日考協 第102号
2015年2月2日
文部科学省文部科学大臣 下 村 博 文 様
中央教育審議会会長 安 西 祐一郎 様
一般社団法人日本考古学協会
会 長 高 倉 洋 彰
小学校学習指導要領の改訂に対する要望書
人類の発生とその後の進化・発展に関しては、近年の研究成果から現生人類は10~7万年前にアフリカ大陸を出て何世代もかけて世界各地へと拡散し、それぞれの地域に根ざした独自の文化を形成してきました。現在の知見では日本列島に人類が出現するのは遅くとも4~3万年前と考えられていますが、日本列島における人類の出現を学ぶことは国際理解の重要性を認識することにもつながります。
我が国の旧石器時代の遺跡は、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以後、全国で1万ヶ所を超える発見と調査例があり、日本列島における人類の歴史が世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。旧石器時代から始まる歴史を物語る考古資料は、日本列島全域に普遍的に存在し、全国の子どもたちが文字などの記録だけでは知ることのできない人々の生活や各地域の多様な歴史と文化をより具体的に学習する上で、欠くことのできない貴重な資料です。また身近な地域に残された遺跡・遺物に触れる体験的学習は、子どもたちの知的好奇心を刺激し、現在の生活につながるものとして歴史の理解を促し、先人に対する畏敬の念や生命の尊厳などを学ぶ上でも重要な意味をもちます。「小学校学習指導要領」に示された「狩猟・採集の生活」の学習内容は、縄文時代に限定されていますが、日本列島の人類史の始まりである旧石器時代を抜きにして、子どもたちを教育基本法、学校教育法にある「伝統と文化を尊重」し「我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導く」ことは困難です。
「小学校学習指導要領」では、小学校第6学年の歴史学習における対象が「我が国の歴史」にとどまり、教育基本法、学校教育法の「我が国の郷土」に示された身近な「郷土」の表記が欠落しています。これは、「小学校学習指導要領」の指導計画の作成と内容の取扱いにおける「博物館や郷土資料館等の施設の活用を図ると共に、身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り入れるようにすること」の内容にも矛盾してます。
日本列島において最初に確認できる旧石器時代の歴史は、研究の進展にもかかわらず、これまで学習の基本となる教科書の記述や、第6学年で活用する年表にも表記されないまま今日に至っています。旧石器時代の歴史を明確に位置づけることは、日本の歴史を始めから教えない不自然さを解消し、地球規模での人類の営みとその関係を考える国際的な視野を育むことにもつながります。そして、これまでの地道な研究によって明らかにされてきた旧石器時代の研究成果を歴史学習に反映させることは、「我が国の郷土の歴史」を正しくとらえ、理解する大切な一歩となると考えます。
以上のことから、日本考古学協会は、学習指導要領の改訂にあたり、歴史教育に考古学の成果が適切に活かされるよう、以下の点について強く要望します。
記
1.日本列島全域に普遍的に存在する考古資料を充分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ態度を養うこと。
2.人類の発生から始まる歴史を明確に位置づけ、世界的な視野から人類の歩みを考える視点を育むこと。
以上
埋文委 第6号
2015年1月28日
文化庁長官 青 柳 正 規 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢 島 國 雄
鎌倉市円覚寺西側結界遺構の保存に関する要望書の送付について
標記の件について、別添書類のように、当該遺構は学術上きわめて重要な内容を有する
ものでありますので、神奈川県および鎌倉市に対して、別添書類のとおり、遺構の保存等
に係る対策を早急に講じるよう要望いたしました。
つきましては、貴殿におかれましても、当該遺構の保存等に関してご協力をいただきま
すようよろしくお願いいたします。
記
一、別 添 書 類 一通
以上
埋文委 第6号
2015年1月28日
神奈川県知事 黒 岩 祐 治 様
神奈川県教育委員会教育長 桐 谷 次 郎 様
鎌倉市長 松 尾 崇 様
鎌倉市教育委員会教育長 安良岡 靖史 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢 島 國 雄
鎌倉市円覚寺西側結界遺構の保存に関する要望について
標記の件について、別添書類のように、当該遺構は学術上きわめて重要な内容を有する
ものでありますので、貴殿において、遺構の保存等に係る対策を早急に講ぜられることを
要望いたします。
なお、当件に関する具体的な措置については、2015年2月13日(金)までに、当協会埋
蔵文化財保護対策委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。
記
一、別 添 書 類 一通
以上
埋文委 第6号
2015 年1月 28 日
神奈川県知事 黒 岩 祐 治 様
神奈川県教育委員会 教育長 桐 谷 次 郎 様
鎌倉市長 松 尾 崇 様
鎌倉市教育委員会教育長 安良岡 靖史 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢 島 國 雄
鎌倉市円覚寺西側結界遺構の保存に関する要望書
標記の遺構は、JR横須賀線北鎌倉駅下り線ホームの中ほどに、北側の丘陵から突き出た岩塊です。小さな洞門の開けられた岩塊は、北鎌倉の風景によく溶け込み、近隣住民のみならず観光客にも鎌倉の入口の象徴的存在として永く親しまれてきました。しかし、この岩塊の意義は何よりその歴史性にあります。線路に切断されているとはいえ、本岩塊は鎌倉を代表する寺院の一つ円覚寺の寺域範囲を示す西側結界として、「円覚寺境内絵図」中に描かれているものであり、同寺創建以前には鎌倉幕府三代執権北条泰時がおこなった「四角四境鬼気祭」という境界祭祀の隣接地でもあります。さらにさかのぼれば源氏の先祖により、平安時代後期以来、鎌倉の北の境界とされてきた可能性の高いものです。まさしくこれは中世鎌倉の景観を今に伝える歴史的遺産であり、世界遺産再登録をあらためて目指す鎌倉市にとっても、将来、「武家の都」の資産として有効な活用が望めるものです。ところが、現在、鎌倉市都市整備部は崩落の危険性があるとして、これを完全に削り取ってコンクリートの擁壁に変える計画を進めています。住環境の安全性の確保は何より優先されなければなりませんが、遺構の歴史的意義を無視した今回の計画については撤回を求めざるを得ません。かつて鎌倉市内に数千基もあったやぐらは、次々に削り取られてコンクリートの擁壁となり、気がつくとその多くが失われていました。このことが世界遺産不登録の一因となったのは明らかです。今また、町角に残る貴重な中世の風景が失われようとしています。遺跡は一度失われると二度と元には戻りません。1,000 年近く前から生き続けてきた遺跡が、この工事によって失われようとしています。市長および都市整備部におかれては、この計画の無謀さをぜひ認識していただきたく、賢明なご判断をお願いするしだいです。以上のことから、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、文化財保護の観点によりこの事態を深く憂慮し、下記のとおり鎌倉市当局に工事計画の撤回を求めます。
記
1.結界遺構の削平計画をいったん白紙に戻し、その上であらためて歴史遺産の保全と安全性の確保という双方に配慮した新たな措置を検討すること。
以上
考古学研究における後継者育成の現状ー大学アンケートの結果からー
歴史教科書を考える 第13号
2015.5.24 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
2014.11.8 東京学芸大学・日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
第2回シンポジウム「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」
東京学芸大学芸術館ホール
パネルディスカッション登壇者:岡内三眞・大塚初重・加藤章・坂井俊樹・大下明・
小野昭・近藤英夫・佐藤誠 司会:大竹幸恵・日高慎
シンポジウムの趣旨
日本考古学協会・社会科・歴史教科書等検討委員会では、2006年以降、考古学研究の成果が小・中学校の歴史教育において十分に活用されるよう、その基礎となる歴史教科書の内容や、教科書の内容を大きく左右する学習指導要領の分析を行ってきました。また、その実態と課題についてテーマセッションやポスターセッションの場を通じて公開し、文部科学省をはじめとして具体的な提言と共に改善に向けての要望を伝えてまいりました。
2008年の学習指導要領改訂において、歴史学習のはじまりが「狩猟・採集や農耕の生活」と改められ、小学校の歴史教科書にそれまで記載のなかった縄文時代の記述が復活したことは大きく評価されます。しかし、『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活を営んだ日本列島における人類史のはじまりについての説明がありません。そのため旧石器時代について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていないという状況にあります。
こうした状況を改善するためにも、学習指導要領と教科書の記述との対応関係を客観的に分析し、今年5月に開催された日本考古学協会第80回総会では、「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」と題しテーマセッション・ポスターセッションを開催いたしました。その目的とするところは、1)日本考古学協会の設立の経緯から、戦後歴史教育における考古学の社会的責任と役割を考え、2)義務教育段階の社会科歴史教科書の分析結果から、歴史教育における現状と課題を整理し、日本考古学協会として取り組むべき課題を明確にすることにありました。そして、2006年に提出した学習指導要領の改訂に対する提言が、2008年の小学校学習指導要領の改訂を見る限り、その目標を達成していないことから、あらためて文部科学省に次期学習指導要領の改訂に対する声明文を提出いたしました。
