2県跡活 第2号
2教文 第712号
令和2年10月30日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦 様
長崎県知事 中 村 法 道
長崎県教育委員会教育長 池 松 誠 二
長崎県庁跡地に所在する遺跡の保存活用に関する要望について(回答)
時下ますます御清栄のこととお喜び申し上げます。
また、かねてより、長崎県の文化財保護行政に格別の御高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、2020年10月5日付埋文委第3号により御提出いただきました、長崎県庁跡地に所在する遺跡の保存活用に関する御要望につきましては、下記のとおり回答いたします。
今後とも、この土地が県民市民のみならず、多くの方が訪れる賑わいの場所となるよう検討を進めてまいりますので、御理解御協力をよろしくお願いいたします。
記
別紙のとおり
別紙
1.埋蔵文化財調査について
県庁舎跡地の埋蔵文化財調査については、昨年の範囲確認調査で、跡地西側部分に、江戸時代の土層や遺構が確認されております。
昨年度の調査では、遺構保存のため、西側遺構の中心部に4代目県庁舎の基礎を残して調査をしておりましたが、本年8月に基礎を取り除くことができましたので、本年11月からは、西側遺構の全面的な広がりを確認するための内容確認調査を実施することとしております。
調査にあたっては、専門家の御意見も伺いながら進めてまいります。
2.県庁舎跡地の活用について
県庁舎跡地の活用につきましては、この地が様々な歴史を持ち、まちなかに位置する貴重な県民の財産であることを踏まえ、憩いや集いの空間としての広場機能や、本県の歴史や観光等の魅力を伝える情報発信機能を基本に、新たな機能を付加することを含め、活用策のさらなる検討を進めております。
今回出土した石垣についても、どのような保存・利活用ができるか検討を深めるとともに、出島をはじめとした周辺施設との連携にも留意しながら、歴史を活かし、賑わいの創出につながるような活用策を検討してまいります。
※
回答につきましては、1を文化財を所管する部局である長崎県教育庁が、2を県庁舎跡地活用に取組む知事部局が それぞれ作成しております。
「第11回日本考古学協会賞」には、締切日までに9件の応募と1件の推薦がありました。2021年3月14日(日)に選考委員会が開催され、大賞には小畑弘己氏、奨励賞に阪口英毅氏と山﨑健氏、優秀論文賞に前田仁暉氏がそれぞれ推薦され、3月27日(土)の理事会で承認されました。各賞は、5月22日(土)の第87回総会(専修大学)において発表され、辻秀人会長から賞状と記念品が授与されました。なお、小畑弘己氏については当日オンラインでの参加となったため、賞状と記念品は後日、個別送付させていただきました。
受賞理由並びに講評は、次のとおりです。
吉川弘文館

本書は、ダイズやコクゾウムシなどの縄文時代の栽培植物や家屋害虫の存在を明らかにすることで研究を飛躍的に推進したこれまでの土器表面圧痕法(レプリカ法)のもつ限界を克服するために、土器内外の圧痕を遺漏なく回収可能なX線解析法を新たに導入し、その成果と可能性を積極的に議論・展望した意欲的な研究成果となっている。
本書は5部から構成され、まず従来のレプリカ法と新しく導入したX線CTスキャナー法の違いを概観(Ⅰ部)したのち、これまでのレプリカ法が明らかにしてきた縄文時代の栽培植物やその東アジア的な動向等の研究成果を紹介する(Ⅱ部)。さらにレプリカ法による表出圧痕だけでは必ずしも解明しきれなかった潜在圧痕を、筆者の言う「熊大方式」(X線CTスキャナー法)によって検出することの意義について、事例研究を通して具体的に論じている(Ⅲ部)。Ⅳ部ではコクゾウムシやゴキブリなどの家屋害虫に注目し、縄文時代の貯蔵形態に関する具体的な示唆を考察した。Ⅴ部ではクリやウルシといった樹木栽培の問題を改めて圧痕法から再検討するとともに、タネやムシの土器胎土への混入に関する人為性の有無について、課題提起を行った。
