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お知らせ内容

5月29日(日)第88回総会研究発表において、2022年高校生ポスターセッションを実施いたしました。
ここに、優秀賞3件を発表いたします。

 


優秀賞
 K02 福島県立相馬高等学校 郷土部(寺島祐一郎・寺島詩織・星 愛理・菅野まみ・阿部遥奈)
 K05 東京都立白鷗高等学校 木下奈映
   K07 岐阜県立関高等学校 地域研究部(河路康太・小原和也・渡邊貫太) 

優秀賞受賞者には、トロフィーを贈呈いたします。

 

なお、ポスターについては6月10日(金)17時まで公開中です。

公開終了しました

 

【辻会長講評:優秀賞コメント】

・K02 福島県立相馬高等学校 郷土部(寺島祐一郎・寺島詩織・星 愛理・菅野まみ・阿部遥奈)
    「高松古墳群第一号墳調査の意義について」

 相馬高等学校郷土部の先輩達が今から70年以上も前に実施した調査成果を郷土部の後輩が受け継いで学び、さらに現代の理解を加えて評価されたことに敬意を表したいと思います。高松1号墳調査成果は、これまで断片的に紹介されてきましたが、全体像は明らかではありませんでした。今回の発表でその成果が紹介され、現地の状況も明らかにされたことは意義深いと思います。これからも、長い伝統を受け継ぎながら、新たな活動をされることを期待しています。

 

・K05 東京都立白鷗高等学校 木下奈映
    「都立白鷗高校敷地内にあった江戸時代・大名上屋敷の特徴とは?
     -同年代の大名屋敷・町屋敷との比較-」

 本発表では、学校敷地内発掘調査で発見された江戸時代大名上屋敷廃棄坑からまとまって出土した陶磁器の分析から校内発見上屋敷の特徴を探ろうとするものでした。まず、廃棄された陶磁器から上屋敷の特徴を考える問題設定はとてもユニークで、説得力のある考え方でした。さらに、具体的な分析では、磁器と陶器の比率、食事用、喫茶用椀の比率、各器形の全体に占める割合という複数の要素を取り上げ、分析結果を多層化した円グラフを使って一目で分かる形にまとめ上げた研究方法は素晴らしいものでした。また、用いられる器の名称も専門的で驚きました。問題意識、分析手法、考察すべてで大変優れていました。

 

・K07 岐阜県立関高等学校 地域研究部(河路康太・小原和也・渡邊貫太)
    「陸軍秘匿飛行場跡を追う-岐阜県内の事例から-」

 本発表は、歴史の中に埋もれようとしていた岐阜県内の秘匿飛行場の存在を明らかにし、歴史的な意味を考察し、地域に伝えようとした研究活動をまとめたものでした。秘匿飛行場が関高校の近くに存在するという情報を得て、関係自治体史を調べ、さらには現地を確認し、ドローンによる写真撮影、実地調査と測量調査を実施する行動力に脱帽しました。また、地域の方々からの聞き取りも加えて多くの新たな事実を発見し、太平洋戦争時に地域で何が行われたかを描き出したことは大きな成果だったと思います。さらに研究成果を普及するために自治体に周知と活用にむけて働きかけることは、研究成果を地域にお伝えするために大切で望ましい活動だと思います。

発信者
機関誌『日本考古学』編集委員会
刊行物
Content

2022年5月26日発行 144p ISSN 1340-8488 ISBN 978-4-642-09405-4

論 文小畑弘己・
真邉 彩・
國木田大・
相美伊久雄
土器包理炭化物測定法による南九州最古のイネの発見―志布志市小迫遺跡出土のイネ圧痕とその所属時期について
論 文関根達人石厨子の基礎的研究
論 文加藤雄太近世京都の土人形の基礎的研究
論 文米元史織MSMsの時期的変遷からみる江戸時代武士の行動様式の確立
研究ノート小林謙一・
副島蔵人・
井村恵美
昭和47(1972)年発行の「土器はがき」図案選定の経緯―考古学の社会的認知の一例として―
遺跡報告岩井聖吾・
佐藤悠登
東京都東久留米市川岸遺跡の発掘調査概要
遺跡報告京嶋 覚・
高橋浩樹・
濱野浩美
鳥取県米子市博労町遺跡の発掘調査成果―弓ヶ浜半島の内浜砂州上に形成された遺跡の変遷
書評平田 健坂詰秀一著『転換期の日本考古学―1945~1965文献解題―』
発信者
広報委員会
本文