こうした活動の一環として、本シンポジウムは5月に開催したテーマセッションと同じテーマとなりますが、戦後の義務教育段階における歴史学習の目的と考古学の果たす役割を確認し、教育学の立場からのご意見を伺いながら考えていきたいと思います。そして将来、日本の教育現場の最前線に立つ若い世代の皆さんからも広く意見を求めながら、活発な議論を重ねていきたいと考えております。
大塚初重氏報告「日本考古学界の歩みと歴史教育」
歴史教科書を考える上で欠くことができないのは、1947年にはじまった登呂遺跡の発掘であり、それは敗戦の日本に勇気を与えるものであった。日本国全体で登呂の発掘を見守っていた。1948年には日本考古学協会が発足し、登呂遺跡特別委員会がつくられた。その後、現在まで考古学は多くの成果を生んできたが、教科書に対して積極的な働きかけを怠ってきたと思われる。考古学は学問と教育との橋渡しをもっと積極的におこなう必要がある。
加藤章氏報告「戦後の学習指導要領における歴史教育・社会科教育の変遷」
戦後の教育改革の中でも、GHQによる修身・国史・地理の授業停止の後に生まれた新しい社会科は大きな波紋を呼んだ。子どもの側に立つ総合的な問題解決学習は小学校においては定着したが、中学校では新しいアメリカ的社会科と伝統的国史(日本史)教育との関連性をめぐり学習指導要領は悩みつつ改訂を重ねた。1956年改訂を機に3分野制となり日本的社会科歴史としての内容充実とともに、系統主義の傾向を強め現在に及んでいる。
坂井俊樹氏報告「社会科歴史教育と『学ぶ側』の視点」
第一回のシンポで発言したことは今でも変化していない。日本の歴史の出発点(土台)として考古学の果たす役割は重要であるということから、いわば国民国家史補強ための主張に絡め捕られていく面があるとしたら、いささか疑問を感じると述べた。旧石器、新石器時代の学習は、その後の歴史時代とは大きく様相を違えている面がある。素朴だが地球環境に対応した暮らし、人々の国境や領域を超える交流などがあった。これらの事例を通して考えることだと思う。ところで学校では多様な感性や異なる環境にある子ども達が学んでいる。このことは、反面ではさまざまな教育問題を生み出す結果となっている。苦慮している教師の例が実に多い。価値観や生活意識、家庭の状況など多様化された子ども達に向き合うには、歴史教育(縄文・弥生など)が、子ども達にとって意味あるものでなければならない。その点で、今日の考古学の最新の研究成果に学び、子ども達一人ひとりが意味を見出せる歴史教育を考えたいと思う。
大下明氏報告「小・中学校教科書と学習指導要領の分析からみた考古学の役割」
2002年に小学校の歴史教科書から旧石器・縄文時代の記述がなくなったことを受けて、本委員会が発足した。その後の活動の流れをふり返り、考古学が歴史教育に担う役割と問題点を整理する。さらに、現行の学習指導要領の下で、2012年度には縄文時代の記述が復活したものの、依然として旧石器時代の記述がほとんどない現状がある。つまり、子ども達には日本列島に人類がいつから存在していたのか知る機会が与えられていないということである。日本という国が成立する以前の「人類史のはじまり」を無視しては正しい歴史認識は育たないという視点に立って、旧石器時代の記述を復活させる意義について考えたい。
パネルディスカッション
パネルディスカッションにおいて、登壇した佐藤誠氏より、学習指導要領についての基本的な内容が以下のように解説された。学習指導要領は学校教育における指導内容の基準であり、小・中・高等学校の教科書で、考古学の成果が取り上げられるためには、学習指導要領に該当する文言が表記される必要があるとされた。同じく登壇した小野昭氏より、子ども達に何を学んでもらいたいかをはっきりさせることが重要であり、旧石器時代は私たちと種Speciesが異なる人類もいた時代である。日本史・外国史の枠組みはあまり意味がなく、人類史がキーワードであり、どのようにして日本列島に人類が住むようになったのかを説明するべきである。人類学の近年の成果を含めて、縄文時代と旧石器時代の共通性と差異を大事にすることや、対象とする旧石器時代の世界(国境がない)と研究・教育する側が帰属する国民国家日本との峻別を、骨身にしみて叩き込んでおくことが特に必要で、帰属する国民国家の枠組みを対象的世界に外延してはならないことが指摘された。同じく登壇した近藤英夫氏より、国際的視野から日本の教科書を考えると、旧石器時代は現代史に通じるものがある。例えば国境線の問題を扱うならば、日本列島と大陸が地続きであったことは重要な視点になるはずであり、現在の国境線の意味を考えることができる。ジオラマや地図・年表を大いに活用するべきであり、世界史的視野から日本列島の旧石器時代の記述ができるようになるだろう。東アジアの一員としての日本あるいは日本列島という説明が可能になるとの指摘がなされた。
小学校段階における教科書に旧石器時代が載っていないということに対して、大塚氏からは「もどかしい」という感想が述べられた。それは、全国の博物館に行けばどこでも旧石器時代の資料が並んでいる。一般社会の人びとは旧石器時代のことを知っているのではなかろうか。それに対して小学校の教科書に載っていないという格差はどうなのだろうか。小野氏からは、復活させるためのキーワードは人類史であるという意見が出された。
会場の黒尾和久氏からは、現生人類のアフリカ単一起源説、ホモサピエンスの出アフリカのことについて図を示しながら説明がなされた。小学校段階において、人類は一つであり、私たちは見た目ほど違わない、という親近感をもつことが大切だという指摘がなされた。
現在の小学校教科書に旧石器時代の記述はほとんどない。それは旧石器捏造問題や、学校の授業時間が少なくなるなど多様な面が影響している。しかし、小学校段階で旧石器時代を教えるということは、それぞれの地域の歴史を知る第一歩となりうるものであり、学習指導要領の述べることにも沿っている。我々考古学を学んでいる者が、まずは現状を認識し、声を上げていることが肝要である。小学校段階で人類史という視点を教えることは、現代社会の有り様を考えていく上でも極めて重要である。今後も活動を継続していく必要があることを再認識するに至った。
アンケート「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」集計結果
2014年11月8日・シンポジウム会場で実施
①学習指導要領をご覧になって、気づいたことや感想などをお書きください。
・歴史とは何かという視点がまったくない。
・人間の歴史をまず考えないといけない。
・学習指導要領解説の内容についてもっと踏み込むべき。
・古代が他分野に比べて大幅に簡略化されている。
➁各社の教科書を比較して、気づいたことや感想などをお書きください。
・どこからやってきて、どのように現代の人に繋がったのかという視点や言語についてまったく語られていない。
・各社に特色があることを認識した。
・人類進化に各社で大きな違いがある。
③小学校における歴史学習では、遺跡や文化財、資料などを活用して調べたりする学習が求められています。この視点から小学校の教科書をご覧になって、気づいたことや感想などをお書きください。
・先生に対するサポート体制(教育委員会・博物館・資料館など)が必要。
・コラムなどに埋蔵文化財センターや博物館のことが出ていると教員・児童ともに活用しやすいと思われる。
・教科書に載っていない旧石器を博物館で見たら混乱するのではないか。
④中学校における歴史学習では、身近な地域の歴史を調べる活動を通して、地域への関心を高めることなどが求められています。この視点から小学校の教科書をご覧になって、気づいたことや感想などをお書きください。
・身近な地域の歴史の学習は小学校の方がよいのではないか。
第2回シンポジウムについて
⑤基調報告について、ご意見をお願い致します。
・考古学と教育を結びつけて考えることがこれまであまりなかったので、勉強になった。
・共感できる内容で、考古学の役割についても参考になりました。
・旧石器時代の著名な遺跡がある県では副読本などがあるのでしょうか。そのような副読本にも注意を払っていく必要がある。
⑥パネルディスカッションについて、ご意見をお願い致します。
・それぞれの立場からの意見が聞けてよかった。
・問題意識と課題について明確になったと感じる。
⑦シンポジウム全体を通しての感想、また当委員会へのご意見やご要望がありましたら、お書きください。
・教科書に少しでも書かれていればそれを膨らませて語ることができるということですから、教科書の記述をすることと、先生方が子どもたちに伝えたくなるような研究を考古学はしてかなくてはならない。
・小学校・中学校・高校での一貫した内容記述を考えるべき。
・参加者が少ないのが残念だった。
・旧石器や縄文時代を削ったのは、日本の国家の歴史として捉えさせることになり、アジアの視点で捉えるという考えに逆行し、誤った先入観を持つことにもなるのではないか。中学校の教科書についても分析を進めてほしい。
・小学校と中学校で歴史学習の方法が異なり、小学校では人物を中心にしていることから旧石器時代が扱われないのでは。
・文科省の意図を探る必要もあると思う。
⑧回答者
・大学教員(神奈川50代) ・学生(東京都20代)・一般(東京都70代)・中学校教員(東京都30代)
日考協 第 号
2014年5月17日
文部科学大臣 下 村 博 文 様
中央教育審議会会長 安 西 祐一郎 様
一般社団法人 日本考古学協会
会 長 田中 良之
学習指導要領の改訂に対する声明の送付について
当協会の事業・活動に対し、つねづね御理解と御支援をいただき感謝いたしております。
さて、一般社団法人日本考古学協会では、本年5月17日、日本大学文理学部キャンパスで開催された第80回総会において、別紙の声明を発表いたしましたので、送付させていただきます。
当協会は、今後とも社会科・歴史教科書等に関する取り組みを継続し、改善に向けての協力を惜しまない所存です。