筆者は、レプリカ法が肉眼による「第二の発掘」と呼びうるのに対して、X線機器を応用した解析法を「第三の発掘」と呼んでいるが、まさに圧痕研究のイノベーションと評価できることは間違いないだろう。特に土器という普遍的な資料を用いて定量的なデータを提示可能な方法を開発したことは、これまで低湿地遺跡や遺跡土壌の分析等に偏していたクリなどの人為的拡散や主利用堅果類の地域差などの問題の検討可能性を大きく広げており、縄文時代の生業研究の今後に大きな影響を与えうる画期的な研究成果と言える。今後の研究の展開を期待したい。
同成社

本書は、古墳時代中期の中核的考古資料である甲冑を取り上げ、周到な検討を及ぼした意欲的な大作である。大きくは第Ⅰ部「甲冑研究の枠組」、第Ⅱ部「革綴短甲生産の展開」、第Ⅲ部「革綴短甲生産体制の評価」から構成されている。
古墳時代中期を中心とした時期の甲冑資料は、有力古墳の副葬品として枢要な位置を占めており、古墳時代研究の中では極めて盛んな研究領域を占め、学界の研究蓄積も膨大な数に及んでいる。第Ⅰ部では、甲冑資料の基本的理解につながる「副葬形態」「系譜論」「型式論・編年論」「製作工程論」に対する研究動向を徹底的に分析し、その到達点と課題を整理した上で、著者の立脚点を明確化している。
そして、本論部分である第Ⅱ部では、定型化・量産化成立の所産である帯金式革綴短甲の成立過程、展開過程を明らかにし、さらに第Ⅲ部では、詳細な製作技術史的検討を基礎に生産体制の復元へとつなげている。
ところで、本書の中で、検討の中核的資料となっているものに茨木市紫金山古墳・堺市七観古墳・五條市五條猫塚古墳・小野市小野大塚古墳・丹波篠山市雲部車塚古墳等があるが、これらの古墳の多くは、早くに発掘されたものが大半であり、その報告書の刊行や遺物再検討の調査が長年月をかけて実施され、大冊の成果が刊行されている。その多くについて中心的役割を果たしたのが著者であり、その延長上に本書が結実しているところである。方法論的には極めてオーソドックスな取り組みであるが、その着実・周到な研究姿勢は、次世代の考古学研究者を育成していく上でも、極めて重要な示唆的良書である。
なお、著者は本書刊行から程ない2020年12月に急逝されるところとなった。本書の構成を見てみると、これに引き続き鋲留甲冑の体系的な研究を視野に置いていたことがよくわかり、そのことが待望されていたことがよくわかる。
六一書房

本書は伊勢湾奥部及び三河湾沿岸地域における農耕開始期の動物資源利用を扱った第Ⅰ部と、今後出土動物遺体の研究全般に資する視点や方法論を記し、さらに動物考古学の社会貢献も模索した第Ⅱ部からなる。
第Ⅰ部では、膨大な量に及ぶ出土動物遺体を堅実に観察・分析した結果に基づき、縄文時代晩期から弥生時代における生業活動の変化とその地域性が精緻に描き出されている。ともするとイノシシ類の家畜化(ブタの飼養)ばかりに関心が集まるなか、等閑視される傾向にあった弥生時代における動物資源利用の実態が、野生種に当たる貝類・魚類・哺乳類遺体の研究成果も踏まえ明らかにされた意義は大きい。貝類については、特に渥美半島の吉胡貝塚、伊川津貝塚、保美貝塚から多出するベンケイガイなどタマキガイ科製の貝輪を観察・分析に加えた点も評価に値しよう。特定の動物群に特化せず出土動物遺体を包括的に扱い、さらには多様な遺体群とそれらを素材とする製品を分け隔てなく扱うことの大切さを、本書は改めて教えてくれる。
兵庫県立人と自然の博物館、栃木県立博物館の現生標本群を精査し、ニホンジカについて死亡時期・年齢査定法を新たに開発・整備した点も特筆に値する。第Ⅰ部第4章で同種猟期の査定に用いられたX線画像で下顎骨歯牙の萌出交換状況を観察・スコア化し死亡月齢を推定する方法、第Ⅱ部第8章で示された四肢・体幹骨の部位別骨端癒合時期とも、今後動物考古学者がニホンジカの死亡時期・年齢査定を行う際に資するものと言える。
第Ⅱ部第8章では、このほか動物遺体を扱う上で不可避なタフォノミーの問題を考慮する上で民族考古学や実験考古学から得る知見が重要であることも示され、著者自身によるモンゴル高原での実践例も紹介されている。加えて、最終第9章では、動物考古学の調査・研究から得られる過去の人と自然の関係についての知見を、現代の環境政策に活かす方途も模索されている。その内容は、前章までと比べやや異質で唐突な印象を受けなくもないが、東日本大震災以降、被災地の緊急発掘にも数多く携わり、考古学を取り巻く今日的な課題にも真摯に向き合う著者ならではの問題意識も垣間見える。