 2020年冬に中国に端を発したコロナウィルス感染症は、瞬く間に世界規模に拡がっていきました。我が国も例外ではありません。ウィルスによる感染を防ぐために密集を避けることが要求され、通常の社会活動も大きく制約されることになりました。

 日本考古学協会もコロナの影響を受け、2020年の総会(専修大学)、大会(金沢)は、中止せざるをえませんでした。その後、2021年度の総・大会はオンラインの力を借りながら開催できました。

 この2年間、コロナ禍は治らず、通常の理事会や各種委員会は、オンラインと対面式とを併用しながら行われています。

 この状況下で、広報委員会(2020―21年度)は、連載コラム「コロナ禍の考古学」を企画しました。

「コロナ禍の考古学」は、私たちがコロナに、いかに対応・対処をしてきたかを、自由に述べていただくこととしました。そしてコラムを協会ホームページに搭載することで、それぞれの体験を共有することを目指しました。

 連載は、2020年10月からスタートし、2022年5月の第39回まで続けることができました。みなさんお忙しい中にもかかわらず、積極的に原稿をお寄せいただきました。

 扱われたテーマは、個別研究の推進をどうしているか、全国学会及び地域学会の活動の問題点、行政の動き、大学や高校の授業、発掘調査の事例、そして博物館活動など多岐にわたっています。各コラムのどれもが、高い見識と豊富な経験に基づいて書かれたものでありました。

 さらに、ヨーロッパ、西アジア、中央アジア、東南アジア各地域の状況に触れたコラムもお寄せいただきました。各コラムとも、当該地での豊富な調査体験に基づき書かれたものであります。このパンデミックに関して、国際的な視点を構築する基となると考えます。

 繰り返しになりますが、各コラムは、コロナ禍で何が起きたか、どう対処したか、なまの声を伝えているものであり、貴重なものです。各コラムは、「コロナ禍の考古学」連載終了後も、協会ホームページ内のアーカイブのコーナーに保存しておくつもりでいます。ぜひご覧いただけこと願っています。

 もう一つ加えます。「オンライン」での会議、授業、講義。講演のメリット、デメリットについて扱ったコラムがいくつか見られました。これは、この2年間の特徴的なことと思います。オンラインをどう活用するか、これもまたコラムの中にヒントがあると思います。

 まだパンデミックがおさまってはいませんが、協会は新たな年度を迎えます。広報委員会も新しい体制となります。これを機に「コロナ禍の考古学」を、一区切りしたいと存じます。

 執筆いただいた方々に、この場を借りて、感謝いたします。     

 

広報委員会(2020―21年度)
(足立佳代、佐古和枝、小澤正人谷口榮、近藤英夫)
               佐古理事が、原稿の編集にあたり、
徳田事務局員が、H P搭載を担当しました。

発信者
広報委員会
本文

 「形のあるものは、いずれその姿を失うものも多い。しかし、歴史を学ぶ私たちは、残されたものをつなぐようにして、何を未来に伝えるべきかを考えていきたいと思います…。」これは、春休みに黒耀石体験ミュージアムで開催した国際交流のための研修会に参加した高校2年生の黒耀石大使の言葉です。