意のあるところおくみとりのうえ、よろしくご高配賜りますようお願い申し上げます。
記
一、別 添 書 類 一通
以上
小学校学習指導要領案の改訂に対する声明
一般社団法人日本考古学協会(以下、日本考古学協会)は、1998年の小学校学習指導要領改訂によって、第6学年の歴史教科書から旧石器・縄文時代が削除され、歴史学習が弥生時代からはじまるという不自然な教育がおこなわれていることに対して、繰り返し改善要望を提示してきました。2008年の改訂において、歴史学習のはじまりが「狩猟・採集や農耕の生活」と改められ、小学校の歴史教科書に縄文時代の記述が復活したことは大きく評価されます。
しかし、『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていないという状況にあります。
旧石器時代の研究については、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以降、全国で1万ヶ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積があります。そして、半世紀を越える研究によって、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。我が国の歴史を学ぶ上で、旧石器時代からはじまる歴史の推移と長く厳しい環境を克服してきた先人の営みが教科書の記述で取り扱われない現状は、学問の成果を教育に活かすという考えに逆行するものです。
また旧石器時代の人々の生活・文化は、世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、次第に日本列島独自の地域性を形成してきたことも明らかにされています。これまでも中学校の社会科(歴史的分野)においては、世界史的視野で人類の出現と旧石器時代の生活・文化について扱っていますが、歴史を最初に学ぶ小学校段階で旧石器時代について学習することで、小・中・高等学校の学習内容の連続性を意識した学習が進み、「伝統と文化の尊重、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与」するとした教育基本法の理念を具現化するものと考えます。
私たちは、人々の生活や社会の営みをより具体的に復元することのできる考古学の成果が歴史教育に活用されるよう、今後ともこの問題への取り組みを継続し、改善に向けての協力を惜しまない所存です。考古学を通じて、子ども達が我が国の歴史や先人の知恵を学び、よりよい未来に向けて逞しく育ってくれることを願ってやみません。
日本考古学協会は、次期の小学校学習指導要領改訂に際し、小学校第6学年の歴史学習に旧石器時代の取り扱いを明確に位置付けた改訂を強く望みます。
以上、日本考古学協会の名において、ここに声明する。
2014年5月17日
一般社団法人日本考古学協会第80回総会
日考協 第102号
2015年2月2日
文部科学省文部科学大臣 下 村 博 文 様
中央教育審議会会長 安 西 祐一郎 様
一般社団法人日本考古学協会
会 長 高 倉 洋 彰
小学校学習指導要領の改訂に対する要望書
人類の発生とその後の進化・発展に関しては、近年の研究成果から現生人類は10~7万年前にアフリカ大陸を出て何世代もかけて世界各地へと拡散し、それぞれの地域に根ざした独自の文化を形成してきました。現在の知見では日本列島に人類が出現するのは遅くとも4~3万年前と考えられていますが、日本列島における人類の出現を学ぶことは国際理解の重要性を認識することにもつながります。
我が国の旧石器時代の遺跡は、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以後、全国で1万ヶ所を超える発見と調査例があり、日本列島における人類の歴史が世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。旧石器時代から始まる歴史を物語る考古資料は、日本列島全域に普遍的に存在し、全国の子どもたちが文字などの記録だけでは知ることのできない人々の生活や各地域の多様な歴史と文化をより具体的に学習する上で、欠くことのできない貴重な資料です。また身近な地域に残された遺跡・遺物に触れる体験的学習は、子どもたちの知的好奇心を刺激し、現在の生活につながるものとして歴史の理解を促し、先人に対する畏敬の念や生命の尊厳などを学ぶ上でも重要な意味をもちます。「小学校学習指導要領」に示された「狩猟・採集の生活」の学習内容は、縄文時代に限定されていますが、日本列島の人類史の始まりである旧石器時代を抜きにして、子どもたちを教育基本法、学校教育法にある「伝統と文化を尊重」し「我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導く」ことは困難です。
「小学校学習指導要領」では、小学校第6学年の歴史学習における対象が「我が国の歴史」にとどまり、教育基本法、学校教育法の「我が国の郷土」に示された身近な「郷土」の表記が欠落しています。これは、「小学校学習指導要領」の指導計画の作成と内容の取扱いにおける「博物館や郷土資料館等の施設の活用を図ると共に、身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り入れるようにすること」の内容にも矛盾してます。
日本列島において最初に確認できる旧石器時代の歴史は、研究の進展にもかかわらず、これまで学習の基本となる教科書の記述や、第6学年で活用する年表にも表記されないまま今日に至っています。旧石器時代の歴史を明確に位置づけることは、日本の歴史を始めから教えない不自然さを解消し、地球規模での人類の営みとその関係を考える国際的な視野を育むことにもつながります。そして、これまでの地道な研究によって明らかにされてきた旧石器時代の研究成果を歴史学習に反映させることは、「我が国の郷土の歴史」を正しくとらえ、理解する大切な一歩となると考えます。
以上のことから、日本考古学協会は、学習指導要領の改訂にあたり、歴史教育に考古学の成果が適切に活かされるよう、以下の点について強く要望します。
記
1.日本列島全域に普遍的に存在する考古資料を充分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ態度を養うこと。
2.人類の発生から始まる歴史を明確に位置づけ、世界的な視野から人類の歩みを考える視点を育むこと。
以上
日考協 第102号
2015年2月2日
文部科学省文部科学大臣 下 村 博 文 様
中央教育審議会会長 安 西 祐一郎 様
一般社団法人日本考古学協会
会 長 高 倉 洋 彰
小学校学習指導要領の改訂に対する改正案
私たちは要望書の主旨に従って「小学校学習指導要領」(以下、「指導要領」とする)の部分的な改正を次のように求めます。
1)要望事項「1.日本列島全域に普遍的に存在する考古資料を充分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ態度を養うこと」に関わる箇所の改正案。
ⅰ.「指導要領(第2節 社会 第2 各学年の目標および内容(第6学年)1目標(1))…p.38
(1)国家・社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について興味・関心と理解を深めるようにするとともに、我が国と郷土の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てるようにする。
…下線部を追加する。
理由:教育基本法、学校教育法の「我が国と郷土」に示された身近な「郷土」の表記が欠落しているため。
ⅱ.第2節 第2 各学年の目標及び内容(第6学年)3内容の取扱い(1) …p.40
オ アからケまでについては、例えば、世界文化遺産、国宝、重要文化財などの我が国の代表的な文化遺産とともに、地域に残る遺跡や文化財を積極的に活用し、歴史を身近なものとして学習できるように配慮すること。
…下線部を修正。
理由:「小学校学習指導要領」の指導計画の作成と内容の取扱いにおける「博物館や郷土資料館等の施設の活用を図ると共に、身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り入れるようにすること」の内容を実現することが容易になる。
2)要望事項「2.人類の発生から始まる歴史を埋書くに位置づけ、世界的な視野から人類の歩みを考える視点を育むこと」に関わる箇所の改正案。
ⅰ.第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年)2内容(1) …p.39
ア 人類の始まり、狩猟・採集や農耕の生活、古墳について調べ、大和朝廷による国土の統一の様子が分かること。
…下線部を追加する。
理由:現生人類は10~7万年前にアフリカ大陸を出て何世代もかけて世界各地へと拡散し、4~3万年前には日本列島に人類が出現すると考えられているが、日本列島における人類の出現を学ぶことは国際理解の重要性を認識することにもつながる。
ⅱ.学習指導要領 社会編 2内容(1) …p.75
ア 「狩猟・採集や農耕の生活」について調べるとは、例えば、貝塚や集落跡などの遺跡、石器・土器などの遺物を
…下線部を追加する。
理由:今日に連なる基本的な道具の機能や種類は、旧石器時代の技術によって生み出され発達してきたものであり、これまでの調査・研究からは、当時の環境や狩りの様子、そして、集団の姿や黒曜石に代表されるように生活に必要な物資の流通やその社会の仕組みについても、当時の様子が具体的に、かつ、いきいきと解明されている。
以 上
埋文委 第5号
2014年10月28日
文化庁長官 青柳 正規 様
千葉県知事 森田 健作 様
千葉県教育長 瀧本 寛 様
船橋市長 松戸 徹 様
船橋市教育長 松本 文化 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢島 國雄
船橋市海老ヶ作貝塚の保存に関する要望について
標記の件について、別添書類の如く、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容をもつものでありますので、貴殿において、保存に関する対策を早急に講ぜられることを要望いたします。