膨大にして多様な動物遺体を対象に包括的かつ堅実な調査・研究を重ねつつ、その成果を公共の知財とする方途も探る著者の一層の活躍に期待したい。
『日本考古学』第49号

原始から現代の民具に至るまで長く使われてきた横槌・掛矢は、形態が単純なゆえに考古学的な分類や編年が進まず、民具との比較から機能が類推されるにとどまっていた。そのような現状に対し、本論文は、近畿地方の横槌・掛矢を集成し、全体の寸法と形態をもとに定量的な分類を行ったうえで、樹種や使用痕からそれぞれの分類について機能を推定した。さらに、時期的な消長を整理してそれらの変遷を明らかにした。
まず、柄の有効長を基準とした寸法によってA・B・Cの3類に大別し、さらに敲打部の長/径をもとにそれぞれを2~4類に細分した。次に、分類ごとの使用樹種と使用痕の傾向を数量的に示して、もっとも小さなA類の主体をなすA-1類を祭祀などの象徴的機能を負う「横槌形」、最多をなすB類の主体をなすB-1類を豆打ちや砧打ちなどの農具的機能をもつ「横槌」、もっとも大きなC類の典型をなすC-1類を鉈打ちや杭打ちなどの工具的機能を帯びる「掛矢」とみなした。
次に、弥生時代から近現代に至るそれぞれの消長を示すことによって、弥生~古墳時代の水稲耕作や灌漑構築の需要が「横槌」や「掛矢」の増加と関連することや、古代以降の木槌の出現が「横槌形」「掛矢」の機能を変容させることなどを指摘して、この種の道具の歴史的な変遷過程を概観した。
以上の分析は、客観的な分類と観察に立脚した機能の同定によって、従来は主観的で曖昧であった横槌・掛矢の考古学的研究を大きく前進させた重要な成果である。このことによって、本論文を優秀論文賞に相応しい研究として推薦するものである。
埋文委 第3号
2020年10月5日
文化庁長官 宮 田 亮 平 様
長崎県知事 中 村 法 道 様
長崎県議会議長 瀬 川 光 之 様
長崎県教育委員会教育長 池 松 誠 二 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦
長崎県庁跡地に所在する遺跡の保存活用に関する要望について
標記の件について、別添書類の如く、当該地は日本歴史にかかわる学術上極めて重要な内容をもつものでありますので、貴機関におかれましては、包蔵された埋蔵文化財について、適切な取り扱いをしていただくことを下記のとおり要望いたします。
なお、まことに恐縮ですが、当件の具体的な措置、対応については2020年10月30日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。
記
1 要望事項 別添のとおり
以上
埋文委 第3号
2020年10月5日
文化庁長官 宮 田 亮 平 様
長崎県知事 中 村 法 道 様
長崎県議会議長 瀬 川 光 之 様
長崎県教育委員会教育長 池 松 誠 二 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦
長崎県庁跡地に所在する遺跡の保存活用に関する要望書
長崎県庁跡地は、イエズス会本部が置かれた「岬の教会と関連施設」、その後設置された「長崎奉行所西役所」、そして幕末期日本にあって近代化をいち早く取り入れた「海軍伝習所」や「医学伝習所」、「活字版摺立所」など、日本の歴史上重要な施設が存在した場所です。また、その後は長崎県の県庁舎建物が重層的に建設されるなど、県政史上においても重要な場所となっています。
本委員会では、この地に存在する遺跡の重要性に鑑み、2019年3月7日付けで、「長崎県庁舎跡地に所在する遺跡の取り扱いに関する要望書」を提出いたしました。その後も現地を視察させていただき、調査の進捗状況やその成果などを注視してきたところです。
そして、先日も内容確認調査を見学させていただき、学芸文化課の遺跡に対する真摯な取り組みにより、調査区だけでなく県庁跡地全体の学術的歴史的価値を把握することが出来つつあると考えております。
今回検出した石垣に関しては、下段は1610年代の奉行所以前にさかのぼる可能性も指摘されており、その年代からすると、多くの市民が関心を寄せている岬の教会との関連を解明することが重要課題であると思われました。
