HOME > 文化財保護 > 要望書


埋文委第19号

2004年11月24日

文化庁長官   河合隼雄 様
和歌山県知事  木村良樹 様
和歌山県教育長 小関洋治 様
岩出町長    中芝正幸 様
岩出町教育長  數見之男 様
日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 近藤英夫

根来寺遺跡「大門池地区」の保存に関する要望書

 標記の件について、別添書類の如く、当該遺跡の学術上の重要性に鑑み、早急なる保護・保存対策を実施されますよう要望いたします。日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、現在、岩出町教育委員会が実施しております図書館建設に伴う大門池の確認調査によって、根来寺遺跡における当該地区の重要性はさらに高まったものと判断されます。このうえは、文化財の保護は行政の責務であることを深く認識され、大門池およびその歴史的環境の保護・保存対策を速やかに講じられますよう要望するものです。

 なお、当件の具体的な措置、対策については12月15日(水)までに、ご回答を下さるようお願いいたします。

一、別添書類 一通

以上

埋文委第19号
2004年11月24日
文化庁長官   河合隼雄 様
和歌山県知事  木村良樹 様
和歌山県教育長 小関洋治 様
岩出町長    中芝正幸 様
岩出町教育長  數見之男 様
日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 近藤英夫

根来寺遺跡「大門池地区」の保存に関する要望書

 和歌山県那賀郡岩出町に所在する根来寺遺跡は、和歌山県のみならず日本を代表する中世遺跡として全国的にも広く周知されており、学術上きわめて重要な内容と意義をもっています。本委員会ではその重要性に鑑み、埋文委第5号(平成16年6月7日付)で、大湯屋遺構・坊院遺構を史跡として保存・整備するとともに、大門池周辺地域の歴史的景観の保全、根来寺遺跡の旧寺域全体の整備・活用等を要望し、多大な関心をもってその後の動向を見守ってまいりました。

 今回の岩出町教育委員会による確認調査では、根来寺遺跡大門池地区の重要性をさらに高める多くの成果が挙げられています。すなわち、(1)土堤の土層断面からは中世以降、堤体の維持管理や補修・拡張が永い歳月にわたり続けられてきたことを如実に物語っており、大門池が中世以来の地域や根来寺の歴史を考える上できわめて重要であることを改めて確認できたこと。(2)池堤体の内側法面に施された礫葺構造や礫層下シルト層内の敷葉工法など、中世における土木技術の展開過程を考える上で注目すべき重要な新知見が明らかとなっております。さらに大門池は、池自体が根来寺外郭部として寺院境界のあり方を示す希有な事例として重要な意味を持っており、中世史料にも記載のある大門池が、根来寺遺跡の寺域構成上不可欠な要素となっていることは明白です。

 しかしながら、以上のような重要な成果が挙げらているにもかかわらず、確認調査の目的や方法・進め方は、きわめて不十分なものでしかないと判断せざるを得ません。しかも確認調査と並行して、池の範囲内では図書館建設の基盤工事が進捗している状況は大変に遺憾であり、文化財保護行政上重大な危惧を感じざるを得ません。

 根来寺の旧寺域内には、現在でも坊院の区画が数多く遺されており、中世の歴史的景観を大変良く留めております。その状況はこれまでに実施されてきた発掘調査でも把握されており、学術的にも高く評価されています。根来寺遺跡は岩出町が誇るべき歴史的遺産であるとともに、日本の歴史を考える上からもきわめて重要です。この大門池と周辺環境が損なわれるならば、将来望まれる根来寺遺跡一帯の史跡化に際し、その価値を大きく損なうことは必定であります。

 以上のことから日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、今回の確認調査で改めて明らかとなった根来寺遺跡「大門池地区」の重要性から、以下の点を強く要望いたします。

  1. 現在進められている図書館建設の基盤工事を即刻中止し、大門池の破壊を止めること。
  2. 中世の灌漑池・寺院・城郭・古環境復元などを専門とする研究者で構成される調査委員会を、文化庁との協議により早急に設置し、その指導の下に改めて「確認調査」の実施計画を策定するとともに、現在実施されている「確認調査」の方法・進め方を抜本的に見直すこと。
  3. 岩出町立図書館の建設計画を変更して、大門池および周辺地域の歴史的景観の保全策を講じるとともに、大門池地区を含む根来寺遺跡の旧寺域全体を国民的遺産として保存・整備し、将来にわたりその保護・活用を図ること。
以上