なお、当件の具体的な措置および対策については11月7日(金)までに、ご回答を下さるようお願いいたします。
記
一、別添書類 一通
以上
埋文委 第5号
2014年10月28日
文化庁長官 青柳 正規 様
千葉県知事 森田 健作 様
千葉県教育長 瀧本 寛 様
船橋市長 松戸 徹 様
船橋市教育長 松本 文化 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢島 國雄
船橋市海老ヶ作貝塚の保存に関する要望書
千葉県船橋市大穴南に所在する海老ヶ作貝塚は、縄文時代中期の大規模な点列環状貝塚及び集落跡として知られている遺跡です。都市化の著しい船橋市内でも、貝層及び遺構の遺存が良好に認められる稀有の遺跡ですが、先日より、未調査のまま開発に伴う大規模な破壊行為が確認され、その保全が一刻を争う緊急課題となっております。
本貝塚を含む東京湾岸地域は、大規模な環状及び点列環状貝塚が多数分布し、一大貝塚地帯を形成しており、船橋市内においても地域の歴史的個性の柱になっております。直径約120mの規模を有する大形点列環状貝塚である海老ヶ作貝塚は、ほぼ同時期の高根木戸貝塚とともに船橋市内における東京湾岸域の貝塚地帯を構成する主要な貝塚であり、本地域の歴史的特性を理解する上では考古学上極めて重要な遺跡と評価できます。
さらに、本貝塚は印旛沼水系に属していながらも、貝塚を構成する貝は東京湾岸で採取されたものであり、遺跡立地と漁労の場が異なる等、縄文時代の社会的関係を捉える上で、その研究上欠くべからざる遺跡であります。
このように、海老ヶ作貝塚は、日本の考古学研究にとって重要であるばかりではなく、この地域の歴史を紐解く上でかけがえのない遺跡と判断されます。これにより、当該地域に対する周到な調査と景観の保全が、早急に求められる必要があります。
以上のことから日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、国民的遺産である遺跡の有効な保護・活用の観点から、下記の通り要望いたします。
記
開発による破壊行為を即時停止させ、遺跡に対する適切な保存措置を講じること。
遺跡の保存方法について、関係者と再度協議し合意を図ること。
現状保存が不可避の場合は、開発に伴う事前調査を適正かつ十分に実施すること。
以上
海老ヶ作貝塚の事案に関しては、埋蔵文化財保護上、重大な問題を含んでいるので関係機関からの回答も同時に掲載します。
船教文第883号
平成26年11月6日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢島國雄 様
船橋市教育委員会
教育長 松本文化
船橋市海老ヶ作貝塚の保存に関する要望について
霜秋の候、貴団体におかれましては益々ご清祥のことと、お慶び申し上げます。
2014年10月28日付け埋文委第5号にて、一般社団法人日本考古学協会 埋蔵文化財保護対策委員会 矢島國雄委員長からの要望につきまして、下記のとおり回答いたします。
記
船橋市海老ヶ作貝塚は市内で残された、縄文時代の唯一の貝塚を伴う大型環状集落跡であり、学術的にも極めて重要と認識するところです。
平成26年5・6月に実施した海老ヶ作貝塚(4)確認調査の結果、当該地の遺跡の遺存状態が良好であることを確認できましたが、事業者から本調査への費用負担を拒否されました。このような事態に対し、下記のとおり本市は対応してまいりました。
○ 船橋市教育委員会の取り組んだ保存措置について
前述のとおり記録保存が困難となった状況で、市としては海老ヶ作貝塚の重要性を鑑み、土地を取得して現状保存すべく努めました。
[買取り交渉等についての経緯]
・ 平成26年6~7月 発掘調査実施について協議するが、協力拒否。
・ 平成26年8月 遺跡の取り扱いに関して政策会議にて審議。
・ 平成26年8~9月 買取り交渉を実施し、一時妥結するも買取りを拒否されたため、協議不調となる。
・ 平成26年10月16日 工事着工
以上のように、市教育委員会として出来得る手段は、尽くしたと考えます。
今後共貴団体におかれましては、埋蔵文化財保護に対しましてご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。
埋文委 第5号
2014年10月28日
文化庁長官 青柳 正規 様
千葉県知事 森田 健作 様
千葉県教育長 瀧本 寛 様
船橋市長 松戸 徹 様
船橋市教育長 松本 文化 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢島 國雄
船橋市海老ヶ作貝塚の保存に関する要望について
標記の件について、別添書類の如く、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容をもつものでありますので、貴殿において、保存に関する対策を早急に講ぜられることを要望いたします。
なお、当件の具体的な措置および対策については11月7日(金)までに、ご回答を下さるようお願いいたします。
記
一、別添書類 一通
以上
埋文委 第5号
2014年10月28日
文化庁長官 青柳 正規 様
千葉県知事 森田 健作 様
千葉県教育長 瀧本 寛 様
船橋市長 松戸 徹 様
船橋市教育長 松本 文化 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢島 國雄
船橋市海老ヶ作貝塚の保存に関する要望書
千葉県船橋市大穴南に所在する海老ヶ作貝塚は、縄文時代中期の大規模な点列環状貝塚及び集落跡として知られている遺跡です。都市化の著しい船橋市内でも、貝層及び遺構の遺存が良好に認められる稀有の遺跡ですが、先日より、未調査のまま開発に伴う大規模な破壊行為が確認され、その保全が一刻を争う緊急課題となっております。
本貝塚を含む東京湾岸地域は、大規模な環状及び点列環状貝塚が多数分布し、一大貝塚地帯を形成しており、船橋市内においても地域の歴史的個性の柱になっております。直径約120mの規模を有する大形点列環状貝塚である海老ヶ作貝塚は、ほぼ同時期の高根木戸貝塚とともに船橋市内における東京湾岸域の貝塚地帯を構成する主要な貝塚であり、本地域の歴史的特性を理解する上では考古学上極めて重要な遺跡と評価できます。
さらに、本貝塚は印旛沼水系に属していながらも、貝塚を構成する貝は東京湾岸で採取されたものであり、遺跡立地と漁労の場が異なる等、縄文時代の社会的関係を捉える上で、その研究上欠くべからざる遺跡であります。
このように、海老ヶ作貝塚は、日本の考古学研究にとって重要であるばかりではなく、この地域の歴史を紐解く上でかけがえのない遺跡と判断されます。これにより、当該地域に対する周到な調査と景観の保全が、早急に求められる必要があります。
以上のことから日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、国民的遺産である遺跡の有効な保護・活用の観点から、下記の通り要望いたします。
記
開発による破壊行為を即時停止させ、遺跡に対する適切な保存措置を講じること。
遺跡の保存方法について、関係者と再度協議し合意を図ること。
現状保存が不可避の場合は、開発に伴う事前調査を適正かつ十分に実施すること。
以上
海老ヶ作貝塚の事案に関しては、埋蔵文化財保護上、重大な問題を含んでいるので関係機関からの回答も同時に掲載します。
船教文第883号
平成26年11月6日
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 矢島國雄 様
船橋市教育委員会
教育長 松本文化
船橋市海老ヶ作貝塚の保存に関する要望について
霜秋の候、貴団体におかれましては益々ご清祥のことと、お慶び申し上げます。
2014年10月28日付け埋文委第5号にて、一般社団法人日本考古学協会 埋蔵文化財保護対策委員会 矢島國雄委員長からの要望につきまして、下記のとおり回答いたします。
記
船橋市海老ヶ作貝塚は市内で残された、縄文時代の唯一の貝塚を伴う大型環状集落跡であり、学術的にも極めて重要と認識するところです。
平成26年5・6月に実施した海老ヶ作貝塚(4)確認調査の結果、当該地の遺跡の遺存状態が良好であることを確認できましたが、事業者から本調査への費用負担を拒否されました。このような事態に対し、下記のとおり本市は対応してまいりました。
○ 船橋市教育委員会の取り組んだ保存措置について
前述のとおり記録保存が困難となった状況で、市としては海老ヶ作貝塚の重要性を鑑み、土地を取得して現状保存すべく努めました。
[買取り交渉等についての経緯]
・ 平成26年6~7月 発掘調査実施について協議するが、協力拒否。
・ 平成26年8月 遺跡の取り扱いに関して政策会議にて審議。
・ 平成26年8~9月 買取り交渉を実施し、一時妥結するも買取りを拒否されたため、協議不調となる。
・ 平成26年10月16日 工事着工
以上のように、市教育委員会として出来得る手段は、尽くしたと考えます。
今後共貴団体におかれましては、埋蔵文化財保護に対しましてご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。
歴史教科書を考える 第12号
2014.11.8 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
2014.5.18 日本考古学協会第80回総会 テーマセッション
小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割
―日本列島における旧石器時代の取り扱いについて考える―
パネルディスカッション登壇者:大塚初重・大下明・小野昭・近藤英夫・佐藤誠
司会:大竹幸恵・岡内三眞
大塚初重氏講演「日本考古学協会の歩みと歴史教育」
歴史教科書を考える上で欠くことができないのは、1947年にはじまった登呂遺跡の発掘であり、それは敗戦の日本に勇気を与えるものであった。日本国全体で登呂の発掘を見守っていた。1948年には日本考古学協会が発足し、登呂遺跡特別委員会がつくられた。その後、現在まで考古学は多くの成果を生んできたが、教科書に対して積極的な働きかけを怠ってきたと思われる。考古学は学問と教育との橋渡しをもっと積極的におこなう必要がある。