以上のことから、一般社団法人日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会といたしましては、確認調査による新知見をもとに県庁跡地全体の学術的価値を一層明らかにし、市民はもとより長崎を訪れる多くの方々に、理解・共有できるようにするとともに、国史跡出島との一体的な活用を軸に県庁跡地の保存・活用を検討していただくことを要望致します。
記
1.長崎県庁跡地の保存・活用を適切に進めるため、今回の調査区以外に調査箇所を面的に広げ、跡地全体の歴史的重層性を確認し、十分な学術的価値を把握すること。
2.県民市民だけでなく、長崎を訪れる多くの方々に対して、出島と一体となった長崎の歴史が体感できる跡地活用を進めること。
以上
「第10回日本考古学協会賞」には、締切日までに9件の応募がありました。2020年3月4日(水)に選考委員会が開催され、大賞及び優秀論文は該当なし、奨励賞には新里亮人氏と松本圭太氏が推薦され、3月31日(火)のメール審議による理事会で承認されました。各賞は第86回総会議案書において発表されましたが、新型コロナウイルス感染拡大により表彰式が開催できなかったため、賞状と記念品は後日、個別送付させていただきました。
受賞理由並びに講評は、次のとおりです。
同成社

本研究は、九州島と台湾の間、南北1,000キロ以上に連なる琉球列島(南島)から出土する「食器」(陶磁器・土器・石鍋)の分析をとおして、グスク時代の社会や経済状況、交流関係を解明し、琉球国の成立の歴史的背景を追求することを目的とする。
今世紀に入り、奄美諸島でグスク時代の生産・流通拠点となる遺跡や大規模集落・城郭の調査・研究が急速に進んだことで、沖縄本島内での発展段階的な琉球王国成立論が見直され、琉球国の成立に外的要因を求める見解が注目されるようになった。そうしたなか、新里氏は、琉球列島産食器類(在地土器・徳之島産カムィヤキ)の編年や技術系譜を明らかにするとともに、それらと舶来食器類(九州産滑石製石鍋・朝鮮半島産無釉陶器・中国産陶磁器)とのセット関係を九州や南中国などの周辺地域と比較検討することで、交易関係と社会の在り方に焦点をあて、グスク時代の琉球列島の歴史が東アジアの中世世界とどのような関わりを持って展開したかを明らかにすることに成功した。
外部集団の影響により導入された中世日本の食器に由来する在地土器・滑石製石鍋・中国産陶磁器・カムィヤキが、かつて異文化圏であった先島諸島を含め琉球列島各地に広く展開し、琉球圏が成立したグスク時代前期(11世紀中頃~12世紀中頃)には、琉球列島は博多を中心とする中世的商業圏に取り込まれ、琉球圏の中では九州島との結びつきが強い奄美諸島に優位性があったとする。また、中国産陶磁器や九州産滑石製石鍋の検討から、琉球列島と九州島との通時的な経済的連結を確認するとともに、グスク時代中期(12世紀中頃~13世紀中頃)には琉球列島の在地勢力主導による交易が展開していたことや、グスク時代後期(13世紀中頃~14世紀代)には新たに琉球列島と中国沿岸部を結ぶ交易ルートが加わったことが指摘されている。一方、社会の複雑化は、奄美諸島で使用者の階層を表現する食器文化が成立したグスク時代前期、食器類による階層表現文化が沖縄や先島諸島に浸透したグスク時代中期、沖縄諸島で精製陶磁器-粗製陶磁器-カムィヤキ-在地土器という食器の階層化が完成するグスク時代後期へと次第に進行したとする。
特に評価すべきは、伊仙町教育委員会在籍時に史跡指定に取り組まれた徳之島カムィヤキ陶器窯跡の調査成果を基盤とする研究である。カムィヤキの生産を日宋貿易・日麗貿易の延長線上に位置づけることで見えてきた琉球列島をめぐるグローカルな世界は、考古学に基づく地域研究の重要性と可能性の大きさを示していよう。
本研究は、沖縄出身の新里氏が熊本大学に学び、仕事場とした奄美の徳之島で育み発展させたことが随所に窺える。本書刊行後に熊本大学埋蔵文化財調査センターに移られた新里氏が、新たな立位置から琉球国の考古学を発展させることを期待したい。
九州大学出版会

本書は、ユーラシア草原地帯とその周辺域における、前2千年紀から前1千年紀初頭の青銅器時代の動態解明を試みたものである。それはまた、人類史上の古くて新しい課題である「初期遊牧民文化の起源」を探る試みでもある。
