遺跡は国指定史跡に値するほどの重要遺跡だと認識しておりますが、本遺構ならびに遺跡全体の重要性に関して、貴教育委員会ではどのように認識されているでしょうか。また、今後は有識者による指導委員会を 組織し、指導・助言を受けながら調査・保護することが必要と思われますが、貴教育委員会のお考えをご教示ください。
(回答)
現時点においては、庭園遺構を構成する州浜状遺構と断定できる遺構・遺物・堆積状況は確認できていないものと認識しておりますが、越谷遺跡内の埋蔵文化財についても本町にとって重要なものと考え、その他の遺跡と同様 に真塾に文化財保護行政を推進してまいります。
また、有識者による指導委員会については、組織する予定はありませんが、今後、必要に応じて検討を行ってまいります。
埋文委 第3号
2022年7月8日
広島市長 松井 一實 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘
広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について
標記の件について、別添書類のとおり要望いたします。
なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2022年 7月29日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。
記
1 提出書類
別添のとおり 1通
埋文委 第3号
2022年7月8日
広島市長 松井 一實 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘
広島市の文化財保護体制の整備・充実に関する要望について
広島城跡の一画、サッカースタジアム建設予定地は、国史跡広島城跡の西に隣接しており、発掘調査実施前から重要な遺構の存在が予想される地点でした。発掘調査に先立つ試掘調査は、発掘調査対象面積に比して規模はわずかで、近世の遺構が良好に残存している可能性があると結論づけられたものの、近代の遺構の把握は十分ではありませんでした。
その後の発掘調査では、旧陸軍中国軍管区輜重兵補充隊の施設が非常に良好な状態で確認されました。全国的にも軍施設の発掘調査例は少ないうえ、ここでは被爆の痕跡をとどめている可能性があり、貴重な歴史資料であることは明らかでした。そのため、私ども日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2021(令和3)年8月に、調査成果を広く公開し、市民・学識経験者の意見と専門的知見・評価の収集に努めること、遺跡の価値を十分に検討し、事業計画の見直し・現地保存を含めた遺跡の保護策を講じること、十分な発掘調査を実施するため、必要な期間を確保することを求めました。
同様の要望は被爆者団体や市民団体からも出されました。こうした声に対し、広島市はわずかな遺構の切り取りや、近世遺構の調査範囲を工法変更により一部縮小するといった措置をとったのみで、発掘調査は当初計画していた期間内に収めました。市民や学識経験者からの多くの要望に対し、広島市が誠実な対応をとったとは到底いえず、また貴重な遺構が永遠に失われる結果となったことに、強く遺憾の意を表します。
事業地選定、試掘調査、発掘調査の各段階で埋蔵文化財についての評価を見直す機会があったにもかかわらず、そこで充分な検討や適切な手続きをとらなかったことに今回の問題の一因があります。本来、文化財保護を最優先すべき文化財保護担当部署が、開発スケジュールを重視した結果であり、広島市の文化財保護体制の脆弱な一面を露呈したものに他なりません。他の政令市と比較しても、その脆弱さは明らかです。近い将来、中央公園全域にわたる再開発、旧市民球場跡を含む広島城の範囲内での再開発、広島城天守の木造再建などが計画されていますが、現在の広島市の文化財保護体制下でこれらの事業が問題なく完遂できるとは到底考えられません。また、地下に眠る被爆の痕跡の存在を適切に認識し、保存・継承していくことは、原爆被害を広く訴える国際平和文化都市を掲げる広島市において、喫緊の課題といえます。
将来の広島市民が、自分たちの都市の歴史を物語る遺跡や被爆の痕跡を共有できるよう、広島市はすみやかに文化財保護体制の整備・充実をはかり、実現することが必要です。
以上により、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は下記の通り要望いたします。
