関連する調査研究について公募し、制作したポスターの掲示・解説による発表会を開催している。応募された研究発表の内容は企画担当などによって審査され、ポスター発表が認められることになる。この取り組みは、高校生および高校の教育現場と考古学界・研究者を結ぶコミュニケーションの場として実施され、本年で9回目となる。昨年から応募件数が増加し今回は16件の応募があり、全ての発表が採用となった。ポスターデータは、日本考古学協会公式サイトで公開され(5月26日から6月7日)、『日本考古学協会第90回総会研究発表要旨』に概要が掲載された。会場設営にご尽力頂いた千葉大学実行委員会の皆様に厚くお礼申し上げる。
今回の発表は、昨年と同様に歴史部や郷土部などの部活動のほか、個人の参加もみられた。部活動として顧問の先生と一緒に団体参加する学生が多い中、たった一人で参加する勇気ある高校生が増加していることは注目に値する。後継者不足が心配される世の中だが、我々の業界にはそのような心配はいらないようだ。例年は2〜3件を優秀賞として表彰しているが、今年は奨励賞を新たに設け、優秀賞3件、奨励賞4件を表彰した。このような表彰の枠組みを来年以降も継続するかどうかは、企画担当を中心に改めて検討することになる。
(企画(高校生ポスターセション)担当理事 足立拓朗)
優秀賞受賞者および発表題目/辻秀人会長による講評
K10 岐阜県立関高等学校 地域研究部「『東美濃三カ所城』の調査-戦国期の国衆と城下町-」
「東美濃三カ所城」の実態を現地で詳細に調査し、その知識をもとに城下町の復元を試み、それぞれの城の役割を検討し、その後の展開も見通した。調査の精度、歴史的な理解に優れており、優秀な研究成果である。
K12 鳥取県立青谷高等学校 青谷学Ⅱ(文学歴史コース)・弥生文化探究「青谷上寺地遺跡水田の復元-実験水田とバケツ栽培からのアプローチ-」
弥生時代大集落青谷上寺地遺跡で発見された水田跡から全国の水田を調べ、水田を復元して実際に栽培して収穫量を導き出した。そして、いくつかの条件を変えた上で比較検討を行った。長期にわたる栽培を地道に実行し、その結果を科学的に検討した点で高く評価できる。
K15 福岡県立糸島高等学校 歴史部「荒牟田1号墳出土象嵌鍔の検討」
同校所存の大刀鍔で発見された銀象眼文様の分類を行い、その編年を組み立て、品質を検討した研究である。その研究手法は考古学研究者が一般的に行うもので、本格的な考古学研究になっている。その歴史的な位置づけは今後さらに検討する必要がある。
奨励賞受賞者および発表題目/辻秀人会長による講評
K02 福島県立相馬高等学校 郷土部「三貰地貝塚と泣く土面に関する考察」
同校所蔵の三貫地貝塚出土土面を具体的に観察し、土面に表現される筋の意味を探った手法は考古学的に妥当と評価される。3Dプリンターで複製を作成する最新の技術を駆使したことも評価できる。
K04 茨城キリスト教学園高等学校 松原彩名「虎塚古墳を未来へ」
史跡虎塚古墳が知られていない現状を指摘し、その改善のための方策を模索するとともに、具体的な提言を行った。高校生の視点からの提言は尊重されるべきである。
K11 岐阜県立関高等学校 日本史教科書研究会「学ばせたい、 学びたい、学ぶべき-日本史教科書考古学分野の比較研究-」
日本史教科書の比較研究である。文科省、出版社、執筆者の意図などの視点を明確にしている点が評価できる。また、生徒自身がコラムを作成するなど、主体的な取り組みが独創的で好感を持てる。
K14 九州産業大学付属九州産業高等学校 河野丹生・福岡県立博多青松高等学校 河野若葉「ヤマト政権における埋葬施設での赤色顔料利用の起源」
古墳時代の赤色顔料の分析をもとに歴史状況を考える研究である。ヤマト政権の下で広がる朱とベンガラの同時利用の期限が九州糸島地域にあり弥生早期に遡るとする推論を展開した。弥生から古墳時代への展開を踏まえた好論で今後の展開が期待される。