ユーラシア草原地帯とは、長城地帯以西、モンゴリアからアルタイ山脈・サヤン山脈を越えてカザフスタンに通ずる地域である。この広大な地域のうち、アルタイ山脈の北側に位置するミヌシンスク盆地と、アルタイ山脈以東のモンゴリアが、当該地域の青銅器文化展開を解明するキーになる。
著者は、この地域の青銅器について、型式分類、動物紋の系譜整理と分類、さらに成分分析等、多角的な追及を行っている。
著者によると、ミヌシンスク盆地およびモンゴリアの文化展開は次の通りである。
すなわち、青銅器時代Ⅰ期(前2千年紀前半。石器にかわる道具としての青銅器の出現期)、青銅器時代Ⅱ期(前2千年紀後半。非実用の精製青銅器が広範囲で出現)、青銅器Ⅲ期(前2千年紀末~前1千年紀初頭。工具等の実用的青銅器の役割が増す時期)、そして青銅器時代Ⅳ期(前1千年紀前半。青銅器時代の最終段階、一部に鉄器出現)、である。
上の各期のそれぞれの文化的特徴をみると、青銅器時代Ⅰ期は青銅器の使用開始期、Ⅱ期は青銅器が‘様式’を形成する段階、Ⅲ期は騎馬とそれに伴う遊牧が開始される段階、そして、Ⅳ期は個人墓の造営が認められる段階。すなわち、リーダーの出現が想定される段階となる。
以上のように、ミヌシンスク盆地とモンゴリアでは、青銅器の出現から、‘様式’の成立とその発展といった一連の流れが認められる。そこには前2千年紀から前1千年紀初頭にかけての、絶えざる地域間交流も認められるのである。それはすなわち、当該地域の青銅器文化が「忽然」と現れたものでないことを示すものである。
本書は、具体的な考古資料操作を通して、当該地域の青銅器時代展開の実相に迫っていると評価できる。また、今後の活躍も期待されることから、考古学協会奨励賞に推薦するものである。
第10回協会賞選考委員会を2020(令和2)年3月4日(水)に開催した。協会賞・奨励賞についてであるが、本年度は9件と昨年に引き続き多くの応募があり、協会賞が定着してきた感がある。
応募の対象となった業績についてみていくと、地域的には日本を主たる対象としたもの8件、中央ユーラシアが1件であった。一見、日本考古学分野が多いように感じるが、日本の中には朝鮮半島について論考を含むものが3件、また、琉球列島について論考が1件あり、中央ユーラシアの1件を加えると、日本列島の周辺国・地域に応募の研究・業績の対象が広がっているともいえるであろう。
9件の応募の業績のうち6件が、博士学位論文をもとにした論考・業績であり、今回応募された業績の質の高さを示している。一方、応募者の年齢層を見ると、30歳代が最も多く4名、40歳代が3名、50歳代1名、60歳代1名であり、30歳代が多いことは博士学位論文をベースにした業績が多いことと関係している。今回の業績は先述したように、総じて論文として質の高いものであって頼もしく感じたが、一方において、考古学的活動・実践との結びつき、もしくは考古学の啓発や普及、社会貢献の増大との結びつきにおいては、やや物足りなさを感じる点もあった。
日本考古学協会賞規定の目的にある「考古学の啓発と普及、人材の育成、社会貢献の増大など」に、これから期待できる若手の業績をより評価して、今回はあえて大賞を該当なしとし、奨励賞の候補を2名とした。今回は表彰できなかった若手研究者の業績にも優れたものがあり、未来の大賞候補として今後の活躍を大いに期待したい。
最後になるが、研究の場における優れた論考が多くみられた今回の応募業績の中にあって、選考に漏れたものの、地質時代から歴史時代の変遷を考古学的あるいは埋蔵文化財的に扱い、地域のビッグヒストリーにチャレンジした業績は、新鮮かつ重要に感じるものであった。フィールド・ワークや現場での啓発や普及活動をベースとした業績も、盛んになることを期待したい。
なお、論文賞に関しては今回初めて邦文誌・英文誌ともに該当なしとなった。会員には奮って機関紙への投稿をお願いしたい。
2020年5月20日発行 116p ISSN 1340-8488 ISBN 978-4-642-09398-9
論 文 | 髙倉 純 | 峠下型細石刃核再考 |
---|---|---|
論 文 | 萩原博文 | 西北九州と大隅半島北部の晩氷期堆積土と遺物―気候変動とスクレーパー類 |