大下明氏報告「義務教育における社会科(歴史)教科書の現状と課題」
まず、2008年までの学習指導要領と本委員会活動の流れとして、2002年の小学校教科書に旧石器時代・縄文時代の記述がなくなった点が改めて説明された。次に現在の小学校教科書の問題点として、2012年度には縄文時代が復活したものの、旧石器時代の記述がほとんどないことから、日本列島に人類がいつから存在していたのか知る機会がなく、さらに旧石器時代を復活させる意義とは、日本という国が成立する以前、人類史のはじまりを無視しては、正しい歴史認識は育たないはずとの指摘がなされた。
パネルディスカッション
大塚初重氏の講演、大下明氏の報告を受け、パネルディスカッションがおこなわれた。まず、大塚氏から相沢忠洋氏による岩宿遺跡の発見とその顛末が語られ、学界に認められるようになるまでの経緯が説明された。大下氏からは、著名な旧石器時代の遺跡がある群馬県や長野県はもとより、日本全国の小学校では8割の子どもたちは旧石器時代が載っていない教科書を使っている現状が説明された。佐藤氏からは、学習指導要領は学校教育における指導内容の基準を示しており、そのため、小・中・高等学校の教科書で、考古学の成果が取り上げられるためには、学習指導要領に該当する文言が表記される必要があること、学習指導要領の意味や内容とともに作成の過程を理解し、これに基づいて教科書が編集され、学校教育において使用されるようになるまでの経過などについて解説がなされた。
次に今回の総会において、小学校の教科書に旧石器時代を復活させるための声明文を出した経緯が説明された。小野氏からは、子どもたちに何を学ばせたいかということが重要であること、旧石器時代とは我々とは違う人類も存在した時代であること、さらに日本史や外国史という枠組みはあまり意味がなく、人類の起源というキーワードが必要となること、どのようにして日本列島に人類が住むようになったのかということを説明するべきであること、人類学の近年の成果を含めて、縄文時代と旧石器時代との共通する部分と異なっている部分を大事にしたいということが指摘された。近藤氏からは、国際的視野から日本の教科書を考えると、旧石器時代は現代史に通じるものがあり、例えば国境線の問題を扱うならば、日本列島と大陸が地続きであったことは重要な視点になるはずであり、現在の国境線の意味を考えられること、ジオラマや地図・年表を大いに活用するべきであり、世界史的視野から日本列島の旧石器時代の記述ができるようになり、東アジアの一員としての日本あるいは日本列島という説明が可能になるという指摘がなされた。
会場からは、博物館との協業を積極的に進めることで、体験しながら教えることは可能である点が指摘された。また、大下氏からは東アジアの中の日本、国のない時代の日本という視点も重要であり、人類の歴史の中では、国家がない時代のほうが長いことを説明しなければならないことが指摘された。大塚氏からは、考古学の成果や隣接諸学との連携の結果や評価をいかに教科書に反映させるのかということを真剣に考えなければならないとの総括がなされた。
最後に田中良之会長から、高校の教育における近現代史のみを教えることの弊害、文部科学省に働きかける必要性、日本考古学協会としての公式見解(教科書)をつくるということも目標にするべきとの意見が述べられた。
アンケート「子ども達の歴史学習を考える」集計結果(2014年5月18日・ポスターセッション会場で実施)
①小学校5社の教科書についての感想
・単純な説明のみで、興味・関心を持たせることは難しい。
・時代のとらえ方が大雑把すぎる。単に「原始的であった(原始・古代については)」というとらえ方がされてしまうのではないか。
・教科書と博物館等とをリンクさせ旧石器時代も含めて(博物館等を)利用しやすいように内容を教えた方が良い。
・時間配当もあるのだろうが、旧石器・縄文・弥生時代の記述(頁)は少ない。
・大観して特色を捉えさせる目標だというが、大観すらできていないように思う。また、旧石器時代の扱いに差がありすぎる。あたかも、旧石器時代がなかったかのように取り扱っている。
・地域の歴史との関連から離れているように思う。
②中学校7社の教科書についての感想
・何が時代の特色なのかわかりづらい。
・3~2万年前にナウマンゾウを追って日本列島にヒトが来たかのような記述や、洞窟生活が一般的であったかのような記述(旧石器時代について)は、実際とはかけ離れており驚く。
・より深い内容を踏まえて、内容を教えるべき。
・この時代の人々がどう生きたか、どのように生きたのかを考えさせる必要がある。
・旧石器時代については、おおまかな概要は捉えられているのではないか。具体性に欠けるが、特色も全体的によく捉えられている。
・王権の成立に関する記述にさかれる時間が多いようだ(国の考えかと思うが)。
③上記①②を踏まえ小中学校の学習指導要領あるいは教科書を比較しての感想等
・なぜ歴史を学ぶのかという目的意識が作り手側に無いように思う。
・日本考古学の成果を教科書に反映させるべき。教科書会社は学習指導要領に縛られることなく柔軟な対応をとってほしい。
・児童・生徒には暗記ではなく考えさせる時間を多くとれるとよい。
・旧石器~弥生時代も大切であるが、戦国時代以降現代にいたるまでも重要である。
・小学校では縄文時代から教え、中学校では旧石器時代から教えるのでは、歴史の勉強としての一貫性がない。
④高校の歴史学習が「世界史」と「日本史」に分かれ「世界史」が必修となっていることについて
・「世界史」と「日本史」を必修にすべき。他 同意見3 ・日本史こそ必修にすべき。
・国際化のためということであろうが、国際化に求められるのは自国の歴史の理解であるべき。
・「世界史」必修は、文部科学省への働きかけがあったと聞いている。
・「日本史」を知らないで「世界史」を理解するのは難しいと思う。自国の歴史を知らずして他国は理解できない。
⑤日本の教育制度下で、歴史を「世界史」と「日本史」に分けて学習することについて
・分けて学習すること自体は問題ない。 ・「世界史」「日本史」「地理」の相互関連が必要。
・教科書の中で「日本史」のできごとと世界がどのように関連しているのかという記述が足りない。
・旧石器時代以降の日本列島の歴史をきちんと学習した上で、自国の歴史を核にして、外の世界に興味を広げていけるような歴史教育が必要ではないか。
・「世界史」学習において「日本史」を、「日本史」学習において「世界史」を絶えず関連させながら学習すべき。
・「歴史基礎」のように従来の「世界史」と「日本史」を分けた教え方を見直すのは必要なこと。また、世界の中の日本という視点が少し欠けているのではないかと思う。
⑥ポスター・テーマセッションについての感想や社会科・歴史教科書検討委員会への要望や意見(その他も含め)
・日本考古学協会の方と、一般の考古学・歴史学に興味ある人たちとの交流や意見交換が必要(後者の立場より)。
・我々の用いている用語についても見直す必要があるのでは。
・東アジアの一員であるという視点で旧石器時代研究の成果を活用することが重要ではないか。また、最初に「国」ありきという話もショックだった。
・社会科教員の質も問題とされるべき。岩宿を「いわやど」と読んだ教員がいた。考古学の成果は社会科教員にも認識されていない。
・本日、ここで話し合われた内容は、単に「旧石器時代」の扱いについての問題ではなく考古学で扱う文字のない時代全般にかかわるのではないかと思う。研究を深めるのは大切であるが、それと同時に「成果の発信の仕方」を工夫する必要がある。
・「日本」について反感を抱かせるような教育はいかがと思う。
・「旧石器時代」とは、いったいどのような時代なのか。
⑦回答者
・会社員(神奈川20代) ・博物館勤務(40代)・財団職員(埼玉県60代)・学生(20代)・(埼玉県50代)・会社員(東京都40代)
東京学芸大学・日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
第2回シンポジウム
小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割
開催日時: 2014年11月8日(土) 13:00~18:20
会 場 : 東京学芸大学 芸術館ホール
主 催 : 東京学芸大学・日本考古学協会
後 援 : 日本歴史学協会・辟雍会・日本旧石器学会
参加条件: 自由参加・参加費無料
シンポジウムの趣旨
日本考古学協会・社会科・歴史教科書等検討委員会では、2006年以降、考古学研究の成果が小・中学校の歴史教育において十分に活用されるよう、その基礎となる歴史教科書の内容や、教科書の内容を大きく左右する学習指導要領の分析を行ってきました。また、その実態と課題についてテーマセッションやポスターセッションの場を通じて公開し、文部科学省をはじめとして具体的な提言と共に改善に向けての要望を伝えてまいりました。
2008年の学習指導要領改訂において、歴史学習のはじまりが「狩猟・採集や農耕の生活」と改められ、小学校の歴史教科書にそれまで記載のなかった縄文時代の記述が復活したことは大きく評価されます。しかし、『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活を営んだ日本列島における人類史のはじまりについての説明がありません。そのため旧石器時代について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていないという状況にあります。
こうした状況を改善するためにも、学習指導要領と教科書の記述との対応関係を客観的に分析し、今年5月に開催された日本考古学協会第80回総会では、「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」と題しテーマセッション・ポスターセッションを開催いたしました。その目的とするところは、1)日本考古学協会の設立の経緯から、戦後歴史教育における考古学の社会的責任と役割を考え、2)義務教育段階の社会科歴史教科書の分析結果から、歴史教育における現状と課題を整理し、日本考古学協会として取り組むべき課題を明確にすることにありました。そして、2006年に提出した学習指導要領の改訂に対する提言が、2008年の小学校学習指導要領の改訂を見る限り、その目標を達成していないことから、あらためて文部科学省に次期学習指導要領の改訂に対する声明文を提出いたしました。