 この日は、新型コロナ禍やウクライナへの軍事侵攻などで、海外への渡航を含めた活動再開の見通しが立たないまま新年度を迎える子ども達に、国際交流の意義や今後の活動方針を伝える説明会を開催しました。そして、研修会では、近藤英夫東海大学名誉教授から、不安定な政治情勢下で海外の調査に赴いたご自身の体験談や、世界に視野を広げようとしている大使達へのエールを頂きました。「人類が遭遇する様々な禍とは何か…。我々の祖先たちは、時間をかけながらも自然現象によって発生した様々な災害や病害を乗り越えてきました。そして、人とその社会が引き起こした戦争は、まさに人類の意志によって解決できる禍なのです。」高校生の感想は、この講義を受けて感じたことを述べたものでした。

 長野県の長和町では、博物館を窓口として2016年から「歴史遺産を活かした国際交流」の事業に取り組んできました。交流の相手は、新石器時代からフリントの採掘がおこなわれていたイギリス東部のブレックランド地方です。採掘の痕跡がクレーター状に連なる景観を「巨人のお墓」と称したグライムズグレイブス遺跡は、長和町の星糞峠で発見された縄文時代の黒耀石鉱山とその姿がよく似ています。

 この国際交流事業に参加する黒耀石大使は、地元の中学・高校生を対象とする公募を経て任命されます。いずれも、小学生の頃から遺跡に通ってきた子ども達です。大使の主な任務は、隔年でイギリスに渡航し、ふるさとの遺跡から学んだ黒耀石の歴史、そして、その背景にある旧石器時代や縄文時代の社会や人々の思いについて気付いたことを、英語で発信する広報活動と、イギリスの子ども達と協力して市民を対象とする石器づくりのワークショップを開催することです。

 2016年、黒耀石大使の第1期生は、国際交流のきっかけをつくってくださったノリッジの「セインズベリー日本藝術研究所」、そして、セットフォードの「エンシェントハウスミュージアム」等の博物館の支援を受けて、グライムズグレイブス遺跡と星糞峠黒耀石鉱山との、世界初の『双子遺跡協定』締結式に出席しました。セレモニーの会場となったグライムズグレイブス遺跡に立った大使達は、「数千年もの昔、1万キロも遠く離れた地球の反対側で、我々の祖先が同じように生活を支えた石器の材料を地下資源として掘り出していた…。」と、ふるさとの身近な歴史が時空を超えて世界とつながるという大きな発見に目を輝かせていました。そして、『East Meets West : The archaeology of flint and obsidian』というテーマで開催された国際的な学会の冒頭では、大使達が選んだ言葉で「黒耀石の広域流通の背景には、地域を超えて互いの幸せを支えた思いと絆があった。」とするプレゼンテーションを行いました。このメッセージには、世界の平和を願う子ども達の純粋な思いが込められていると心を動かされた方も多かったようです。遺跡に通ってきた子ども達が、大使として伝えたかったことは、現実社会と向き合うメッセージでもあったのです。

 こうした先輩たちの活動を見て大使となった子ども達も、その半数は、すでに2回の渡航延期を余儀なくされています。コロナ禍も、ウクライナの状況も、本当に多くの人々や組織、国や地域が協力して解決の糸口を探っていますが、その道のりは険しいものです。当然、一個人、あるいは、一つの地域だけで解決するのは不可能です。しかし、解決に向けた協力体制は、ひとりひとりの気持ちが、行動が寄り集まって出来上がるものであると信じています。目まぐるしく変動する社会の中で育つ子供達ですが、そんな中でもふと立ち止まり、「残されたものをつなぐようにして…」という思いがその心の中にあります。

 山の中の博物館でも、感染防止のための対策を講じながら、雪解けを待って新学期の子供達の受け入れが始まろうとしています。人類の誕生からはじまる長い歴史の中で、平和で、平穏な日常がどれほど大切か…。さあ、我々自身も心を新たに、一緒に学ぶ大切な時間を過ごしましょう。

長野県黒耀石体験ミュージアム 大竹幸恵

 

イギリス グライムズグレイブス遺跡で取り交わした「双子遺跡協定」2016

 イギリス グライムズグレイブス遺跡で取り交わした「双子遺跡協定」2016