研究ノート | 関根達人 | 近世武家の儒葬―『庚申喪事記』の検討を中心に |
遺跡報告 | 遠部 慎・小林謙一・奈良貴史・米田 穣・及川 穣 | 愛媛県上黒岩第2岩陰遺跡の調査 |
書評 | 吉田泰幸 | 長井謙治編『ジョウモン・アート-芸術の力で縄文を伝える』 |
書評 | 諫早直人・ライアン=ジョセフ | Mark E. Byington・佐々木憲一・Martin T.Bale 編Early Korea-Japan Interactions |
書評 | 市川 彰 | 嘉幡 茂著『テオティワカン「神々の都」の誕生と衰退』 |
〈住所変更のお手続きについて〉
お引越し等で住所が変更となった際には、お早めに住所変更の手続きをお願いします。住所変更のお手続きをされていない場合、刊行物をお届けできなかったり、お届けまでに日数がかかるなど、ご不便をおかけする場合がございます。
お手続きは、奥付の日本考古学協会連絡先(〒132-0035 東京都江戸川区平井5-15-5-4階FAX:03-3618-6625)または、公式サイトお問い合わせフォームなどで、お名前とこれまでのご住所ならびに変更後のご住所、電話番号をお知らせ下さい。また、勤務先が変更になった場合にも、あわせてお知らせ頂けますと幸いです。
北教文発第 90 号
令和2年1月27日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦 様
北本市長 三 宮 幸 雄
北本市教育委員会教育長 清 水 隆
埼玉県北本市デーノタメ遺跡の保存についての要望書(回答)
一般社団法人日本考古学協会の皆様におかれましては、昭和 23 年の設立以来、 日本考古学の発展と文化財の保護と活用に御尽力されておりますことに、心から敬意を表する次第です。
このたび令和 2 年 1 月 10 日、近藤英夫副会長様をはじめ、埋蔵文化財保護対
策委員会の小笠原永隆事務長様、松本富雄幹事様には、本市にお越しいただいた際に貴重な御意見を賜り、誠にありがとうございました。
デーノタメ遺跡は、縄文時代中期から後期の大規模集落が良好に遺存するとともに、集落が利用していた低地遺跡が隣接することから、当時の環境変化や植物資源利用の実態にかかわる多様な情報を残している遺跡です。
要望書では、こうした本遺跡の特色について全国的に見ても稀有な遺跡であるとの評価をいただき、デーノタメ遺跡が極めて重要な遺跡であるとの認識を 新たにしたところでございます。
御要望につきましては、下記のとおり回答いたします。
記
1 現在、本遺跡を国指定史跡とするため、遺跡内に計画されている土地区画整理事業、都 市計画道路の進捗状況を精査し、これら既存の計画と遺跡の共存に向けた方策について慎重に検討を進めており、早期に方針を定められるように努めてまいります。
2 遺跡の北西に広がる低地遺跡は、本遺跡にとって重要なエリアと理解しておりますので、今後も泥炭層の広がりを明らかにする調査を計画的に継続してまいります。
3 遺跡の重要性と魅力を市民、県民に広く発信し、本遺跡を住民の共有財産として地域づくりに活かせるよう、その仕組みづくりに努めてまいります。
今後とも、市民をはじめとする関係機関の御意見、御要望に傾聴しながら、地域の歴史資源を活かし、魅力的で住みよいまちづくりを進めていく所存でございます。貴協会には御理解と御協力を賜りますようお願い申し上げますとともに、デーノタメ遺跡の保存と活用について、御指導を賜りますよう重ねて願い申し上げます。
埋文委 第12号
2020年1月10日
文化庁長官 宮田 亮平 様
埼玉県知事 大野 元裕 様
埼玉県教育委員会教育長 小松 弥生 様
北本市長 三宮 幸雄 様
北本市教育委員会教育長 清水 隆 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦
埼玉県北本市デーノタメ遺跡の保存に係る要望について
標記の件について、別添書類の如く、当該地は学術上極めて重要な内容をもつものでありますので、貴殿におかれましては、包蔵された埋蔵文化財について、適切な取り扱いをしていただくことを要望いたします。
なお、まことに恐縮ですが、当件の具体的な措置、対策については2020年1月24日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。