こうした活動の一環として、本シンポジウムは5月に開催したテーマセッションと同じテーマとなりますが、戦後の義務教育段階における歴史学習の目的と考古学の果たす役割を確認し、教育学の立場からのご意見を伺いながら考えていきたいと思います。そして将来、日本の教育現場の最前線に立つ若い世代の皆さんからも広く意見を求めながら、活発な議論を重ねていきたいと考えております。
プログラム
総合司会 日高 慎(東京学芸大学准教授)
■ 開会の挨拶 13:00~13:10
長谷川 正(東京学芸大学副学長)
髙倉洋彰(日本考古学協会会長)
■ 趣旨説明 13:10~13:15
岡内三眞(日本考古学協会社会科・歴史教科書等検討委員会委員長・早稲田大学名誉教授)
■ 基調報告 13:15~16:05
Ⅰ 日本考古学界の歩みと歴史教育 大塚初重(明治大学名誉教授)
13:15~13:55
Ⅱ 戦後の学習指導要領における歴史教育・社会科教育の変遷 加藤 章(元盛岡大学学長)
13:55~14:35
― 休憩:10分 ―
Ⅲ 社会科歴史教育と『学ぶ側』の視点 坂井俊樹(東京学芸大学教授)
14:45~15:25
Ⅳ 小・中学校教科書と学習指導要領の分析からみた考古学の役割 大下 明(雲雀丘学園中学校
15:25~16:05 高等学校教諭)
― 休憩:10分 ―
■ パネルディスカッション 16:15~18:00
「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」
司 会 :大竹幸恵・日高 慎(社会科・歴史教科書等検討委員会)
パネラー : 岡内三眞・大塚初重・加藤 章・坂井俊樹・大下 明・小野 昭(明治大学黒曜石研究センター長・日本旧石器学会前会長)・近藤英夫(東海大学特任教授)・佐藤 誠(茨城県立古河第一高等学校)
※質疑・応答 18:00~18:15
■ 閉会の挨拶 佐々木和博(社会科・歴史教科書等検討委員会副委員長) ~18:20
交通案内
東京学芸大学 東京都小金井市貫井北町4-1-1
JR中央線「武蔵小金井駅」下車、北口側京王バス「小平団地行き」 学芸大正門下車
JR中央線「国分寺駅」下車、徒歩20分
※車でのご来校はご遠慮ください
お問い合わせ
一般社団法人 日本考古学協会 東京都江戸川区平井5-15-5 平井駅前共同ビル4階
電話:03-3618-6608
歴史教科書を考える 第11号
2014.5.18 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
テーマ 「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割り」
~日本列鳥における旧石器時代の取り扱いについて考える~
期日:2014年5月18日(日)14:00~16:55
会場:日本大学文理学部キャンパス(東京都世田谷区桜上水3-25-40)
第6会場:3号館4階3407教室
総合司会 :釼持輝久・宮原俊一(教科書委員会)
開会の挨拶・趣旨説明 14:00 佐々木和博(教科書委員会副委員長)
基調講演 14:05-14:35 (30分)
「日本考古学協会の歩みと歴史教育」 大塚初重氏(明治大学名誉教授)
・戦後の登呂遺跡発掘を契機として発足した日本考古学協会の歩みから、歴史教育における考古学の果たす役割を考える。
基調報告 14: 40-14: 55 (15分)
「義務教育における社会科歴史教育の現状と課題」大下 明(教科書委員会)
・教科書の記述と学習指導要領について、これまでの委員会活動による分析の結果から現状と課題を報告。
パネルディスカッション 15 : 05-16 : 50
司 会 :岡内三眞・大竹幸恵 (教科書委員会)
パネラー:大塚初重(明治大学名誉教授)、小野昭(日本旧石器学会会長)
近藤英夫・佐藤 誠・大下明(教科書委員会)
1) 戦後の歴史教育と考古学の役割り
2) 学習指導要領と教科書における課題の所在
3) 旧石時代の取り扱いについて
4) これからの歴史教育における考古学の課題
閉会の挨拶 16: 50 渡辺誠(教科書委員会委員長)
現行小学校6年生社会科教科書の出版社別採択地区数一覧表 (平成23~26年度)
※旧石器時代の記述を全く含まない2社(東書・教出)の地区別採択率は、約77%
| 採択地区数 | 東京書籍 | 教育出版 | 光村図書 | 日本文教A | 日本文教B |
東書601・2 | 教出603・4 | 光村605 | 日文607・8 | 日文609 | ||
北海道 | 24 | 2 | 22 | 0 | 0 | 0 |
青森県 | 8 | 8 | 0 | 0 | 0 | 0 |
岩手県 | 9 | 9 | 0 | 0 | 0 | 0 |
秋田県 | 9 | 6 | 3 | 0 | 0 | 0 |
宮城県 | 8 | 8 | 0 | 0 | 0 | 0 |
山形県 | 9 | 9 | 0 | 0 | 0 | 0 |
福島県 | 10 | 10 | 0 | 0 | 0 | 0 |
東京都 | 54 | 25 | 25 | 2 | 0 | 2 |
神奈川県 | 27 | 4 | 19 | 4 | 0 | 0 |
埼玉県 | 19 | 18 | 1 | 0 | 0 | 0 |
千葉県 | 15 | 13 | 1 | 0 | 1 | 0 |
栃木県 | 14 | 4 | 0 | 0 | 10 | 0 |
群馬県 | 9 | 7 | 0 | 0 | 2 | 0 |
茨城県 | 11 | 10 | 1 | 0 | 0 | 0 |
山梨県 | 6 | 0 | 6 | 0 | 0 | 0 |
新潟県 | 12 | 11 | 1 | 0 | 0 | 0 |
長野県 | 14 | 12 | 0 | 2 | 0 | 0 |
富山県 | 8 | 6 | 2 | 0 | 0 | 0 |
石川県 | 8 | 5 | 0 | 0 | 3 | 0 |
福井県 | 5 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 |
愛知県 | 9 | 6 | 0 | 0 | 0 | 3 |
岐阜県 | 6 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 |
静岡県 | 11 | 4 | 4 | 0 | 0 | 0 |
三重県 | 10 | 0 | 1 | 0 | 0 | 9 |
大阪府 | 45 | 9 | 11 | 1 | 0 | 24 |
兵庫県 | 17 | 7 | 3 | 0 | 0 | 7 |
京都府 | 7 | 5 | 0 | 0 | 0 | 2 |
滋賀県 | 6 | 4 | 0 | 0 | 0 | 2 |
奈良県 | 18 | 3 | 0 | 0 | 0 | 15 |
和歌山県 | 8 | 0 | 0 | 1 | 0 | 7 |
鳥取県 | 3 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 |
島根県 | 5 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 |
岡山県 | 7 | 1 | 0 | 0 | 0 | 6 |
広島県 | 21 | 9 | 1 | 0 | 1 | 10 |
山口県 | 15 | 10 | 1 | 0 | 0 | 4 |
徳島県 | 11 | 4 | 7 | 0 | 0 | 0 |
香川県 | 7 | 7 | 0 | 0 | 0 | 0 |
愛媛県 | 16 | 16 | 0 | 0 | 0 | 0 |
高知県 | 8 | 2 | 4 | 0 | 0 | 2 |
福岡県 | 16 | 2 | 11 | 0 | 0 | 3 |
佐賀県 | 5 | 3 | 0 | 0 | 2 | 0 |
長崎県 | 12 | 5 | 4 | 0 | 0 | 3 |
熊本県 | 11 | 5 | 4 | 0 | 1 | 0 |
大分県 | 11 | 1 | 3 | 2 | 0 | 5 |
宮崎県 | 7 | 7 | 0 | 0 | 0 | 0 |
鹿児島県 | 12 | 7 | 5 | 0 | 0 | 0 |
沖縄県 | 6 | 1 | 6 | 0 | 0 | 0 |
合計 | 589 | 304 | 150 | 12 | 20 | 104 |
※(株)学書HPと各都道府県教委・教科書会社のデータをクロスチェックして作成
小学校学習指導要領の改訂に対する声明
日本考古学協会は、1998年の小学校学習指導要領改訂によって、第6学年の歴史教科書から旧石器・縄文時代が削除され、歴史学習が弥生時代からはじまるという不自然な教育がおこなわれていることに対して、繰り返し改善要望を提示してきました。2008年の改訂において、歴史学習のはじまりが「狩猟・採集や農耕の生活」と改められ、小学校の歴史教科書に縄文時代の記述が復活したことは大きく評価されます。
しかし、『小学校学習指導要領解説社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活を営んだ日本における人類史のはじまりについての説明がありません。そのため旧石器時代について、本文で明確に位置づけられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていないという状況にあります。
旧石器時代の研究については、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以降、全国で1万ヶ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積があります。そして、半世紀を超える研究によって、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。我が国の歴史を学ぶ上で、旧石器時代からはじまる歴史の推移と長く厳しい環境を克服してきた先人の営みが教科書の記述で取り扱われない現状は、学問の成果を教育に活かすという考えに逆行するものです。