記
1 広島市における文化財保護体制の整備・充実をすみやかにはかり、実現すること。
2 サッカースタジアム周辺および周知の遺跡として登録されている広島城跡の範囲内において、総合的かつ適切な埋蔵文化財保護措置を講じること。
3 被爆の有無やその状況について、専門家を含めて検討する体制を整備し、被爆の痕跡をのこす埋蔵文化財は被爆遺跡・被爆遺構として保存・継承すること。
以上
東京学芸大学において、文化財科学分野の教員募集があります。
広域自然科学講座 文化財科学分野
テニュアトラック教員 准教授または講師 1名
(専門領域:保存科学・修復科学)
応募期限:令和4年8月31日(水)必着
埋文委 第2号
2022年6月25日
文化庁長官 都倉 俊一 様
大阪府知事 吉村 洋文 様
大阪府教育委員会教育長 橋本 正司 様
島本町長 山田 紘平 様
島本町教育委員会教育長 中村 りか 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘
越谷遺跡(御所池地区)の調査に関する要望書の送付について
標記の件について、別添書類のように、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容を有するものであり、貴職におかれましては、適切な対策が講じられることを改めて要望いたします。
なお、まことに恐縮ですが、当件に係る具体的な措置および対策につきまして、2022年7月22日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。
記
1 提出書類
別添のとおり 1通
埋文委 第2号
2022年6月25日
文化庁長官 都倉 俊一 様
大阪府知事 吉村 洋文 様
大阪府教育委員会教育長 橋本 正司 様
島本町長 山田 紘平 様
島本町教育委員会教育長 中村 りか 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 山田 康弘
越谷遺跡(御所池地区)の調査に関する要望書
後鳥羽上皇の別業として知られる水無瀬離宮は、周辺に複数の関連施設を有した非常に大規模な施設であったことが従来の研究で明らかになっています。御所池はその水無瀬離宮の本体部分と推定される地区から南西方向約1.5kmに位置し、周知の埋蔵文化財包蔵地としては、越谷遺跡に該当します。特に御所池及びその南側の農地(以下、「南側農地」と仮称)は、昭和30年代の奈良国立文化財研究所による測量調査によって、「平安時代初期の宮苑遺跡である旧嵯峨院園池(大沢池)などと類似のもの」と評価されています(森蘊「遺跡・庭園の調査」『奈良国立文化財研究所年報』1960)。「南側農地」には西から東へ池汀線が岬状に伸びる州浜状地形を数年前まで見ることができました。その西側で1991年から1993年にかけて名神高速道路内遺跡調査会が実施した調査では、鎌倉期の遺構が多数検出され、報告書では「居館等の中心的な施設は検出していないが、調査区にあたる部分は重要地域であったことは(中略)容易に想定できるのである」と評価されています(名神高速道路内遺跡調査会『越谷遺跡他発掘調査報告書』1997)。
2021年4月(仮称)JR島本駅西土地区画整理事業に関わる試掘調査では、南側農地の道路予定地に南北方向のトレンチが入れられ、その結果、東西方向に延びる盛土遺構が検出されました。これは、ちょうど上記の州浜状地形の部分にあたります。さらにこの盛土の時期は、出土遺物より13世紀初頭と推定されることから、まさに後鳥羽院政期に該当します。すなわちこの試掘結果により、南側農地は御所池と一体の園池であり、水無瀬離宮を構成した重要な施設である蓋然性が高くなりました。
以上のことから、一般社団法人日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、越谷遺跡(御所池)地区の調査および今後の保護活用の観点より、以下の通り要望します。
記
1. 越谷遺跡の調査に際しては、中世の遺構面の段階で情報開示を行い、有識者の指導を得て検討し、遺構の適切な評価を行うこと。
2.遺構の実態解明のために必要な場合は、範囲を拡張して調査を実施し、性格究明に努めること。
3.遺構の重要性が明らかとなった場合、今後の遺跡の取り扱いについて開発者と協議し、庭園遺構の保存・活用に努めること。