記
一、別添書類 一通
以上
埋文委 第12号
2020年1月10日
文化庁長官 宮田 亮平 様
埼玉県知事 大野 元裕 様
埼玉県教育委員会教育長 小松 弥生 様
北本市長 三宮 幸雄 様
北本市教育委員会教育長 清水 隆 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦
埼玉県北本市デーノタメ遺跡の保存についての要望書
埼玉県北本市に所在するデーノタメ遺跡は、2000年度から実施された発掘調査と内容確認調査の結果、縄文時代中期から後期の大規模集落であることがわかりました。隣接する低湿地の利活用の様相も知ることができ、日本列島の縄文時代を解明
するうえできわめて重要な遺跡であると言えます。先日刊行された『デーノタメ遺跡総括報告書』によれば、縄文時代中期後半から後期前半にかけて約1,200年間継続した大規模集落があり、その北西側に広がる低地部に堆積した同時期の自然環境を伝える良好な土壌堆積がみられるとともに、朱塗土器や漆製品(腕輪・糸)などの遺物、トチの実のアク抜きのための施設やクルミ殻などの食糧残滓の捨て場跡などの遺構、さらに食用植物種子や木材などの植物遺体が多く検出されています。すなわち、当時の人々の生活環境、さらには生活を復元するための貴重な情報が、集落跡とともに豊富に残されています。
また、こうした貴重な情報を有する遺跡の全体が、ほぼ手つかずの状態で維持されていることも、全国的に見て稀有な例ということができます。以上のことから、一般社団法人日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、以下のような措置が講じられることを強く要望します。
記
1 デーノタメ遺跡の史跡化に向けた計画を立案し、速やかに実行すること
2 デーノタメ遺跡の北西側低湿地の遺構・遺物の分布状況を把握し、遺跡の範囲を拡張すること
3 デーノタメ遺跡を住民共有財産として、地域づくりに係る活動等に活用する計画を策定し、実践すること
以上
埋文委 第12号
2020年1月10日
文化庁
長官 宮 田 亮 平 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦
埼玉県北本市デーノタメ遺跡の保存に係る要望について
標記の件について、別添書類の如く、当該地は学術上極めて重要な内容をもつものでありますので、貴殿におかれましては、包蔵された埋蔵文化財について、適切な取り扱いをしていただくことを要望いたします。
なお、まことに恐縮ですが、当件の具体的な措置、対策については2020年1月24日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。
記
一、別添書類 一通
以上
埋文委 第12号
2020年1月10日
文化庁
長官 宮 田 亮 平 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 藤 沢 敦
埼玉県北本市デーノタメ遺跡の保存についての要望書
埼玉県北本市に所在するデーノタメ遺跡は、2000年度から実施された発掘調査と内容確認調査の結果、縄文時代中期から後期の大規模集落であることがわかりました。隣接する低湿地の利活用の様相も知ることができ、日本列島の縄文時代を解明するうえできわめて重要な遺跡であると言えます。先日刊行された『デーノタメ遺跡総括報告書』によれば、縄文時代中期後半から後期前半にかけて約1,200年間継続した大規模集落があり、その北西側に広がる低地部に堆積した同時期の自然環境を伝える良好な土壌堆積がみられるとともに、朱塗土器や漆製品(腕輪・糸)などの遺物、トチの実のアク抜きのための施設やクル
ミ殻などの食糧残滓の捨て場跡などの遺構、さらに食用植物種子や木材などの植物遺体が多く検出されています。すなわち、当時の人々の生活環境、さらには生活を復元するための貴重な情報が、集落跡とともに豊富に残されています。
また、こうした貴重な情報を有する遺跡の全体が、ほぼ手つかずの状態で維持されていることも、全国的に見て稀有な例ということができます。以上のことから、一般社団法人日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、以下のような措置が講じられることを強く要望します。