また、旧石器時代の人々の生活・文化は、世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、次第に日本列島独自の地城性を形成してきたことも明らかにされています。これまでも中学校の社会科(歴史的分野)においては、世界史的視野で人類の出現と旧石器時代の生活・文化について扱っていますが、歴史を最初に学ぶ小学校段階で旧石器時代について学習することで、小・中・高等学校の学習内容の連続性を意識した学習が進み、「伝統と文化の尊重、それらをはぐくんできた我が国と郷士を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与」するとした教育基本法の理念を具現化するものと考えます。
私たちは、人々の生活や社会の営みをより具体的に復元することのできる考古学の成果が歴史教育に活用されるよう、今後ともこの問題への取り組みを継続し、改善に向けての協力を惜しまない所存です。考古学を通じて、子ども達がわが国の歴史や先人の知恵を学び、よりよい未来に向けて逞しく育ってくれることを願ってやみません。
日本考古学協会は、次期の小学校学習指導要領改訂に際し、小学校第6学年の歴史学習に旧石器時代の取り扱いを明確に位置付けた改訂を強く望みます。
以上、日本考古学協会総会の名において、ここに声明する。
2014年5月17日
一般社団法人日本考古学協会第80回総会
学習指導要領と教科書について
1 学習指導要領の法的根拠(上法優先の原則)
学校教育は、教職員の勤務から教育活動まで、法に基づいて行われている。
日本国憲法 26条
↓
法律 教育基本法(平成18年改正)
(法令) ・教育の根本的な理念や原則
学校教育法一部改正
↓ ・「教育課程に関する事項」
・教科に関する事項(教育課程※)
省令 学校教育法施行規則
(法令) ・「教育課程の編成」
↓
告示 学習指導要領の告示
・教育課程の基準(すべての子どもに対して指導すぺき内容の基準(基準性))
・小・中・高校などで教えるべき標準的な学習内容を示している
・昭和22年に最初の試案が発表されて以来、約1 0年ごとに改訂
※ 教育課程・・・学校が策定する指導計画(学校が編成し、実施する)
授業は教育課程を実施すること(授業は公権力の行使)
2 学習指導要領のできるまで
H15.5 中央教育審議会 現行学習指導要領の検証
H17.2 文部科学大臣 教育課程の基準見直しを指示
H17.4 第1回中央教育審議会(~39回)小・中・高校部会(11回)教科部会(89回)
H18.2 審議経過報告
Hl9. 1 「第3期教育課程部会の審議の状況について」をまとめる
H19.11 教育課程部会におけるこれまでの「審議のまとめ」公表
関係団体からのヒアリング並びに国民の意見募集(パプリックコメント)
H20.3 告示(高校はH2l.3)
H23.4 小学校学習指導要領実施
H24.4 中学校学習指導要領実施
H25.4 高等学校学習指導要領実施
3 学習指導要領の基本的な考え方
〇改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂
学校教育法第30条2項
「(前略)生涯にわたり学習する基盤が培われるよう,基礎的な知識及び技能を習得させるとともに,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いなければならない。」
基礎礎的な知識及び技能 →技能、知識・理解
課題を解決するために必要な思考カ・判断カ・表現力 →思考・判断・表現
主体的に学習に取り組む態度 →関心・意欲・態度
4 教育内容の主な改善事項(社会科に関わる事項を抜粋)
〇 言語活動の充実
・社会的な事柄について,資料を読み取って解釈し,考えたことについて根拠を示しながら説明したり自分の意見をまとめた上で,お互いに意見交換をしたりする活動を行う。
〇 伝統・文化に関する教育の充実
・世界文化遺産や国宝などの文化遺産を取り上げる歴史学習(小学校6年)
・身近な地域の歴史や各時代の文化の学習(中学校・歴史分野)
5 教科書の使用について
〇 教育課程の実施上、教科書の使用は義務
〇 教科書の種類
・文部科学省著作教科書
・文部科学省検定済教科書(民間出版社による著作・編集)80%以上
〇 教科書の選定・採択の周期(4年毎に改訂の機会)
年度 学校種別等 | H21 2009 | H22 2010 | H23 2011 | H24 2012 | H25 2013 | H26 2014 | H27 2015 | ||
小学校 | 検 定 | ◎ | ◎ | ||||||
採 択 | △ | △ | |||||||
使用開始 | 〇 | 〇 | |||||||
中学校
| 検 定 | ◎ | ◎ | ||||||
採 択 | △ | △ | △ | ||||||
使用開始 | 〇 | 〇 | |||||||
高 等 学 校
| 主として 低学年用
| 検 定 | ◎ | ◎ | ◎ | ||||
採 択 | △ | △ | |||||||
使用開始 | 〇 | 〇 | |||||||
主として 中学年用 | 検 定 | ◎ | ◎ | ||||||
採 択 | △ | △ | |||||||
使用開始 | 〇 | 〇 | |||||||
主として 高学年用 | 検 定 | ◎ | ◎ | ||||||
採 択 | △ | △ | |||||||
使用開始 | 〇 | 〇 | 〇 |
◎:検定年度
△:前年度の検定で合格した教科書の初めての採択が行われる年度
〇:使用開始年度(小・中学校は原則として4年ごと、高校は毎年採択替え)
〇教科書が使用されるまで(文部科学省HPより一部改編)
1年目(4月~3月)・・・1 編集 教科書発行者
2年目(4月~3月)・・・2 検定 文部科学大臣
3年目(4月~3月)・・・3 採択 所管の教育委員会等
4 発行 教科書発行者
4年目(4月~3月)・・・5 使用 児童生徒
歴史教科書を考える 第10号
2014.5.18 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
社会科・歴史教科書問題(学習指導要領と教科書)、および委員会活動(声明等)の経過
1、1989年(平成元年)、1998年(平成10年の学習指導要領改訂)
①内容の改訂
1977(昭和57年)「我が国において漁撈や農耕が始まったころの人々の生活」及び大和朝廷による国土の統一の様子~」
↓
1989(平成元年)「遺跡や遺物などを調べて、農耕が始まると人々の生活や社会の様子が変わったことや、大和朝廷による国土の統一の様子」
↓
1998(平成10年)「農耕の始まり、古墳について調べ、大和朝廷による国土の統一~」
②内容の取扱いについての改訂
1998(平成10年)「学習指導要領に示された事項にとどめ、網羅的に取り上げないようにすること」が追記され、取り扱う時代が弥生時代に限定される」
③授業時間の改訂
社会科歴史の授業時間数:1977年に140➡105時間、1998年に105➡100時間と削減
学習指導要領は世情の推移に伴いほぼ10年周期で改訂されるが、「ゆとり教育」をはじめとする「新教育課程」の導入によって授業時間数と内容が大幅に削減されることとなった。小学校6年生の歴史に関する授業時間は、昭和56年より105時間に、そして、平成10年にはさらに100時間とされ、その結果、学習指導要領に基づいて編集される教科書の内容も、特に、考古学に大きな関わりのある分野の記述が「弥生時代」からはじまるものが一般的になり、それ以前の「旧石器・縄文時代」についてはコラムの範囲でわずかに紹介するか、全く触れられていない教科書も登場する。また、歴史学習が始まる小学校6年生は、時間の推移や学んだことを整理するために年表を作る学習が組み込まれているが、多くの教科書では、年表からも縄文時代が消えている。
2、学習指導要領改訂の背景と教育現場の対応(委員会分析)
①歴史教育の前提として、「くに」の成り立ちを学ばせたいという国際的な指針があり、「生きる力」を謳う半面、生活史に対する認識が弱い。
②網羅的・詰め込み式の教育を改善するとして、「ゆとり教育」「総合的で横断的な学習」が打ち出される。教科書の本文から消えた縄文時代の学習は、博物館の利用や体験学習など、この「ゆとり教育」「総合的で横断的な学習」の教材として効果を発揮し、子ども達に歴史学習の魅力を伝える契機ともなったが、半面、歴史教育の過程に位置づけられないため、学習の本来の意味を理解させることが不十分で、「丸投げ」式の授業の在り方も問題とされた。
③授業時間数の削減に伴い、学習内容も削減されたという相関関係が一般的な理解であるが、実際には、1989年(平成元年)の学習指導要領から、「神話・伝承」「歴史上の人物」の取り扱いが強調され、1998年(平成10年)の学習指導要領では、さらに詳細に示されていることから、教科書の内容としてその内容が増えており、一概に削減とのみはいえない。
④ねつ造問題によって、旧石器時代が取り扱われなくなったと解する人も多いが、旧石器時代については、の小学校の教科書に登場するのはコラムのみであり、もとより正式な扱いはされていない。また、ねつ造の発覚は、学習指導要領の改訂後である。
★2006年「学習指導要領の改訂に対する声明」 提出(文部科学大臣・中央教育審議会会長宛)
骨子:旧石器・縄文時代の取り扱いと、「続縄文・後期貝塚文化」に見られる地域性の取り扱いを求める声明を提出。
(声明文抜粋)
現行の歴史教科書から内容が削除された旧石蕃・縄文時代の歴史は、世界やアジアのなかにおける日本列島の地域性と、南北に連なる列島内部において複雑で多様な自然環境とその恵みのなかで育まれた極めて特徴的な地域文化を生み出したのである。それは、列島文化の基底をなすものでもあり、弥生時代に農耕を始めたことの意味を正しく理解するためには、この先行する原始時代における社会のしくみや生活の様子を明らかにしておく必要がある。また、日本列島は、一律に稲作社会へと移り変わったわけではない。“稲作から国土の統一へ’'で始まる歴史教科書は、本州の弥生文化とは異なり、稲作が行われずに、それぞれ「続縄文文化」と「後期貝塚文化」と呼ばれる独自の文化を発展させた東北北部から北溝道、そして、沖縄を含む南西諸島地域の歴史を無視したものであることも危惧される。