記
1 デーノタメ遺跡の史跡化に向けた計画を立案し、速やかに実行すること
2 デーノタメ遺跡の北西側低湿地の遺構・遺物の分布状況を把握し、遺跡の範囲を拡張すること
3 デーノタメ遺跡を住民共有財産として、地域づくりに係る活動等に活用する計画を策定し、実践すること
以上
2019年10月15日発行 138p ISSN 1340-8488 ISBN 978-4-642-09397-2
論 文 | 前田仁暉 | 横槌・掛矢の機能論―近畿地域の原始・古代を中心に |
---|---|---|
論 文 | ライアン・ジョセフ | 古墳出現期における刀剣類の生産と流通の二相―吉備地域を中心に |
論 文 | 辰巳俊輔 | 八角墳造営年代論―墳丘表面の使用石材に着目して |
研究ノート | 西本志保子 | 南西関東における縄紋中期連弧文土器―文様割付からの検討 |
研究ノート | 土屋隆史 | 古墳時代における鉄鋌の技術系譜―朝鮮半島東南部出土鉄鋌との比較を中心に |
遺跡報告 | 原 雅信・桜岡正信・小島敦子 | 群馬県渋川市金井下新田遺跡の発掘調査概要 |
遺跡報告 | 今村結記 | 鹿児島県大島郡久慈白糖工場跡の発掘調査成果 |
研究動向 | 谷川章雄 | 博物館展示と考古学研究―国立歴史民俗博物館第1室(先史・古代)のリニューアルについて |
書 評 | 馬場伸一郎 | 森 貴教著『石器の生産・消費からみた弥生社会』 |
埋蔵文化財保護行政における後継者育成の現状と課題(提言に向けて)(2019.10)
第11回協会賞選考委員会を2021年3月14日(日)にオンライン型式で開催した。協会賞大賞・奨励賞についてであるが、本年度はコロナ禍にもかかわらず、昨年度より多い10件の応募があり、活動が困難な状況下にあっても会員が研究に切磋琢磨している様子を垣間見ることができた。
応募の対象となった業績についてみていくと、地域的には日本を主たる対象としたもの9件、中央アメリカが1件と日本考古学に集中している感がある。日本考古学の時代別では、縄文時代1件、農耕開始期から弥生時代2件、弥生時代から古代1件、古墳時代3件、古代・中世2件であった。この中では、古墳時代の金属器や須恵器の生産・生産体制にかかわる業績が3件と際立っていた。また、新しい研究手法に挑戦した研究が2件あった。縄文時代と農耕開始期の考古科学・分析考古学的研究であり、今回の応募業績における研究分野・手法の特徴といえるだろう。
応募者の年齢層を見ると、20歳代が1名、30歳代が2名、40歳代が4名、50歳代1名、60歳代2名であった。研究と教育ないし文化財行政・実践に活躍している中堅層の応募が多く、将来に向けても頼もしい構成であった。
今回、大賞と奨励賞の候補とした業績には、先に述べたように考古科学的・分析考古学研究が2件ある。両業績は膨大な考古資料を対象に、新しい自然科学的な分析手法を開発して自ら実践し、考古学的な課題を解決するという共通した研究の進め方をしている。特別な機械類や知識が必要で、考古学研究としては一般化できないのではという危惧があるかもしれないが、「考古学」はその成り立ちにおいても自然科学的な研究を内包していたのは明らかであり、候補者両人の考古資料に対する大変な努力と真摯な姿勢、明確な考古学的課題の設定は、それが考古学研究そのものであることを明らかにしている。今後も発展していく分野と考える。
もう1件の奨励賞候補は、今回の応募に特徴的だった古墳時代の金属器や須恵器の生産・生産体制にかかわる業績3件のうちの1件である。3件とも技術的な分析だけでなく緻密で論理的な研究であったが、その中から特に論理的な展開に優れており、今後の研究に資することの期待できる業績を奨励賞の候補に選んだ。その結果、奨励賞候補が2件になったことは、今回の応募業績がとりわけ優れていたことを示していると理解してほしい。
なお、邦文誌の優秀論文賞に関しては、『日本考古学』編集委員会の推薦により1件の受賞候補を決めたが、英文誌の優秀論文賞についてはJJA編集委員会からの推薦がなく、候補の該当なしとなった。会員には奮って機関紙への論文投稿をお願いしたい。