3、2008年(平成20年)の学習指導要領改定
①内容の改訂
「農耕のはじまり、古墳時代について調べ、大和朝廷による国土の統一~」
↓
「狩猟・採集や農耕の生活, 古墳について調べ,大和朝廷による国土の統一~」
②授業時間の改訂
社会科歴史の授業時間数100時間➡105時間
③『小学校学習指導要領解説』2内容の表記
「「狩猟・採集や農耕の生活」について調べるとは、例えば、貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物を取り上げて調べ、日本列島では長い期間、豊かな自然の中で狩猟や採集の生活が営まれていたことが分かるようにする~」
2008年(平成20年)の学習指導要領の改訂では、学力低下の学力低下の問題を受けて全体に授業時間数の増加がみられ、また、「道徳」や「国際化」を受けて取り扱う内容の改訂が認められる。小学校6学年の社会科歴史では、「狩現・採集」の取り扱いが復活したことにより、鹸科書にも「縄文時代」の記述が本文中や年表に登場するようになるが、検定において記可された5社の教科書を比較すると内容の格差が大きく、「旧石器」については依然としてコラムの範囲でわずかに紹介するに留まっている。
学習指導要領に記載されている「狩猟・採集」は、旧石器時代と縄文時代の両方を対象とできる表記であるが、同じく、文部科学省によって発行されている解説書の中で、具体的な事例として貝塚といった縄文時代の内容が謳われていることと、旧石器時代の学習の位置づけがなされていないため、教科書での正式な取り扱いがなされないままになっている。このことは、旧石器時代の取り扱いが登場する中学校段階での歴史学習において、列島の歴史と世界の動きとを繋げて理解する学習においても不自然な取り扱いとなっており、国際化や学問の成果を活かした教育に相反する現状となっている。
★2008年「新学習指導賽鯛の改訂に対するバプリックコメント」提出(文部科学大臣宛)
★2008年「学詈指導賽鯛の改訂に対する声明」 提出(文部科学大臣・中央教育審議会会長宛)
骨子:「郷土」「旧石器時代」の取扱いを明確に追配する夏望を提出。
(要望書抜粋)
1、列島全域に普遍的に存在する考古学賣料を十分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ姿勢を尊重すること。
(修正案例文)
第2節社会第2 各学年の目標及び内容(第6学年) 1目標(1) …P30
(1) 国家・社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について興昧•関心と理解を深めるようにするとともに,我が国と郷土の歴史や伝統を大切にし,国を愛する心情を育てるようにする。…下練部追加
第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年)3内容(2)…P31
(1) 我が国の歴史上の主な事象について,人物の働きや代表的な文化遺産を中心に遺跡や文化財,資料などを活用して調べ,歴史を学ぶ意味を考えるようにするとともに,自分たちの生活の歴史的背景,我が国と郷土の歴史や先人の働きについて理解と関心を深めるようにする。…下線部追加
第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年) 3内容の取り扱い(1)…P33
オ アからケまでについては.例えば,世界文化遺産、国宝、重要文化財に指定されている我が国の代表的な文化遺産とともに、各地域に残る遺跡や文化財を積極的に活用し、歴史を身近なものとして楽しく学習できるように配慮すること。…下線部に修正
2、旧石器時代から始まる列島の歴史を明鶴に位置づけ、世界的な視野から人類の営みを考える視点を育むこと。
(修正案例文)
第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年) 3内容の取り扱い(1) …P32
イ 歴史学習全体を通して,我が国は旧石器時代からはじまる長い歴史をもち伝統や文化をはぐくんできたこと.我が国の歴史は政治の中心地や世の中の様子などによって幾つかの時期に分けられることに気付くようにすること。…下縁郷追加
現行の学習指導要領については、パブリックコメントの段階から要望として意見をしたが、その効果は反映されず、声明文や要望書は、中央教育審議会の議論がスタートするタイミングに合わせて提出する必要があることがわかる。次期、学習自動要領改訂に向けてのスケジュールは、これまでの経過を考えると、ほぼ、以下の通りと予測されるが、次期学習指導要領の改訂については、まだ、はっきりとした動きがみられない。
4、予測される次期学習指導要領の改訂の流れと2014.声明文の提出(※2024文科省公表図をトレース)
細かなスケジュールについては未定であるが、来年度の2月から審議会の議論が始まるとした場合、平成26年5月の総会を経て文部科学大臣と中央教育審議会会長に選出し、委員会の構成が決定したところで、より、具体的な要望書を出すことが効果的と考えられる。
★2014年「学習指導要領の改訂に対する声明」 提出(文部科学大臣・中央教育審議会会長宛)
骨子:以下に示すように、改善されていない旧石器時代の取扱いについて解説書の問題に触れ、「旧石器時代」の取扱いを明確にする声明を提出(別紙参照)。具体的な改善については、解説書の内容の改訂よりも、学習指導要領で旧石器時代明示が望ましく、中教審の審議が始まる段階で、より詳細に改善点を示す要望書を提出する考えである。
・『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活を営んだ日本における人類史のはじまりについての説明がない。そのため旧石器時代について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていない。
・旧石器時代の研究については、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以降、全国で1万ケ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積がある。
・半世紀を超える研究によって、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されている。
・我が国の歴史を学ぶ上で、旧石器時代からはじまる歴史の推移と長く厳しい環境を克服してきた先人の営みが教科書の記述で取り扱われない現状は、学問の成果を教育に活かすという考えに逆行する。
・旧石器時代の人々の生活・文化は、世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、次第に日本列島独自の地域制を形成してきたことも明らかにされている。
・中学校の社会科(歴史的分野)においては、世界史的視野で人類の出現と旧石器時代の生活・文化について扱っているが、歴史を最初に学ぶ小学校段階から学習することで、小・中・高等学校の学習内容の連続性を意識した学習が進み、「伝統と文化の尊重、それらをはぐくんできた我が国の郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与」するとした教育基本法の理念を具現化するものと考える。
一般社団法人日本考古学協会(以下、日本考古学協会)は、1998年の小学校学習指導要領改訂によって、第6学年の歴史教科書から旧石器・縄文時代が削除され、歴史学習が弥生時代からはじまるという不自然な教育がおこなわれていることに対して、繰り返し改善要望を提示してきました。2008年の改訂において、歴史学習のはじまりが「狩猟・採集や農耕の生活」と改められ、小学校の歴史教科書に縄文時代の記述が復活したことは大きく評価されます。
しかし、『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていないという状況にあります。
旧石器時代の研究については、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以降、全国で1万ヶ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積があります。そして、半世紀を越える研究によって、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。我が国の歴史を学ぶ上で、旧石器時代からはじまる歴史の推移と長く厳しい環境を克服してきた先人の営みが教科書の記述で取り扱われない現状は、学問の成果を教育に活かすという考えに逆行するものです。
また旧石器時代の人々の生活・文化は、世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、次第に日本列島独自の地域性を形成してきたことも明らかにされています。これまでも中学校の社会科(歴史的分野)においては、世界史的視野で人類の出現と旧石器時代の生活・文化について扱っていますが、歴史を最初に学ぶ小学校段階で旧石器時代について学習することで、小・中・高等学校の学習内容の連続性を意識した学習が進み、「伝統と文化の尊重、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、他国を尊重し、 国際社会の平和と発展に寄与」するとした教育基本法の理念を具現化するものと考えます。
私たちは、人々の生活や社会の営みをより具体的に復元することのできる考古学の成果が歴史教育に活用されるよう、今後ともこの問題への取り組みを継続し、改善に向けての協力を惜しまない所存です。考古学を通じて、子ども達が我が国の歴史や先人の知恵を学び、よりよい未来に向けて逞しく育ってくれることを願ってやみません。
日本考古学協会は、次期の小学校学習指導要領改訂に際し、小学校第6学年の歴史学習に旧石器時代の取り扱いを明確に位置付けた改訂を強く望みます。
以上、日本考古学協会の名において、ここに声明する。
2014年5月17日
一般社団法人日本考古学協会第80回総会